ZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)の西田真吾社長は10月10日、新路線の成田-ヒューストン線で中南米の需要も取り込む意気込みを示した。将来的には米国東海岸や南部といった就航地も検討する考えを示した。一方、欧州路線はロシアによるウクライナ侵攻終結までは難しいとの見通しを語った。
—記事の概要—
・「迂回して欧州しんどい」
・駐在員の一時帰国需要発掘
・「若者がチャレンジしやすい環境を」
「迂回して欧州しんどい」
米南部テキサス州ヒューストンは、ZIPAIRが就航するもっとも遠い目的地となり、2025年3月4日からボーイング787-8型機(2クラス290席)で週4往復運航。西田社長は「ヒューストンは我々にとって大きな転換点。成田から往復28時間くらいかかり、24時間を超える路線を初めて運航する。中南米のマーケットにもアクセス可能だ」と語った。
これまでの最長路線は、2021年12月25日に開設した成田-ロサンゼルス線。日本を含む世界のLCC(低コスト航空会社)では初の太平洋横断路線となった。西田社長は「太平洋を渡る初のLCCになるんだ、という意思で事業運営を行ってきた。ロサンゼルス線は往路が10時間弱、復路が11時間半で、駐機を入れて24時間くらいだった。この殻を破り、24時間を超えた路線に就航する」と説明した。
また、ZIPAIR全体の運航率が「2023年度は100%、2024年度も現時点で8月の台風による欠航を除くと100%だ」と、往復24時間かかるロサンゼルス線を運航していても、運航率100%を維持できている実績と自信が、さらなる長距離路線開設につながったという。
航空会社では一般的に、往復24時間以内の路線であれば、1路線あたり1機で1日1往復運航できる。これが24時間を超えると1日に2機必要になり、これまでとは異なるオペレーションを求められるため、ヒューストン線はZIPAIRにとって大きな転換点になる。
「北米の東海岸、南部のさらに先に我々の可能性が広がる意味を持つ路線」と、ヒューストン就航後の路線展開に言及した。
一方、同じ長距離路線でも欧州は様子見の状況が続く。「787で日本からロンドン、パリに飛んでいる航空会社もあるので、我々も可能性としてはできる。しかし、ウクライナ紛争が収まらないことにはどうにもならない。迂回(うかい)をしてまで欧州へ行くのは、我々にはまだしんどい。平和が訪れることを祈っている」(西田社長)と語った。
駐在員の一時帰国需要発掘
エネルギーや宇宙産業などで栄えたヒューストンは、トヨタ自動車(7203)など日系企業も多く進出。駐在員が日本へ一時帰国する際、年間の会社負担額が決まっているため、往来できる機会が限られていることから、安価な運賃を武器にこうした潜在顧客も取り込む狙いがある。
また、テキサス州は米国第2位の人口を誇る。就航するジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港は、ユナイテッド航空(UAL/UA)が合併前のコンチネンタル航空時代からハブ空港として活用しており、米国内や中南米への乗り継ぎ便が航空会社を問わず豊富であるため、米国-アジア間の流動に加えて、中南米のマーケット開拓も視野に入れている。
ZIPAIRはこれまで、旅行客や里帰りなどの親族訪問、ビジネス渡航、留学といった領域の利用者を獲得してきた。親族訪問は、外国人による北米-アジア間の需要が大きいが、これに加えて駐在員の一時帰国といったニーズにも対応していく。
また、米メジャーリーグ(MLB)ロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手の活躍など、日本人の活躍で現地観戦を楽しむ人も増えているという。「大谷選手とも、ドジャースとも何も契約をしていないのでタダ乗りと言われるかもしれないが、日本人のご家族が大谷選手のレプリカユニフォームを着ていたり、ドジャースの帽子をかぶっていらした」と、大谷選手のプレーを見に渡米する家族連れの姿を成田空港のカウンターで接客していた時に見かけたという。
「若者がチャレンジしやすい環境を」
一方で、日本人の海外渡航需要はコロナを境に冷え込んだままだ。円安や海外の物価高が主な要因と言えるが、一方で安価な運賃であればメジャーリーグの現地観戦に出掛ける人も出てきている。
ZIPAIRの日本人と外国人の比率は、日本人が3割で残り7割は外国人。西田社長によると、他社も含めた日本人全体の海外への渡航重要は「2019年の半分くらいしか戻っていないのではないか」と、特に海外の物価高が重しになっているとの見方を示した。
「日本は海外との関わりなしに生きていけない国。若い方にはぜひ海外へ行き、見聞を広げてチャレンジしていただきたい。行政や政府には、留学支援でも、国際交流支援でも、若い世代がチャレンジしやすい環境を諦めず続けていただければ」と思いを語った。
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