「102便をこの飛行機で運航するのは、今日が最後です。私は10年ほどこの飛行機を操縦してきましたが、リクライニングもできず、狭い機内であることを大変心苦しく思っていました。満席に近いお客様にご搭乗いただき、心より感謝申し上げます」
2月19日、2000年3月から16年間に渡り、天草エアライン(AHX/MZ)が唯一運航する飛行機として多くの乗客を運んできた、わずか39席の小型ターボプロップ機、ボンバルディアQ100(DHC-8-103)型機(登録番号JA81AM)「みぞか号」が退役した。
記者(私)はこの初代みぞか号の最終便と、翌日の2代目就航を取材するため、19日早朝に東京を発ち、午前9時5分福岡発の102便で天草に入った。冒頭の機内アナウンスの声の主は、谷本真一機長。飛行機が離陸後、水平飛行に入ってしばらくすると、乗客への感謝の気持ちと操縦桿を握り続けた10年間の思いを語った。
たった1機の飛行機で運航する天草エアライン。ずっと飛んできた機体に社員は愛着を持っている。そして、2代目となるATR42-600型機(登録番号JA01AM)も、社員総出で出迎えた。
—記事の概要—
・最初はイルカ号
・機内で抽選会
・出発する姿、悲しいね
・いつも通りが難しい
・写真83枚
写真特集・天草エアみぞか号、初代から2代目へ(全3回)
(2)「あっという間に行っちゃった」(2代目編)
(3) 新制服はちょっと派手?!(新制服編)
本特集では、初代の運航最終日と2代目の就航初日の様子を、写真で振り返る。
最初はイルカ号
初代みぞか号は、天草空港の開港や天草エアラインの就航と同じ2000年3月23日に運航を開始。「かわいい」を意味する天草の方言「みぞか」を冠した機体は、同社唯一の機材として16年間に渡り、天草-福岡線と熊本線、熊本-伊丹線などの路線で多くの乗客を運んだ。
就航当初はイルカの姿が見られる天草にちなみ、白を基調とした機体に水色のイルカを描いた、小学生のデザインによる「イルカ号」だった。みぞか号となったのは2013年2月25日。横田青史氏のデザインで、機体が親イルカの「みぞか」、左エンジンは「はるちゃん」、右は「かいくん」と名付けられた子供のイルカが描かれた。
最終日の19日は、天草-福岡線を2往復4便運航。多くの乗客が機体を乗り降りする際、みぞか号の姿をデジタルカメラやスマートフォンに収めていた。
機内で抽選会
天草エアラインには、名物CAとしてメディアに登場する機会も多い太田昌美部長をはじめ、5人の客室乗務員がいる。102便には村上茉莉子さんが乗務しており、約30分と短い飛行時間ながらも、みぞか号の模型が当たる抽選会を開き、乗客全員に搭乗証明書とポストカードを手渡していた。模型は天草に到着後、当選した乗客にプレゼントされた。
私が天草エアラインに乗るのは、今回で3便目。1月7日に2代目みぞか号が天草へ到着する様子を取材した際、福岡-天草線を往復で乗って以来だ。
この時、私は6日夜に天草へ到着。初代みぞか号の機内撮影を終えると、うっかりノートパソコンを機内に置いたまま降りてしまった。すると、パソコンを手にした村上さんが、駆け足で追いかけてきてくれた。
危うく商売道具をなくすところだった私を助けてくれた村上さん。降機の際、前回の御礼をしていると、「さっき私、搭乗証明書を逆さに持っていたかも」と、私が機内で撮影した写真を気に掛け、再び撮影に応じてくれた。天草エアラインの社員は皆、取材に訪れる者を温かく迎えてくれる。
撮影を終え、谷本機長の機内アナウンスに感激したと話すと、「私も思わず泣きそうになりましたよ」と、村上さんの心にも響いたようだった。
私が降機してしばらくすると、最終運航に向けて機体の点検が始まった。2代目就航後の運航スケジュールでは、102便が天草へ午前9時40分に到着後、午前10時5分には201便として熊本へ向かう。しかし、19日までは機種移行のため減便しているため、午後6時に天草を出発する福岡行き最終の107便まで、初代が飛ぶことはない。
出発する姿、悲しいね
ターミナルに入ると、出発ロビーには「ありがとうDHC-8-103 16年間おつかれさま」「ATR42-600 2016年2月20日 日本初就航」と書かれた社員手作りのボードが置かれていた。初代の就航からこれまでの足跡や、2代目のアピールポイントが書かれたものだった。
吹き抜けに目を向けると、多くの人が別れを惜しむ言葉を寄せた「さよならDHC8」と書かれた横断幕が掲げられていた。
夕方になると、福岡行き107便の乗客が集まってきた。午後6時の出発時刻が近くとなると搭乗開始となり、ドアを閉める直前には、客室乗務員の井上紗綾さんが展望デッキに向けて大きく手を振った。午後5時57分に社員らに見送られて天草を出発した。「出発する姿が悲しいね」。見送った人からは、こんな言葉が聞かれた。
107便を送り出すと、ターミナル内では明朝の2号機就航セレモニー用意が始まった。吉村孝司社長ら社員が総出でイスの向きを変えたり、カーペットやバックパネル、マイクを準備していった。
いつも通りが難しい
初代みぞか号による最後の運航便、福岡発天草行き108便は、定刻では午後7時5分に出発し、午後7時40分には天草へ着く予定だった。ところが福岡空港が混雑していたことや天候が悪化したことで、出発は午後7時17分、到着も午後7時52分になった。最終便に乗っていた人の話では、機内はかなり揺れたという。
最終便到着後は、ターミナル内でささやかなセレモニーが開かれた。
「16年間無事故でがんばってくれた。総飛行距離は約1250万キロメートルで、地球を約310周まわったことになる。運んだお客様は約120万人で、傷だらけになりながらがんばってくれた」。吉村社長は、初代みぞか号の労をねぎらった。
運航を終えたパイロットと客室乗務員がターミナルに到着すると、将来はパイロットになりたいという男の子が、谷本機長にみぞか号の絵をプレゼントした。
谷本機長に感想を尋ねた。「福岡行きは私が操縦したのですが、帰りは副操縦士に託しました。何度となく天草を離着陸していますが、いつも通りに飛ぶことが難しいですね」と、同じように飛び続けることの難しさを語った。
ターミナルの閉館は午後8時30分だが、多くの人が閉館直前までパイロットや客室乗務員と記念撮影をしていた。
(2代目就航初日につづく)
*写真は83枚。
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