SQ321便事故、急激なG変化記録 シンガポール当局が中間報告

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 シンガポール航空(SIA/SQ)のロンドン(ヒースロー)発シンガポール行きSQ321便(ボーイング777-300ER型機、登録記号9V-SWM)が、飛行中に激しい乱気流に遭い、バンコクのスワンナプーム国際空港へ緊急着陸した事故を受け、シンガポール運輸安全調査局(TSIB)は予備調査結果を現地時間5月29日に公表した。調査は現在も継続しているという。

乱気流で死亡事故が起きたシンガポール航空(資料写真)=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 TSIBによると、調査チームは同局と米国家運輸安全委員会(NTSB)、米国連邦航空局(FAA)の調査官、ボーイングの調査担当者で構成。SQ321便のフライトデータレコーダー(FDR)とコックピットボイスレコーダー(CVR)に保存されているデータを抽出した。

 現地時間20日にロンドンを出発したSQ321便は、乱気流が発生する前は正常なフライトであったが、ミャンマーの南上空を協定世界時(UTC)21日午前7時49分21秒(現地時間同日午後2時19分21秒、日本時間同日午後4時49分21秒)に3万7000フィートで通過しており、対流活動が発達しているエリアの上空を飛行していた可能性が高いという。垂直加速度として記録された重力(G)は約19秒間、+ve(プラス)0.44Gから+ve 1.57Gの間で変動したことで、機体には微振動が生じ始めた可能性があると推測している。

 微振動の発生と同じころ、機体の高度が操縦によることなく上昇し、3万7362フィートのピークに達したことが記録されていた。この高度上昇に反応してオートパイロットが機体を降下させ、選択した高度3万7000フィートまで降下した。さらに、パイロットが対気速度が上昇していることを確認し、スピードブレーキで速度上昇を阻止した。午前7時49分32秒に、パイロットがシートベルト着用サインが点灯したことを知らせる声が記録されていた。

 操縦によらないこれらの高度と速度の上昇は、上昇気流の影響を受けた可能性が高いといい、この間オートパイロットは作動していたという。

 午前7時49分40秒の時点で、記録された垂直加速度が0.6秒以内に+ve 1.35Gから-ve(マイナス)1.5Gに変化し、機体は急激なGの変化を受けた。このため、ベルトを締めていなかった客室乗務員が空中に浮いたと推定している。

 午前7時49分41秒、垂直加速度が4秒以内に-ve 1.5Gから+ve 1.5Gに変化。これにより、空中に浮いた客室乗務員が落下したと推測している。

 4.6秒間の急激なGの変化により、高度が3万7362フィートから3万7184フィートへと178フィート低下。この一連の出来事が、乗客乗員の負傷を引き起こした要因とみている。

  一連の急激なGの変化の中で、パイロットは機体を安定させるためにコントロールを開始し、その過程でオートパイロットを解除したことが記録されたデータに示されているという。パイロットは21秒間機体を手動で操縦し、午前7時50分05秒にオートパイロットによる操縦を再開した。

 記録された垂直加速度は、その後24秒間は+ve 0.9Gから+ve 1.1Gまで、より緩やかな変動を示し、機体は午前7時50分23秒に3万7000フィートに戻った。

 パイロットは客室乗務員から機内に負傷者がいるとの報告を受け、バンコクのスワンナプーム国際空港へのダイバート(目的地変更)を決定。バンコクに向かう途中、パイロットは機体到着時に出迎える医療サービスを要請した。

 乱気流発生から約17分後の午前8時6分51秒、パイロットは3万7000フィートから通常の降下を開始し、機体は午前8時10分00秒に3万1000フィートに到達した。データによると、機体はこの迂回飛行中にこれまで以上に激しい乱気流には遭遇することはなく、午前8時45分12秒にスワンナプーム空港へ着陸した。

 SQ321便には、乗客211人と乗員18人の計229人が搭乗。英国籍の男性(73)が心臓発作で亡くなった。乗客の国籍は、豪州56人、英国47人、シンガポール41人、ニュージーランド23人、マレーシア16人、フィリピン5人、アイルランド4人、米国4人、インド3人、カナダ2人、インドネシア2人、ミャンマー2人、スペイン2人、ドイツ1人、アイスランド1人、イスラエル1人、韓国1人だった。

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