エアバスA380やボーイング747のような4発機と比べ、大型双発機は機内がうるさい──。エアバスの最新鋭旅客機A350 XWBに乗った記者(私)の感想は、そんな印象をガラリと変える静かな飛行機だった。(日本最終日の離陸シーンはこちら)
11月20日、エアバスがA350の内覧会に先立ち、日本で初導入する日本航空(JAL/JL、9201)などの関係者や報道陣を招待した1時間ほどの試乗会を開いた。乗客82人を乗せて羽田空港を出発し、伊豆半島や富士山を経て名古屋付近で折り返し、大島や房総半島を経て羽田に戻った。
使用機材は19日に羽田へ到着したA350の標準型「A350-900」の飛行試験5号機(MSN5、登録番号F-WWYB)。座席数はビジネスクラスがスタッガード配列で横1列4席の42席、エコノミークラスが横1列9席で223席の合計265席で、いずれもエアバスがデモ用として搭載しているもの。JAL機に搭載される座席は、今後選定される。操縦もエアバスのパイロットが担当した。
静粛性や快適性を売りにするA350。実際はどのような機体なのだろうか。
全員分のスーツケースを機内収容
まずはA350の特長を見てみよう。
A350は3機種で構成され、座席数はメーカー標準仕様で短胴型のA350-800が276席、A350-900が315席、長胴型のA350-1000が369席。JALは777の後継機として、A350-900を18機、A350-1000を13機の計31機を確定発注し、オプション(仮発注)の25機を含めると最大56機の購入契約を締結している。運航開始予定は東京五輪目前の2019年で、現在保有する777を6年程度で置き換える。777で運航している長距離国際線や羽田-札幌、伊丹、福岡、那覇線のような国内幹線に導入する見通しだ。
胴体は53%がカーボンファイバー、14%がチタンと軽量化を進めている。客室内は高度6000フィート(1829メートル)以下の状態を一定に保て、快適性を向上させた。ビジネスクラスやエコノミークラスといったゾーンごとに空調をきめ細かく管理でき、機内の空気も2-3分ごとに入れ換える。
客室幅は5.61メートルで、777の客室幅5.86メートルとほぼ同じ。エコノミークラスでは、18インチ(45.72センチ)幅のシートを横1列9席並べられる。777の胴体が真円なのに対してA350は卵形のため、客室幅がほぼ同じでも圧迫感を感じにくい形状になっている。窓の大きさは787と比べて高さはやや小さいが、幅はほぼ同じ。また、すべてを床下配線にしたことで、床の表面はフラットだ。
頭上の手荷物棚(オーバーヘッドビン)も大きくなった。近年利用する人が多いキャスター付きスーツケースを、タテにして収納できる。これにより、全クラスの乗客がこうしたスーツケースを機内に持ち込んでも、自席の近くに収納できる。窓側の棚はスーツケースが5つ、中央の棚はスーツケース3つと中型バッグ2つが入る。
機内照明も787のようにLEDを採用。LEDの寿命は機体とほぼ同じで、1670万色を使用でき、日没や日の出を演出することも可能。エアバスのA350 XWBマーケティングディレクター、マイク・バウザー氏は、「クラスごとに異なる照明にもできる。ここからあそこまではビジネスクラス、というクラス分けにも使える。ムードライティングで、航空会社のブランドカラーを使うこともできる」と説明する。
機内エンターテインメント(IFE)のシステムも、第4世代のものを採用。各席のモニターがワイドスクリーンになるほか、座席下のIFE機器がなくなることで、足もとがより広くなる。
エンジンや空力特性の見直しも進んでいる。エンジンは騒音の発生を抑えた英ロールス・ロイス社製トレントXWBを搭載し、777やA340-600と比べて燃費や1座席あたりの運航コストを25%改善する。
「A380のフライトデータをすべて使い、A350を設計した」(バウザー氏)。フラップの出し方を従来から変更し、鳥の羽に近い形状を取り入れることで、空力特性を改善しているという。
