前編からのつづき。本田技研工業(7267)の米国子会社ホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)が開発した小型ビジネスジェット機「HondaJet(ホンダジェット)」は、2024年2月に250機目を顧客に引き渡した。2015年12月の初納入から約8年で到達した。
ホンダジェットはHACI前社長兼CEO(最高経営責任者)の藤野道格さんが設計し、開発責任者を務めた。量産初号機は現地時間2014年6月27日午前10時18分(日本時間27日午後11時18分)に、HACI本社がある米ノースカロライナ州グリーンズボロ市のピードモントトライアッド国際空港を離陸し、初飛行に成功。FAA(米国連邦航空局)の型式証明を2015年に取得し、これまでに日本を含む14カ国で取得している。
2018年に最初の改良型で航続距離を延ばし、客室内の静粛性を高めた「HondaJet Elite(エリート)」を発表。2021年には最大離陸重量を200ポンド(約91kg)増やし、航続距離を最大120海里(約222km)延ばせるようになった「HondaJet Elite S(ホンダジェット・エリートS)」、最新型で自動化を進めた「HondaJet Elite II(ホンダジェット・エリートII)」は2022年10月18日に発表した。今後は1つ上の機体サイズとなる「ライトジェット機」クラスに参入し、開発中の「HondaJet Echelon(ホンダジェット・エシュロン)」が2026年にも初飛行する計画だ。
後編では、藤野さんに日本で求められる航空機開発の人材や、カギになる点を聞いた。
—記事の概要—
・型式証明で日本に何が必要か
・型式証明はゴールではない
*前編はこちら。
型式証明で日本に何が必要か
── 型式証明について日本に何が必要ですか。
日本では、米国の「Part21」のような型式証明に関わるプロセスが明確に示されていないので、開発者からしますと型式証明プログラムが非常にやりにくい一面があると思います。技術基準だけではなく、型式証明に必要なプロセスが明確に定義されていなければプロジェクトを効率よく推進することは難しいでしょう。
型式証明を取得するには、Type Designに対するComplianceとともに、認定試験を行う際のConformity、そしてConfiguration Managementなどもきちんと理解しておくことが大切です。
また、技術面でみますと、経験やノウハウがない領域では、DER(Designated Engineering Representative)などの知見を有効に活用し、ノウハウを吸収して進めることは必要だと思います。
しかし、注意しなくてはいけないのはDERと一口に言っても、経験や技術レベルに大きなばらつきがあります。経験や意見を仰ぐ時には、能力や経験のあるDERであることをきちんと見極めることが必要です。
よくある例ですが、日本人は「DERの言うことはすべて正しい」というような錯覚を持ってしまい、すべてをむやみに信じてしまうことがあります。日本の技術者も非常に優秀な方がいますから、適切なDERの人選をし、かつ全体のバランスを取りながら航空機の開発を正しい方向に進めていくことが大切だと思います。
── 人材面では日本にはどのような能力を持つ人が必要ですか。
航空機全体の型式証明では、全体像を理解して推進できる人材が必要です。そして、そういう人を日本でも育てないといけません。これはJCAB側にも同じことが言えるのではないでしょうか。
個別の専門分野の技術的判断だけでは、航空機開発プログラムを成功させることは難しいと思います。私はFAAの担当者だけでなく、ワシントンD.C.の認定部門のトップとも直接仕事をしてきましたが、彼女(彼)らは認定プロセス全体をきちんと理解しています。
航空機の認定では、人から人への認定ノウハウの継承が大切です。Document(文書)だけではありません。アメリカの航空機メーカーであっても、マネジメントが変わり、人も入れ替わって技術が継承されず、技術判断の誤りなどにより、開発プログラムが暗礁に乗り上げたりすることもあります。
また、有能な人材が流出してしまうと、全機の開発能力、認定能力を失うこともあります。航空機メーカーであった会社が、あっという間に部品メーカになってしまうこともあります。
航空機開発や型式証明のノウハウというものは、単にドキュメントが会社に残っているというだけでは不十分で、経験のある人材が継承され、ノウハウを伝承していくことが最も重要なことだと思います。そして、そのような人材を繋ぎ止めるにはマネジメントの能力が必要なのです。同じことが認定を承認するAuthority側にも言えると思います。
型式証明はゴールではない
── 航空機開発の心得は。
航空機の開発や型式証明の取得は簡単にはできません。多くの人たち、サプライヤー、Authorityなどが関わっていて、すべてが予定通りに進むこともないでしょう。全体を俯瞰(ふかん)しながら細部にも目を向け、ベストなバランスをとりながらプログラムを推進していくことです。
初めて航空機を開発して型式証明を取得しようとする時の困難さは、想像を超えるものだと思います。一つずつ経験を積み、その時々でベストを尽くして、最善の判断を下して進めていくことが大切です。色々な人から、色々なことを言われることもあるでしょう。信念を持ってくじけないで取り組むことが必要です。
もう一つ重要なことは、型式証明を取ることは非常に大変なことですが、航空機開発の最終のゴールではないということです。型式証明を取るためのEffortが非常に大変であるため、開発の後半になるとプレッシャーから、あたかも型式証明を取ることだけがゴール(目的)のようになってしまい、商品性(性能など)を犠牲にしてしまうことがあります。常に商品と型式証明のバランスを見失わないことです。
型式証明を取得できたとしても、結果として開発した航空機が商品としての競争力がなくなってしまうと機体が売れずに終わってしまうことになります。
開発のリーダーが目指すべき最終目的は、商品としての競争力のある航空機を作り上げ、顧客に納入することであることを、常に心に留めておくことが必要だと思います。
(おわり)
関連リンク
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前編 日本で型式証明を取得するには何が必要か
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