エアライン, 官公庁, 解説・コラム — 2024年6月12日 12:00 JST

JAL、再発防止策を提出 安全意識を再徹底

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 日本航空(JAL/JL、9201)は6月11日、国土交通省に再発防止策を提出した。安全上のトラブルが相次いだことを受け、航空局(JCAB)が行政指導にあたる「厳重注意」を行ったことに対するもので、安全に対する意識の再徹底や安全管理システムの見直しなど、指摘された5つの不安全事象に共通する要因を踏まえた上で対策すると、鳥取三津子社長が平岡成哲航空局長に報告した。

再発防止策を提出したJAL=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
安全意識の再徹底と安全管理システム見直し
福岡滑走路誤進入と羽田接触
5件中2件が滑走路誤進入

安全意識の再徹底と安全管理システム見直し

 国交省が厳重注意としたのは、2023年11月以降に相次いだ合わせて5件の「安全上のトラブル」。米シアトルでの管制許可を受けない滑走路横断や、サンディエゴと福岡で起きた滑走路手前の停止線オーバー、ダラス滞在中のパイロットによる過度な飲酒が結果的に欠航を招いた事案、羽田のスポット(駐機場)での自社機の主翼端同士の接触についてで、いずれも航空法上の「航空事故」や「重大インシデント」には該当しないものの、「安全上のトラブル」と分類される「その他の航空機の正常な運航に安全上の支障を及ぼす事態」に該当し、短期間に頻発していることから厳重注意を5月27日に行った。

JALの鳥取社長(資料写真)=24年4月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALが提出した報告書では、トラブルが続いた共通要因として、現場が安全を大前提として、立ち止まれる環境が構築できていない点や、リスクマネジメントが十分に機能していない点を挙げた。

 再発防止策は、「経営トップによる率先した航空安全に対する意識の再徹底」と「安全管理システムの見直し」の大きく2つに分けて講じる。意識の再徹底は、組織長会議の開催や経営層による現場の状況把握などの緊急対応と、経営層が把握した課題に対して継続的に対策を見直す中長期対応を実施する。

 安全管理システムの見直しは、緊急対応として各事案に対する要因や注意点の周知や、滑走路誤進入に対する理解度を測るオンラインテストの実施、規程類や補足情報の見直し、ランプでの接触についてはプッシュバックに関わる各担当の責任と役割の明確化などを実施した。

 短期対応では、プッシュバックに携わるトーイングドライバーと翼端監視員がやり取りするトランシーバーの導入などを実施。中長期的には滑走路誤進入では教育・訓練の改善や管制機関との意見交換、プッシュバックでは緊急時用の赤色回転灯の導入などを進める。

福岡滑走路誤進入と羽田接触

 5件のうち、国内で発生した福岡空港での滑走路誤進入では、福岡の離陸滑走路が当初予定の北側(RWY16)から南側(RWY34)に切り替わり、パイロットが予期していなかった地上走行の経路指示に対する管制官への確認などで心理的負担が増えたことなどを要因として挙げている。管制官からパイロットへ滑走路手前での待機指示に続き、滑走路進入後の予定経路の説明を受けた際に、滑走路に進入する指示と誤認した。

 また、羽田側の着陸滑走路が着陸までに時間がかかるB滑走路(RWY22)へ変更になったことで遅延が予想され、タイムプレッシャーを感じていた可能性があるとした。

 羽田での接触は、トーイングカーの運転担当者が16番スポットから出発便のプッシュバック開始前に、インターホン担当者からOKサインを2回出されたことでプレッシャーを感じ、隣の17番スポットにトーイング中の機体への接触リスクを認識しながらも、プッシュバックを開始したことや、翼端監視員が緊急停止サインを出したが間に合わなかったこと、翼端監視員には17番スポットへ機体がトーイングされてくることが知らされていなかったことなど、複合的な要因で発生したとしている。

5件中2件が滑走路誤進入

 1件目から3件目は米国で2023年11月から今年4月にかけて発生。1件目は現地時間2023年11月5日に米シアトル・タコマ国際空港で発生した管制許可を得ずに滑走路を横断した事案。2件目は、今年2月6日に米サンディエゴ国際空港で起きた異なる誘導路へ誤進入し、管制許可を受けずに滑走路手前の停止線を越えたことで他社機が着陸復行(ゴーアラウンド)した事案。3件目は、4月22日に米ダラスに滞在中の機長が過度な飲酒で騒ぎ警察官が出動し、24日の乗務予定便に乗務できず欠航した事案となる。

 4件目は、5月10日に福岡空港でJALグループのジェイエア(JAR/XM)が運航する松山行きJL3595便(エンブラエル170型機、JA214J)が離陸滑走中、JALの羽田行きJL312便(ボーイング787-8型機、JA847J)が滑走路手前の停止線を越え、管制官の指示でJL3595便が離陸を中止した事案となる。

 5件目は、先月5月23日に羽田空港で発生した、出発のため16番スポットをプッシュバック中の札幌行きJL503便(A350-900、JA02XJ)の左主翼端と、隣の17番スポットへ牽引車で牽引されてきた札幌行きJL505便に使う同型機(A350-900、JA09XJ)の右主翼端が接触した事案だった。

 JALへの行政指導は、2018年12月に起きた乗務中の女性客室乗務員が機内で飲酒し、アルコール検査で社内基準を超える値が検出されたことに対する2019年1月11日の「業務改善勧告」以来。また、パイロットの飲酒問題では、行政処分となる事業改善命令が2018年12月21日と2019年10月8日に出されている。

 国による処分は、もっとも軽い「口頭指導」から「厳重注意」「業務改善勧告」までが「行政指導」。業務改善勧告より重いものは「行政処分」となる「事業改善命令」で、「事業の全部または一部の停止命令(事業停止)」が続き、もっとも重い処分は「事業許可の取り消し」になる。

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