三菱重工業(7011)は4月1日、傘下でジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」を開発していたMSJ資産管理(旧三菱航空機)を3月31日付で解散する決議を機関決定したと発表した。今後清算手続きを実施する。三菱重工グループの業績への影響はない見通し。
—記事の概要—
・米国の試験機は解体済み
・複数社で国産旅客機
米国の試験機は解体済み
三菱重工は、MSJの開発中止を2023年2月7日に正式発表。4月25日に三菱航空機の社名を「MSJ資産管理株式会社」に変更したと発表した。またこの日で三菱航空機のウェブサイトを閉鎖している。
米国で試験を行っていた4機の飛行試験機は、社名変更を発表した昨年4月の時点ですべて解体済み。スペースジェットの試験機のうち、飛行した機体は2015年11月11日に初飛行した飛行試験初号機(JA21MJ、製造番号10001)、2号機(JA22MJ、10002)、3号機(JA23MJ、10003)、4号機(JA24MJ、10004)、設計変更を反映した通算10号機(JA26MJ、10010)の計5機。このほかに一度も飛行せず、地上試験に使用していた5号機(JA25MJ)などが製造された。
初号機から4号機は、米国の飛行試験拠点「モーゼスレイク・フライトテスト・センター(MFC)」で飛行試験を重ね、その他の機体は最終組立工場があった小牧で試験を進めていた。
飛行した5機のうち、最初に解体されたのは3号機で、2022年に解体。MFCも同年3月末で閉鎖した。その後初号機も解体され、2号機と4号機も解体済み。今後は10号機の有効活用が注目される。
複数社で国産旅客機
一方、経済産業省は、次世代の国産旅客機を2035年以降をめどに官民で開発を進める案を、3月27日の産業構造審議会で示した。MSJの失敗を生かす方針で、1社の単独事業ではなく複数社の参画による開発を促し、経産省が研究費などの面で幅広く支援していく。
一般財団法人の日本航空機開発協会(JADC)と日本航空機エンジン協会(JAEC)がまとめた「完成機(GX機)事業創出ロードマップ検討会」の報告書によると、完成機の開発は2025年から概念設計や技術実証を始める案を示しており、開発開始から約10年後の就航が当面の指標になるとみられる。
戦後初の国産旅客機YS-11型機は、半民半官の日本航空機製造(日航製、1982年9月解散)が開発し、三菱重工など参画する各社が分担して製造にあたった。海外の旅客機事業は、米国はボーイング1社に集約され、欧州はフランスとドイツ、英国、スペインの4カ国が参画するエアバスが事業を展開している。日航製の反省を生かしつつも、こうした事業の統合・集約は考慮すべき事業環境となっている。
また、YS-11以降、日系企業による民間機の完成機事業で世界的な成功に達したのは、本田技研工業(7267)の米国子会社ホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)が開発した小型ビジネスジェット機「HondaJet(ホンダジェット)」のみ。機体構造の先進性だけでなく、完成機を販売し、アフターサービスを提供していく部分まで見据えたビジネスモデルに学ぶことができるかも、今後日本が手掛ける国産旅客機事業の成否にかかっている。
開発したホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)前社長兼CEO(最高経営責任者)の藤野道格氏には、世界最大規模の航空宇宙分野の学術団体である米国航空宇宙学会(AIAA)が、ライト兄弟のオーヴィル・ライトや、ボーイングの創業者ウィリアム・ボーイングにも授与された「ダニエル・グッゲンハイム・メダル」を贈呈することを決めている。
関連リンク
三菱重工
社名変更
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・JAL、スペースジェット補償金80億円 通期影響なし(23年3月1日)
当紙スクープ
・【独自】スペースジェット、開発中止決定 次期戦闘機に知見生かす(23年2月6日)
・三菱重工、スペースジェット開発中止を正式発表(23年2月7日)
ホンダジェット
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