エアライン, 空港, 解説・コラム — 2024年5月11日 21:30 JST

「そもそも無理なんじゃない?」JAL系レストラン御料鶴、制服社員が接客 発案CA松下さんに聞く

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 成田空港近くの古民家風レストラン「DINING PORT 御料鶴(ごりょうかく)」。日本航空(JAL/JL、9201)のグループ会社、JAL Agriport(JALアグリポート、成田市)が2020年3月6日にオープンした店舗で、自社の畑で栽培したイチゴやブルーベリーなどのほか、成田市周辺9市町の農産品を使った料理を提供し、JALのラウンジで人気の「JAL特製オリジナルビーフカレー」も並ぶ。

JALアグリポートの松下みゆきさん=24年5月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 コロナの影響で休業期間もあった御料鶴だが、当時フライトが大幅に減っていた客室乗務員が接客した際には、来店した人たちにも好評だった。一方、コロナ後の訪日需要の急回復など、フライトが復活した今では客室乗務員が御料鶴で常時接客することは難しくなっている。

 こうした状況から、客室乗務員をはじめとする制服を着用して働くJALグループの社員が、ボランティア「お仕事紹介し隊」として4月28日から6月28日までの期間限定で接客を手伝っている。5月9日には、まもなく定年を迎える客室乗務員の親泊昌代さん、コロナ期間中の2020年4月に入社した娘の真子さん親子もボランティアとして店に立った(関連記事)。

 「色々な方に『制服の人は今はいないの?』と聞かれることが多かったです」と話すのは、今回のボランティアを企画したJALアグリポートの松下みゆきさん。自らも客室乗務員の松下さんに、ボランティア活動を企画した経緯や、同社が手掛ける観光農園の現状などを聞いた。

—記事の概要—
「そもそも制服は無理では?」
ジャガイモ掘りもスタート

「そもそも制服は無理では?」

 8年ほど前まで、機内食を手掛ける部署に客室乗務員の担当者として地上勤務していた松下さん。その後の産休や育休を経て、コロナ期間中の2022年に復職した際、JALアグリポートに配属された。

JAL Agriportが運営する古民家風レストラン「DINING PORT 御料鶴」=24年5月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 御料鶴に来店した人たちとの会話の中で、客室乗務員による接客が自分たちが思っている以上に喜ばれていたと知った松下さん。今回は客室乗務員だけではなく、パイロットをはじめ、さまざまな職種の社員が参加できる取り組みにし、空港で働く仕事の魅力や、やりがいを多くの人に知ってもらう活動として実施が決まった。

 一方で、高いハードルとして立ちはだかったのは、目玉である制服の扱いだ。社員が制服を着用して業務にあたる場合、JALやグループ会社ではさまざまな規程がある。部外者が容易に着用できないばかりか、制服を普段着ている本人であっても、会社が認めない限り実現が難しい。制服を着て何かをやることの難易度の高さは松下さんはもちろん、周囲の誰もが共通の認識だった。

 「そもそも制服では無理なんじゃない? という意見もありました。でも、ここ(JALアグリポート)は、基本的に企画したことは全部自分で思うようにやっていいよ、っていう会社なんです」と、花桝健一社長ら2人の上司も企画の実現を後押ししてくれた。

成田空港近くの御料鶴でのボランティアに参加したJAL客室乗務員の親泊昌代さん(右)と真子さん親子=24年5月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

御料鶴のメニュー「御料鶴小鉢膳」=24年5月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

御料鶴のスイーツ「レモンのババロア」=24年5月9日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 かつて客室乗務員が御料鶴で接客した際は、「コロナ期間内の研修」として店に立っていた。松下さんがさまざまな部署と調整を進めた結果、4月から6月までの期間限定で、有志によるボランティア、という形で実施が決まった。年度が変わり4月11日に社内のイントラネットに告知を載せたところ、すぐに20人ほど応募があり、現時点で41人まで増えた。成田空港から御料鶴までは車で15分ほどとやや離れていることに加え、シフト勤務ゆえに自分の休みが決まらないと参加が難しい。一方で、まだシフトが出ていない6月に、有給を取得して参加する人もいるという。

 客室乗務員や空港のグランドスタッフ(地上旅客係員)と違い、制服を着る職種でもパイロットや整備士といった乗客と接する機会がない人たちもいる。松下さんが応募した整備士などに志望動機を聞いたところ「普段は飛行機と接していて、JALが非航空系領域に力を入れていることに対して実感があまりないため、自分で地域貢献活動を体験してみたい、という方もいらっしゃいました」と、利用者と直接接したり、地域に貢献することに興味をもった人が多いそうだ。

ジャガイモ掘りもスタート

 客室の責任者「先任客室乗務員」の資格を持つ松下さんは、コロナ前は機内食開発にも携わるなど、JALアグリポートへ出向する前にもデスクワークを経験していた。昨年2023年11月で退役したボーイング777-200ER型機が新仕様機「スカイスイート777」に改修された2016年6月には、機体をお披露する場に参加していた。

JAL 777-200ER新仕様機「スカイスイート777」のビジネスクラスを紹介する松下さん=16年6月10日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALアグリポートでは、同社が手掛ける観光農園の企画やイチゴの販売、地元の学生向け教育プログラムなど、6人という小所帯の社内で企画や営業などを幅広く受け持っている。

 松下さんが着任した2022年秋と比べると、台湾や韓国、東南アジアからのインバウンドが増え、観光バスに乗ってツアーでJALアグリポートのビニールハウスや御料鶴を訪れているという。外国人の割合は来場者の1割程度だが、入国規制の緩和と連動して増えてきたといい、今後はバスツアーの誘致や、将来的には個人旅行者に多く来てもらえるよう、施策を考えている。

 アグリポートの観光農園では、ビニールハウス内のイチゴ狩りが目玉となっているが、1月から5月に限られる。このため、6月はジャガイモ掘り、7-9月はブルーベリ狩り、9月はブドウ狩り、10-11月はサツマイモ掘りと、季節に応じた収穫体験を提供。また、ストレス解消やチームビルディングなどを目的とした、法人向けのプログラムも用意している。農園から車で約7分の場所には成田市場があり、農産品の輸出事業も手掛けている。

 収穫体験のうち、ジャガイモ掘りは今年初開催で、6月から7月上旬ごろに実施予定。入園料は200円で掘り放題、「とうや」「キタアカリ」「インカのめざめ」「レッドムーン」の4品種を収穫でき、持ち帰りたいジャガイモを量り売りで販売するという。

 「アグリポートに来た頃は、人の密集を気にする方もいらしたりという状況でした。それが徐々に緩和されてインバウンドのお客様が増えてきました。成田に到着して、東京へ行く前に一番最初に立ち寄ってイチゴ狩りをする、という方が増えてきたので、もっと多くの方にお越し頂きたいです」という松下さんは、新しい企画を考えていきたいという。

JALアグリポートの観光農園で初開催するジャガイモ掘り(同社提供)

JALアグリポートのイチゴ農園「ストロベリーポート イチゴノミ」で栽培されているイチゴ=22年4月22日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

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DINING PORT 御料鶴
JAL Agriport
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