エアライン, 官公庁, 解説・コラム — 2024年6月26日 18:20 JST

運航整備士の業務拡大や外国人操縦士の切替迅速化 国交省、人手不足対策の中間とりまとめ

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 国土交通省航空局(JCAB)は、航空業界で課題となっているパイロットと整備士の人材確保に向けた有識者会議「航空整備士・操縦士の人材確保・活用に関する検討会」(座長:李家賢一・東京大学大学院工学系研究科教授)の中間とりまとめを公表した。

 新型コロナで志望者が急減した整備士は、資格の業務範囲拡大や型式別ライセンスの共通化などを進める。パイロットは世界的に需要がひっ迫した状況が続いているため、即戦力となる外国人パイロットの受け入れ円滑化や、シニア人材によるシミュレーターを使った技能審査や訓練教官への活用推進などが可能になるよう、今年度内をめどに制度を見直す。

 検討会では、整備士・パイロットの確保へ優先的に進める重点テーマを設けて議論を重ね、政府が掲げる2030年の訪日客6000万人達成に向け、航空業界の安定的な成長を目指す。

—記事の概要—
3視点で重点テーマ選定
整備士:型式ライセンス共通化
パイロット:航空大学校の抜本改革

3視点で重点テーマ選定

パイロット・整備士確保が課題の航空業界(資料写真)=24年1月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今回の中間とりまとめでは、「リソースの有効活用」「養成・業務の効率化・強化」「裾野拡大」の3つの視点から、整備は8項目、パイロットは7項目の重点テーマを選定。海外の事例などを参考に、テーマごとに具体的な方向性を示した。

 航空業界では、コロナ以降に整備士の志望者が急激に減少しており、航空会社の整備士の約6割を輩出する航空専門学校の入学者数は5年間で半減した。パイロットは高齢化に伴う「大量退職時代」の到来や、需要増によるパイロット不足が世界的に起こるなど、訪日客6000万人の達成に不安要素となっている。

整備士:型式ライセンス共通化

 整備士のリソース有効活用は2点。整備現場の実態や作業内容の変化、海外の状況などを踏まえて整備し制度を大幅に見直し、資格の業務範囲を広げ、1人でできる作業の範囲拡大を目指す。

 現在の資格は、日々の運航間に実施する点検などを念頭におき、養成期間が約2-3年の「運航整備士」と、機体のすべての整備が可能な養成期間5年程度の「航空整備士」があり、便間の「ライン整備」を運航整備士が現状よりも作業できるよう、今年度中に業務範囲を決め、2025年度早期に制度改正を目指す。

 航空局によると、現状では運航整備士の業務範囲は、ライン整備で実施する作業の6割程度にとどまっており、結果として高いスキルを持つ航空整備士を多く配置する必要があり、欧州などの事例を基に実情にあった業務範囲に見直す。

 また、機体の型式別ライセンスを共通化し、ベースとなるライセンスで、ボーイング737型機やエアバスA320型機などの運航整備を可能とし、タイヤ交換など軽微な作業は型式別ライセンスを不要にする。

 養成・業務の効率化・強化は3点。一等航空整備士で2970時間、一等航空運航整備士で1260時間かかるなど「時間ベース」の教育から「能力ベース」へ転換するほか、試験項目を複合材やソフトウェアのアップデートなど、最新の整備技術を反映したものへ刷新する。また、デジタル技術を活用した整備を進め、作業ごとにデジタル技術活用の可能性を検証する。

 裾野拡大も3点。自衛隊整備士の活用も促進し、円滑な民間資格取得に向け、防衛省と調整する。また、外国人整備士の受け入れも拡大。現在は1国4人のみの「特定技能外国人」の拡大などで、積極的な受け入れを進める。

 官民連携の協議体を設置し、SNSを活用した戦略的な活動も進める。

パイロット:航空大学校の抜本改革

 パイロットのリソース有効活用も2点。即戦力外国人操縦士の受け入れを円滑化し、ライセンス切替手続きのデジタル化や、海外向けに日本ライセンスへの切替をウェブサイトで案内するなどの対策を検討する。シニア人材の活用も推進し、身体検査証明を取得できなくなった機長経験者がシミュレーターによる訓練審査を可能とするなど制度を見直す。

 養成・業務の効率化・強化は2点。パイロットの出身別で約35%を占める国の航空大学校の体制強化や訓練効率化など、安定養成に向けた抜本改革を進める。また、海外の機長など航空会社により可能な機長の認定範囲を拡大し、機長養成の迅速化を図る。

 裾野拡大は3点で、整備士同様にSNS活動を進めるほか、私立大入学からパイロットになるまでのキャリアパスを高校生へ示し、私大の活用を促進。女性パイロットの拡大も目指す。

 また、航空会社のパイロット養成に加え、ドクターヘリや防災ヘリといった公共性の高い小型機事業者のニーズを念頭に、ヘリコプター操縦士課程の再創設も検討。1978年から2000年まで存在したが、農薬散布が減ったことなどで廃止された。ドクヘリの運航頻度が高まっていることや、大規模自然災害により重要性が高まっていることから、関係省庁と必要な検討を進める。

   ◇

 検討会は今年2月7日に初会合が開催され、これまでに7回開かれた。今後は秋ごろに検討会を開いた上で、2025年春をめどに最終とりまとめを公表する見通し。

関連リンク
航空整備士・操縦士の人材確保・活用に関する検討会(国交省)
国土交通省

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