航空会社や空港会社にとって、スタッフの連絡手段は重要だ。特に大雪や台風、地震など悪天候や自然災害、鉄道やバスなど二次交通の遅延発生などが起きると、同時に多くの部署が正確な情報を把握し、的確な判断を下しながら利用者にも案内していく必要がある。
これまで空港内の連絡手段といえば無線機による音声通話が主体だったが、スマートフォンやタブレットの普及により、4G(LTE)や5Gといった携帯電話回線を使ったやり取りも増えてきている。音声に加えて映像やテキストも送受信できるため、空港のグランドスタッフ(地上旅客係員)がこうした端末を空港で活用している姿を見かける機会も増えてきた。
空港内で使われる無線機を供給しているメーカーの一つが米モトローラ・ソリューションズだ。1962年から日本市場でビジネスを展開しており、同社の無線システムは国内空港では羽田と成田、関西、中部、那覇に導入されている。
スマートフォンやタブレットで使えるIP無線アプリも登場する中、モトローラは業務用無線の分野をどう見ているのだろうか。モトローラ・ソリューションズのアジア・中東・アフリカセールスを担当するラジャット・グプタ副社長にオンラインで話を聞いた。
—記事の概要—
・専用回線と5G併用も
・ビデオ通話「非常に強い引き合い」
専用回線と5G併用も
モトローラ・ソリューションズは、業務用無線システム「TETRA(TErrestrial TrunkedRAdio)」を空港や各国の軍、警察、消防、自治体などさまざまな分野に納入している。TETRAは欧州統一規格のデジタル移動通信システムで、サミットやスポーツイベントでも実績がある。
2023年には、成田空港にPTT(ブロードバンド・プッシュ・トゥ・トーク)通信サービス「WAVE PTX」を納入。TETRAを含むさまざまな無線機、4Gや5Gネットワークを活用でき、スマートフォンやタブレット、パソコンなど、あらゆるデバイス間で双方向通信ができる。
TETRAは専用の基地局を設置するタイプの無線システムで、WAVE PTXを用いると携帯電話回線も併用できるようになる。
グプタ氏は各国の顧客の反応として「LTEや5Gの安定性が高まるまで、ハイブリッド型ソリューションが今後も使われることになると見込んでいる」と話す。TETRAは携帯電話網の輻輳(ふくそう)や障害の影響を受けないメリットがある反面、通信速度や容量は5Gネットワークが優位。WAVE PTXにより、これらを組み合わせて使えるようになった。
また、従来の無線機は重く、スマートフォンやタブレットなど持ち歩くものが増えたグランドスタッフにとって、無線機の軽量化を望む声が多く聞かれた。「空港だけでなく警察も全世界で手掛けているが、警察官がベルトに装着できる機器のスペースは限られている。機器の軽量化やデバイスを出来る限り一つに統合していくことに取り組んできた」(グプタ氏)といい、TETRAと4Gに対応したスマートフォンタイプの端末「MXP7000」はドイツ軍などに採用されたという。
ビデオ通話「非常に強い引き合い」
WAVE PTXにより携帯電話網も使えるようになったことで、日本では「全国展開のホテルチェーンとも導入に向けた話し合いをしている」(グプタ氏)といい、官公庁や空港、鉄道といったこれまでの顧客層から広がりを見せ始めている。
グプタ氏が担当する日本以外の地域では、中東のエネルギー関連企業などで採用され、直近では台湾の警察と台湾高速鉄道が大口顧客に加わったという。
担当するするアジア・中東・アフリカで、顧客や見込み客の関心が高いのはビデオ通話など映像に関するものだという。「全体像が見えて、ストーリーとしてわかるようにして欲しいという要望を以前から聞いてきた。日本を含めて非常に強い引き合いをいただいている」という。ボディカメラやナンバープレートを認識するカメラなどに各国の警察が関心を抱いている。
一方、石油会社やガス会社といった民間企業は、モトローラ・ソリューションズのシステムに何を求めているのか。同社は2020年に防犯カメラを手掛ける米Pelcoを買収。厳しい環境下で動作が求められるシステムを手掛けており、製油所などのニーズに合致しているという。
スマートフォンの普及により、写真や動画の撮影、音声通話などが1台でこなせるようになった。一方で、グプタ氏は「現状ではネットワークの堅牢性や回復力の面で懸念があるので、LTEや5Gのネットワークへ完全移行することに対し、現時点では正しくないと考えている方もいらっしゃる。日本のように自然災害が多い国も同様ではないだろうか」との見方を示した。
関連リンク
モトローラ・ソリューションズ
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