全日本空輸(ANA/NH)は、2016年1月から愛媛県が開発したデルフィニウムの新品種「さくらひめ」を活用した地域ブランディング活動を実施する。
元日に実施する初日の出フライトや、羽田発着の地元・松山便などで、客室乗務員がさくらひめのコサージュを着用し、県とさくらひめをピーアールするものだ。
花好きの整備士
ANAでは、グループ社員の自発的提案活動を「ANAバーチャルハリウッド」と名付けている。2013年、中部空港(セントレア)発着のチャーター便で実施した“空の上の結婚式”は、バーチャルハリウッドで客室乗務員が提案したもの。今回のさくらひめの活用も、社員の提案がきっかけだった。
花を使って乗客との接点を作れないか──。この企画の実現に向け、ANA側で中心となったのが、ANA便の整備を手掛けるANAラインメンテナンステクニクスの整備士、田中洸史郎さんや同期の小南(こみなみ)輝幸さんら10人のメンバーだった。
田中さんと小南さんは花好きで、共に子供のころから家庭で花と接点があり、花を介した乗客との接点作りをテーマとして取り上げた。活動を進めていく中で、愛媛県から相談があった「さくらひめ」のピーアールと結びついた。
さくらひめのプロ-モーション活動の一環として、2016年1月1日に羽田発着で運航される初日の出フライト乗務する客室乗務員が、さくらひめのコサージュを着用。4日から11日までは、羽田-松山線と伊丹発着の一部便で、さっぽろ雪まつりが開催される2月には、羽田-札幌線で4日から11日までの一部便でも着用する。
コサージュの着用だけではなく、さくらひめをイメージした商品開発などで、客室乗務員が企画やアンケートなどに協力していく。また、成田と羽田のラウンジにも受付にさくらひめを置く。
まさか知事が来るとは思わなかった
田中さんは「男の整備士が花好きというのは、意外に思われるかもしれないですね」と笑い、こんな出来事を話してくれた。
「羽田で八丈島便の整備をしていた時、到着したお客様から花をいただきました。自分自身が花好きなこともあって、うれしかったです」と振り返る。以前から花を活用して、乗客に喜んでもらえる企画を実現しようと、漠然と考えていたものの、なかなか実現させる機会がなかった。
田中さんが乗客から花をもらったのは、ちょうど資格試験を終えたばかりの時期だった。本業である整備士の仕事が一段落したことで、実現に向けて動き始めた。「自然の少ない都会で、花を通じて自然を感じてもらいたいという思いもあったんですよ」と田中さんは話す。
企画を実現する上で課題となったのは、乾燥する機内で花の鮮度を保てるようにすることだった。せっかく客室乗務員がコサージュを着用しても、花がしおれてしまっては意味がない。
「メンバーの客室乗務員に試用してもらい、水の入った小さなポットを底に用意するなど、改良を重ねていきました」(田中さん)と、さまざまな部署から企画に賛同した人が集まる、バーチャルハリウッドのメリットを活用して実現にこぎ着けた。
企画に携わっている客室乗務員、ANAの保田香織さんとANAウイングス(AKX/EH)の田中綾乃さんも、花が好きで名乗り出た。地方路線が多いANAウイングスで乗務する田中さんは、「花で地方を結びたいですね。社員のモチベーション向上にもつながると思います」と、花が人にもたらす力に期待を寄せる。
12月22日、愛媛県の中村時広知事が東京・汐留のANA本社を訪れた。保田さんと田中さんには、コサージュと県の名産品である宇和島真珠を使った飛行機型タックブローチが贈られた。メンバーたちは、まさか知事が本社を訪れる大掛かりな話に進展するとは、思ってもみなかったという。
元日の初日の出フライトは、御来光と初富士が目玉だが、鮮やかなピンクのさくらひめも、乗客の心に残るだろう。
・ANA、デルフィニウム新種「さくらひめ」で愛媛をPR CAがコサージュ着用(15年12月22日)
・空の上の結婚式、セントレアで挙行 ANA現役チーフパーサーが発案(13年10月21日)