日本航空(JAL/JL、9201)は6月18日、第75期株主総会を東京・有明の東京ガーデンシアターで開催し、剰余金の処分(配当)、取締役と監査役選任の3議案をすべて可決して閉会した。初めて総会の議長を務めた鳥取三津子社長は、相次ぐ安全トラブルについて陳謝。整理解雇に対する役員の回答に納得しなかったとみられる株主1人に対しては、警告を重ねた後、同社の株総では4年ぶりとなる退場を命じた。
—記事の概要—
・鳥取社長「前面に立ち再発防止」
・貨物事業と“カスハラ”対応
・4年ぶり退場者も
鳥取社長「前面に立ち再発防止」
鳥取社長は冒頭、今年1月に発生した羽田空港での衝突事故や、2023年11月以降に相次ぎ5件に達した航空法上の「安全上のトラブル」について、「ご心配をおかけしたことをお詫び申し上げる」と陳謝。鳥取社長が前面に立ち、再発防止策を確実に実行すると誓った。
今回の質疑では、株主から事前に募った質問の中で、多くの株主が関心を持つであろうと会社側が考えた質問のうち、5件起きた「不安全事象」について回答。安全推進本部長の立花宗和常務は、「個別要因はあるが、共通するのは業務でプレッシャーがあり、現場が立ち止まって安全を確認できる環境を作れなかった」とし、これにより連続して事象が発生したと説明した。また「過去の教訓を生かす安全管理の仕組みが十分に機能していなかった」(立花常務)ことが、類似事案の再発につながったとした。
貨物事業と“カスハラ”対応
JALは今年2月19日に国際線の貨物専用便を開設。経営破綻した2010年10月以来13年4カ月ぶりに自社貨物便を復活させた。また、2カ月後の4月11日には、ヤマトホールディングス(9064)とJALグループのLCCスプリング・ジャパン(旧春秋航空日本、SJO/IJ)の3社で国内線の貨物専用便を開設するなど、貨物事業に力を入れている。
株主からは貨物事業についての質問もあり、貨物郵便本部の木藤祐一郎本部長は貨物事業について、JALグループの中期経営計画で持続的な成長を目標としているとした上で、「第2・第3の収益の柱で、始まったばかり。順調にスタートし、さらに発展させていきたい」と述べ、「これからにご期待いただいきたい」とした。
また、ボーイング767-300ER型機の後継機として、エアバスA321neoを初導入。2028年から国内線への導入開始を計画する。別の株主からは現状の767から貨物容量が減ることを懸念する声があったが、木藤本部長は「A321neoは小型機だが、コンテナを搭載できる。国内の準幹線に投入し、しっかり対応できる」と説明した。
このほか別の株主からは、写真撮影などで機内のルール・マナーが乱れているとの懸念の声があり、客が企業に対して理不尽なクレームなどを要求する「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対応への質問もあった。カスタマー・エクスペリエンス本部の崎原淳子副本部長は、競合の全日本空輸(ANA/NH)と共同でカスハラに取り組んでいるとした上で、「従業員にはガイドライン示している。社員が自信持って働ける環境と、すべてのお客さまに安心してご利用いただける環境を作る」とした。
また、2010年1月19日に経営破綻した際に生じた整理解雇に関する質問もあった。JALは当時、国の企業再生支援機構から支援を受けるにあたり、事業規模を破綻前の3割に縮小し、希望退職や早期退職、整理解雇により全体の3分の1に相当する1万6000人の従業員を削減した。このうち、整理解雇はパイロット81人と客室乗務員84人の計165人だった。
JALは、破綻時に会社を去った人を対象に、再雇用する経験者採用制度を2018年から導入した。人財本部長を務める大堀哲常務は、「2022年に希望者全員へ業務委託での就労機会を提供し、労使問題としての組合との話し合いは2022年7月に終結したが、2021年4月に発足した一部の被整理解雇者で構成する組合との話し合いを継続している」と説明。「経営破綻で多くの方にご迷惑をおかけした。このような出来事を二度と、二度と起こさないことがわれわれの責務」と述べると、会場からは拍手が起きた。
4年ぶり退場者も
会場を訪れた株主は749人で、昨年よりも76人増加。所要時間は昨年よりも2分短い2時間ちょうどで、動議を含めた質問者は昨年から2人増えて15人だった。また、2020年以来4年ぶりに退場者も発生。大堀常務が整理解雇について説明した際、納得できなかったとみられる株主1人が騒ぎ出し、鳥取社長から退場を命じられた。
鳥取社長は「ご静粛にお願いします。議長の指示に従っていただけない場合は、退場をお願いいたします」と二度宣告。「度重なる警告にもかかわらず議長の指示に従っていただけなかったので、退場を命じます」と議事を進行し、会場からは賛同の拍手が起きた。
質疑応答後の議案採決では、剰余金の処分、取締役9人と監査役2人を選任する3つの議案が原案通り可決した。このうち新任の取締役は3人で、青木紀将副社長と、総合政策センター担当の柏(かしわぎ)頼之専務、整備本部長でJALエンジニアリング(JALEC)社長の田村亮常務が就任し、柏氏は専務に昇任した。監査役は1人。社外監査役に第一東京弁護士会会長で、日本弁護士連合会副会長の松村眞理子氏が就いた。取締役選任などについて5件の修正動議が出たが、原案通りの可決により、すべて否決された。
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