1月2日に発生した海上保安庁機(ボンバルディアDHC-8-Q300、登録記号JA722A)と日本航空(JAL/JL、9201)の札幌(新千歳)発羽田行きJL516便(エアバスA350-900型機、JA13XJ)の衝突炎上事故では、JL516便の乗客乗員379人全員が脱出し、海保機は乗員6人のうち機長を除く5人が犠牲となった。3日の会見で、JALは同便に貨物や郵便は積んでいなかったものの、乗客の手荷物約200個とペットの預かりが2件あり、ペットは救出に至らなかったことを明らかにした。
ペットは温度管理された客室下の貨物室に搭載されるが、緊急時には人命が優先されるため、乗客と同じ扱いにはならない。
以前からペットと客室で一緒に過ごしたいという飼い主の要望は多く、海外では認めている航空会社もある。国内では、ペットと飼い主が同乗するチャーター便のツアーがコロナ前に開催され、2022年3月からは北九州空港に本社を持つスターフライヤー(SFJ/7G、9206)が、日本初となるペットと飼い主が定期便の客室で一緒に過ごせるサービス「FLY WITH PET!」を始めた。今月15日からは、同社が運航する国内線全路線全便に拡大し、サービスが本格化する。
航空会社のサービスは、安全性に直結するものが多く、監督する国土交通省航空局(JCAB)と調整が必要なものが多い。スターフライヤーのペット同乗サービスも、1)ペットがケージの中にいること、2)大型の手荷物と同等の条件であること、がサービス開始の条件になったという。
スターフライヤーのペット同乗サービスは1便あたり2組限定で、最後尾席の窓側のみ。ペットを入れるケージの大きさは50センチ×40センチ×40センチで、スターフライヤーが用意するほか、規定サイズ内であれば利用客のものをそのまま持ち込める。飛行中はケージからペットを出すことはできない。利用料金は1匹5万円で、飼い主の運賃は別途必要になる。
では、JL516便のような緊急事態が発生した場合はどうなるのだろうか。スターフライヤーによると、「残念ながら現在のルールでは持っていけません」という。手荷物と同じ扱いとなるためだ。家族の一員であるペットを「もの」「貨物」として扱うことは、受け入れがたいという飼い主が多い。このため、飼い主の中には空の旅にペットを同伴すべきではない、という考え方の人もいる。
JALによると、JL516便の事故では乗客が客室乗務員の誘導に従い、手荷物を持たずに避難したことが全員無事に脱出する上で重要な要素だったという。航空各社が機内で上映している安全ビデオでは、手荷物を持たない、ハイヒールは脱ぐなどの緊急脱出時のルールが説明されるが、けがやさらなる事故を防ぐとともに、脱出用シューターの破損を防ぐ意味もある。
仮にペットと一緒に緊急脱出できるとルールが見直された場合、別の問題が起こる可能性がある。乗客の中には、手荷物を持って脱出したい人が出てくるだろう。例えば重要なデータが入ったノートパソコン、高価な楽器、大切にしているぬいぐるみなど「生き物ではないが、持ち主には非常に重要なもの」だ。
ペットと飼い主が一緒に避難できるか否かだけを議論することは、新たなリスクを生み出す可能性があり、多面的な見方が不可欠だ。特にペットを飼っている人とそうでない人では、ペットに対する優先度や許容度が大きく異なり、「ペットは特別扱い」といった形になると、乗客が些細(ささい)なことをきっかけに自分勝手な行動に走り、客室乗務員の指示を守らず、緊急脱出に支障をきたす事態も起こりうるだろう。
ペットが同乗可能な便が増える2024年。不幸な事故で幕開けとなったが、これまで長らく続いてきた航空業界のルールが本当に今のままで良いのか、あるいは変えないほうが良いのかは、環境や価値感が大きく変化していく中、ペットに限らずさまざまな分野で再考する時期が訪れているのではないだろうか。
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FLY WITH PET!(スターフライヤー)
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