日本航空(JAL/JL、9201)が13機保有するボーイング777-300ER型機。2004年7月に就航し、最初の退役機となる4号機(登録記号JA734J)が8月20日、ラストフライトを終えた。当初は19日で退役する予定だったが、機材繰りで羽田-シドニー線をもう1往復することになり、予定していた便と同じシドニー発羽田行きJL52便で商業運航から離れた。
退役延長は急きょ決まったこともあり、19日夕方に予定していた社員有志による出迎えは予定通り羽田第3ターミナルの111番スポットで行われた。集まった社員の中には、JALグループが成田空港近くで運営する古民家風レストラン「DINING PORT 御料鶴(ごりょうかく)」で、今年5月に親子でボランティアとして接客していた客室乗務員の母、親泊昌代さんの姿があった。
親泊さんは客室の責任者「先任客室乗務員」の資格を持ち、現在は後輩の客室乗務員たちをサポートする客室業務部創造戦略グループのマネジャーを務め、まもなく定年。「客室乗務員として、成長させてくれた飛行機でした」と振り返る親泊さんに、777-300ERとの思い出を聞いた。
—記事の概要—
・L1の光景は鮮明
・チーフ育成の立場に
L1の光景は鮮明
1985年にJALへ入社した親泊さん。英語が好きで、サービス業向きだと感じており、学生時代から客室乗務員を目指した。「国際線を飛ぶとなると、ファーストクラスを担当させていただくのがゴールではないのですが、目標でした。チーフ(先任客室乗務員)として、一番の醍醐味(だいごみ)というのがありましたね」と、客室乗務員になったからには、責任者の立場で乗客を出迎えたいと、自らが成長する目標の一つにしていた。
今回退役した4号機は、2005年7月26日にJALへ引き渡された機体で、親泊さんはその少し後にチーフへ昇格した。
「やはりニューヨークやロンドンといった長距離路線は看板路線です。ニューヨーク行きのファーストクラスで、お客様をお迎えした際は感動しました」と、長年目標としてきたチーフとしてのサービスをできたことは印象深いという。JALの777-300ERの場合、チーフは左最前方「L1」と呼ばれるドアが担当ポジションになる。「777のL1の光景は鮮明に思い出されますね」と振り返った。
JALは2004年から2009年にかけて、全13機の777-300ERを受領。ちょうど親泊さんが長距離国際線にチーフとして乗務し始めた時期と重なった機材だ。「2009年から2010年が一番チーフとして飛んでいた時期ですね」と、全機そろったころがチーフとして思い出深い時でもあった。
チーフ育成の立場に
2010年1月にJALが破綻。再生後の象徴とも言えるのが、777-300ERの新仕様機「スカイスイート777」で、2013年1月に就航した。当初は二次破綻もささやかれ、社員たちはもう後がない、という思いで会社のあり方やサービスを見直していた。そのさなかの2012年に管理職となった親泊さんは、今度はチーフを育成する立場に変わっていく。
運航便の客室乗務員のひとりとして乗務しながらアドバイスする便もあれば、編成外の客室乗務員として同乗し、チーフを育成することもあった。このため、自らチーフとしてスカイスイートに乗務したのは数えるほどだったという。
このため、現行のスカイスイートよりは、改修前の「オレンジ色のテーブル」(親泊さん)のファーストクラスにチーフとして乗務した思い出が詰まっているそうだ。
羽田へ戻った4号機を見た親泊さんは、「自分自身を成長させてくれたのが777でした。お疲れさまでした」と声を掛けた。
◇ ◇ ◇
「私にとっての働く女性像は、やはり母なんですね。いつも楽しそうに仕事をしている母の姿を見て、客室乗務員に挑戦したいと応募しました」
今年5月、JALグループの古民家風レストラン「DINING PORT 御料鶴」で、母の昌代さんとボランティアで接客する娘の真子さんの姿があった。2020年4月入社の真子さんは就職活動を始めた際、幼い頃に昌代さんが乗務で不在がちなことで寂しい思いをしたこともあり、客室乗務員になるつもりはなかったが、働く女性として思い浮かぶのは母の姿。他業種の内定を得ていたが、自らの意志を貫いた。
あまりにも突然の進路変更に昌代さんも戸惑ったが、幼いころから厳しく育てられた真子さんは、母と同じ道を歩むことになった。たまたま真子さんが乗務する便に乗り合わせた昌代さんは、客室乗務員として働く姿を見て「親ばかかもしれませんが、いきいきと仕事をしているのが一番うれしいです」と目を細めた。
777とともに歩み、もっとも身近な後輩の成長を喜ぶ昌代さんは、10月に定年を迎える。
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