エアライン, 官公庁, 解説・コラム — 2024年5月27日 20:50 JST

国交省、JALに厳重注意 平岡局長「教訓生かされていない」

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 国土交通省は5月27日、安全上のトラブルが相次ぐ日本航空(JAL/JL、9201)に対し、行政指導にあたる「厳重注意」を行った。航空局(JCAB)の平岡成哲局長が、国交省を訪れたJALの鳥取三津子社長に厳重注意の文書を手渡し、再発防止策を6月11日までに提出するよう求めた。

国交省から厳重注意を受けたJAL=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
「教訓生かされていない」
飲酒問題以来の行政指導

「教訓生かされていない」

 平岡局長は「安全上のトラブルが相次いで発生している。航空業界に携わる関係者が、一丸となって航空輸送の安全確保に取り組んでいる中で発生しているものもあること、類似事案の教訓が生かされていないものもあるなど、安全管理システムが社内全体に有効に機能しているとは言えない。こうしたことは、航空輸送の安全への社会的な信頼にも大きく影響を及ぼしかねない。経営トップが率先して、さらなる安全性向上に取り組むよう厳重に注意する」とする文書を鳥取社長に手渡した。

 国交省が厳重注意としたのは、今年1月2日に羽田空港で発生した札幌(新千歳)発JL516便(エアバスA350-900型機、登録記号JA13XJ)と海上保安庁機(MA722、ボンバルディアDHC-8-Q300、JA722A)の衝突事故を除く、5件の安全上のトラブル。いずれも航空法上の「航空事故」や「重大インシデント」には該当しないものの、「安全上のトラブル」と分類される「その他の航空機の正常な運航に安全上の支障を及ぼす事態」に該当する事案が相次いでいることを問題視した。「航空事故」「重大インシデント」「安全上のトラブル」は、航空法に基づいて航空会社などが航空局へ報告する対象になる。

 1件目は、現地時間2023年11月5日に米シアトル・タコマ国際空港で発生した管制許可を得ずに滑走路を横断した事案。2件目は、今年2月6日に米サンディエゴ国際空港で起きた異なる誘導路へ誤進入し、管制許可を受けずに滑走路手前の停止線を越えたことで他社機が着陸復行(ゴーアラウンド)した事案。2件のトラブルを受け、航空局は2月13日に抜き打ちで実施する「随時監査」を実施している(関連記事1)。

 3件目は、4月22日に米ダラスに滞在中の機長が過度な飲酒で騒ぎ警察官が出動し、24日の乗務予定便に乗務できず欠航した事案。航空局によると、運航規定への違反には至らなかったが、飲酒に対する自己管理が徹底されておらず、同席したほかの運航乗務員などから相互確認が行われていなかった、としている(関連記事2)。

 4件目は、5月10日に福岡空港でJALグループのジェイエア(JAR/XM)が運航する松山行きJL3595便(エンブラエル170型機、JA214J)が離陸滑走中、JALの羽田行きJL312便(ボーイング787-8型機、JA847J)が滑走路手前の停止線を越え、管制官の指示でJL3595便が離陸を中止した事案となる(関連記事3)。

 5件目が23日に羽田空港で発生した、出発のため16番スポットをプッシュバック中の札幌行きJL503便(A350-900、JA02XJ)の左主翼端と、隣の17番スポットへ牽引車で牽引されてきた札幌行きJL505便に使う同型機(A350-900、JA09XJ)の右主翼端が接触した事案だった(関連記事4)。

 23日の接触トラブルを受け、航空局はJALに対する臨時監査を24日と27日に実施している。

飲酒問題以来の行政指導

 国による処分は、もっとも軽い「口頭指導」から「厳重注意」「業務改善勧告」までが「行政指導」。業務改善勧告より重いものは「行政処分」となる「事業改善命令」で、「事業の全部または一部の停止命令(事業停止)」が続き、もっとも重い処分は「事業許可の取り消し」になる。

 JALへの行政指導は、2018年12月に起きた乗務中の女性客室乗務員が機内で飲酒し、アルコール検査で社内基準を超える値が検出されたことに対する2019年1月11日の「業務改善勧告」以来(関連記事5)。また、パイロットの飲酒問題では、行政処分となる事業改善命令が2018年12月21日と2019年10月8日に出されている(関連記事6)。

 また、今年に入り航空局が重大インシデントに認定した事例としては、4月7日に米子空港沖で全日本空輸(ANA/NH)の羽田発米子行きNH389便(737-800、JA69AN)が着陸のため進入態勢に入っていた際、機体が低高度になりGPWS(対地接近警報装置)が作動し、着陸をやり直した事例がある(関連記事7)。

関連リンク
国土交通省
日本航空

JALのトラブル
国交省、JALへ臨時監査 翼端接触などトラブル相次ぐ(24年5月24日)
羽田空港、JALのA350翼端同士が接触 札幌行き503便と搭乗前505便(24年5月23日)
福岡空港、JAL機が滑走路接近しジェイエア機が離陸中止 (24年5月13日)
JAL、機長深酔いでダラス発欠航 アルコール未検出も「乗務させるべきでない」(24年4月26日)
国交省、JALに抜き打ち監査 米2空港で滑走路無許可横断や停止線越え(24年2月15日)

飲酒問題
国交省、JALに再び事業改善命令 パイロット飲酒、赤坂社長「傍観者いてはいけない」(19年10月8日)
JAL、アルコール微量検出も認めず パイロット・CA対象、国交省に報告書(19年1月18日)
国交省、JALに業務改善勧告 客室乗務員の機内飲酒で(19年1月11日)

今年の重大インシデント認定事例
ANA、米子着陸時に対地接近警報作動 国交省が重大インシデント認定(24年4月19日)

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