エアライン, 官公庁 — 2024年8月6日 08:20 JST

ANA、777シミュレーターで宇宙飛行士候補者のCRM訓練 JAXAから受託

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 全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は8月5日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の日本人宇宙飛行士候補者を対象とした基礎訓練の一つである「心理支援プログラム」の実施企業に選定されたと発表した。5日は候補者に選抜された米田あゆさんと諏訪理(すわ・まこと)さんの2人が、羽田空港近くの総合訓練施設「ANA Blue Base(ABB、ANAブルーベース)」で、ボーイング777型機のフルフライトシミュレーターを使った訓練に取り組む様子を報道関係者に公開した。

ANAブルーベース内の777フルフライトシミュレーターでCRM訓練を受ける宇宙飛行士候補者の米田さん(手前)と諏訪さん(JAXA/ANA提供の動画から)

—記事の概要—
シミュレーターでCRM訓練
エンジン1発停止で代替着陸

シミュレーターでCRM訓練

 JAXAの基礎訓練は2年程度行われ、宇宙飛行士候補者は訓練終了後に審査委員会で認定されると宇宙飛行士になれる。JAXAによると、米田さんと諏訪さんは訓練が若干早めに進んでいるといい、10月にも認定審査が行われる見通し。JAXAが国内で基礎訓練を実施するのは今回が2回目で、前回は25年前だったという。

777のフルフライトシミュレーターでのCRM訓練を終えてANAの教官(左)と訓練を振り返る宇宙飛行士候補者の諏訪さん(中央)と米田さん=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAがJAXAから受託した心理支援プログラムは、国際宇宙ステーション滞在を含む長期ミッションに携わる宇宙飛行士に求められる行動特性の8つの要素「HBP-8(Human Behavior and Performance-8)」を構成する「自己管理」「チームワークと集団行動」「コミュニケーション」「リーダーシップ」「不協和対応」「状況認識」「意思決定と問題解決」を向上させるもの。

 ANAが提供するプログラムは、CRM(クルーリソースマネジメント)訓練、異文化適応教育、英語訓練を組み合わせたもので、5月8日から9月27日までの期間中、CRM訓練を24日間、異文化と英語を合わせて2日間の計26日間実施する。

 シミュレーターを用いたCRM訓練では、運航中のシステムトラブル発生や天候の急変といった事態に対応するシナリオを通じて、宇宙飛行士候補者同士でコミュニケーションを取りながら適切な判断を下していく能力を向上させる。

JAXAの米田さんと諏訪さんがCRM訓練を受けるANAブルーベース内の777フルフライトシミュレーター=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAブルーベース内の777フルフライトシミュレーターでCRM訓練を受ける宇宙飛行士候補者の米田さん(左)と諏訪さん(JAXA/ANA提供の動画から)

ANAブルーベース内の777フルフライトシミュレーターから降りる諏訪さん(中央)と米田さん(左)=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

777のフルフライトシミュレーターでのCRM訓練を終えてANAの教官(左)と語らう米田さん(中央)と諏訪さん=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAでは、CRM訓練をパイロットや客室乗務員、整備士、運航管理者など運航に関わるスタッフに対して実施。今回はパイロット向けのCRM訓練とほぼ同じ内容で実施しているが、通常のパイロット訓練生向けでは自習となる運航に関する基礎知識を、宇宙飛行士候補者向けに座学の講座として用意したという。シミュレーターによる訓練は5日間で、5日は4日目の訓練だった。

 ANAフライトオペレーションセンター訓練業務部の鈴木直也部長は「4人くらいの教官が担当しているが、2人の進捗の早さ、理解度の高さに驚いている」と話した。JAXAから受託したのは2023年11月で、5カ月ほどかけて心理支援プログラム向けの内容を固めたという。

777のフルフライトシミュレーターでのCRM訓練を終えた諏訪さん(先頭)と米田さん=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

777のフルフライトシミュレーターでのCRM訓練を終えて報道関係者に手を振る米田さん(中央)と諏訪さん(右)=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

エンジン1発停止で代替着陸

 5日のシミュレーター訓練は、777で羽田-伊丹線を往復するシナリオで、伊丹行きの往路は諏訪さんがコックピットの左席に座り機長役、米田さんが右席で副操縦士役を務め、復路の羽田行きは左右交代して訓練に挑んだ。

CRM訓練を終えて取材に応じる宇宙飛行士候補者の米田さん(左)と諏訪さん=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 実際の運航と同様、機長役が主に操縦し、副操縦士役が管制官役との交信など役割を分担した。今回のシナリオは、往復とも2基あるエンジンのうち1基が途中で不作動となり、目的地を変更して着陸することが求められ、シミュレーターに同乗したANAの教官職の機長が管制官役も兼務した。

 訓練を終えた米田さんは「天候が悪く、片方のエンジンが停止した状態が一番ワークロードが高かった。モニターする諏訪さんが(代替着陸の)候補をいくつか挙げてくれて、滑走路の長さなどを考慮して成田を選択した」と振り返った。

 諏訪さんは「今までの訓練は快晴だったが今回は天気も悪く、一気にやらないといけなかったが、米田さんが積極的に提案してくれて、時間がない中でペースを作ってくれた」と、2人の連携が取れた訓練になったという。

ANAブルーベース内の777フルフライトシミュレーターでCRM訓練を受ける宇宙飛行士候補者の米田さん(手前)と諏訪さん(JAXA/ANA提供の動画から)

777のフルフライトシミュレーターでのCRM訓練を終えてANAの教官(手前)と訓練を振り返る宇宙飛行士候補者の諏訪さん(奥左)と米田さん=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

JAXAから受託した心理支援プログラムを説明するANAフライトオペレーションセンター訓練業務部の鈴木直也部長=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAグループでは、パイロットのCRM能力を5つに分類。「Communication(情報共有・意思疎通・主張)」「Team Building(チームワーク・リーダーシップ・環境設定)」「Workload Management(計画・優先順位・配分)」「Situational Awareness(警戒・状況認識・予測)」「Decision Making(意思決定・問題解決・振り返り)」の能力向上を図っている。

 2人はCRM訓練のほか、異文化適応教育は客室乗務員向けのもの、英語訓練はパイロット向けのものを受講し、9月まで訓練を続ける。

JAXA宇宙飛行士候補者の米田さんと諏訪さんがCRM訓練を受けるANAブルーベース=24年8月5日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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