こうした改善の積み重ねが、静粛性や快適性の向上につながっている。
静かで快適
では、実際の乗り心地はどうなのだろうか。
羽田空港の90番搭乗口からバスで移動し、JALの格納庫前に駐機された機体に乗り込んだ。記者の座席は機体中央のエコノミークラス、翼上の26A席。空力特性を良くするために翼端がせり上がっているのが特徴的だ。
大型のオーバーヘッドビンのおかげで、荷物の多い記者も手荷物をしまうのが楽だった。これなら搭乗時に手荷物を置く場所を確保するために、早くから搭乗口前に並ぶ必要もなさそうだ。もっとも置く場所が広がれば、その分手荷物を持ち込もうとする人が出てくる可能性は高いが……。
午後0時43分、機体が動き出した。機外を映すカメラが垂直尾翼と機首2カ所の全3つあり、自席のモニターで切り替えることができる。787はこのカメラがなくなったが、A350は航空会社が選択すれば取り付けられるようになっている。
エンジンの始動も、777と比べると同じ大型双発機とは思えないほどの静かさだったのが印象的。各社の格納庫前を走行しながらD滑走路へ向かうが、徐々に雨が降ってきた。
午後1時4分、D滑走路(05)から離陸。この時も至って静か。ランディングギアの格納も、これまでのように「ガタン、ガタン」と機内に響き渡るものとは別次元だった。巡航高度に達すると、1時間程度のフライトながら、機内サービスが行われ、シャンパンや機内食が配られた。
機内アナウンスでシャンパンと言っていたので、スパークリングワインではないようだ。エアバスが用意したワンプレートの機内食には、パンやオードブル、4種類のデザートが載っていた。少人数向け機内食だからか、街中で食べる弁当類よりもよほどおいしかった。エアバスの仏トゥールーズ工場や独ハンブルク工場の食堂も、社内の施設とは思えないレベルのおいしさなのだが、それを想起させる食に対するこだわりが感じられた。
機内の話に戻そう。エコノミークラスのテーブルは、最近国際線で主流になってきた折りたたみ式で、広げた状態ではドリンク用のくぼみは左手側、たたんだ状態では右側になっていた。記者は左利きのため、毎回機内でドリンクを置く位置が右手側なのが非常にストレスだったが、この部分は評価できる点だ。
シート幅も18インチとボーイング機で主流の17インチより余裕があり、エコノミークラスの割には座り心地が良かった。
機内各所を取材していると、あっという間に着陸態勢に入った。ランディングギアが出る際も、轟音が響き渡る印象はなかった。そして、羽田のA滑走路(34L)に午後2時4分着陸。JALの格納庫前には午後2時13分に到着した。
わずか1時間程度のフライトのため、「高度6000フィート以下の状態を一定に保てる」という売り文句の効果なのかはわからないが、巡航中の機内は気温24.6度、湿度23%で、のどが極度に渇いたり、フライト後独特の疲労感のようなものはなかった。
離着陸を含めてエンジンは静かだった。これも定員265人に対して82人では30%程度しか乗っておらず、貨物が積まれているわけでもないため、商業運航の状態でも同様の静粛性が得られるかは、再度評価する必要がある点だ。それでも、機体やエンジンから発せられる騒音が抑えられているのは明らかで、20年前にデビューした同クラスの777と比べると、明らかに技術の進歩が感じられた。
A350のローンチカスタマーであるカタール航空(QTR/QR)へは、年内に初号機が引き渡される。飛行試験機ではなく、実際の商業運航でもA350の快適性と静粛性を体感してみたいものだ。
*20日の試乗会後に行われた内覧会の詳報は、機内編がこちら、機体編がこちら。
写真特集・エアバスA350 XWB
最新鋭機はエコノミーもゆったり 機内編(14年11月25日)
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