「JALグループの総力を結集し、人、モノのつながりを創造する航空以外の事業領域を拡大し、新たな収益源にしていく」。6月23日に都内で開かれた株主総会で、日本航空(JAL/JL、9201)の赤坂祐二社長は、今後の成長戦略として非航空系事業を拡大していく方針を改めて示した。
本特集では、これまで成田空港の位置づけや、新たなフラッグシップとなるエアバスA350-1000型機、カーボンニュートラルといったテーマについて、赤坂社長に聞いてきた。インタビュー最終回となる今回は、事業領域の拡大や、再び起こりうる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような航空事業のリスク回避に必要な要素について聞いた。
—記事の概要—
・「あまり航空から離れてもうまくいかない」
・「航空をやるために入ってきている」
・第3回はこちら。
「あまり航空から離れてもうまくいかない」
── 「航空一本足打法からの脱却」を掲げられてきたが、新型コロナの経験を踏まえ、どのように将来のリスクに対処していくのか。
赤坂社長:航空一本足打法は、コロナに対して無力だった。社長に就任した時から申し上げてきたが、いかにして普段からいろいろな事業を考え、どこかがやられたら何かでカバーする、というビジネスモデルを早く作ることに尽きると思う。
ただ、あまり航空から離れてもうまくいかない。航空の延長で考えると、特にマイレージ会員やJALカード会員の方々は航空利用者層だ。この方々に航空事業が打撃を受けた時に利用していただけるようなサービスを生み出し、顧客基盤をもっと生かして事業の多様性を持ちたい。
── コロナの影響で、非航空系事業をいろいろと打ち出してきたが、社長に就任した時からどのくらい進んだと感じているか。
赤坂社長:まだまだ。そもそも僕が社長になった時に、その話(非航空系事業)を最初にした時は、誰もが「何それ?」という反応だった(笑)。その認識が変わったのは、コロナの教訓だと思う。
では、どのくらい進んだのかというと本当にまだまだ。玄関を2、3歩出たくらいの感じだと思う。
「航空をやるために入ってきている」
── まだ道半ばとの評価か。
赤坂社長:意識改革が必要だ。僕もそうだが、もともと航空をやるために社員の皆さんはこの会社に入ってきているから、そんなに簡単ではないよね、というのはその通りだ。
そういう意味では、新しい人を入れていかないといけないし、なかなか一気には進まないものだ。
◇ ◇ ◇
「私が入社する2年前の1985年8月12日に、御巣鷹の尾根に墜落する大事故があった。入社した最大の動機は、悲惨な事故を二度と起こさないよう、自分の力を尽くしたいと考えたことにある」。整備出身の赤坂社長は、社長に就任した2018年4月の入社式で、自らの入社動機をこう語った。そして、安全と並んでことあるごとに言及してきたのが、非航空系事業の強化である「航空一本足打法からの脱却」と、社員のマルチスキル化だ。
特にコロナの影響が出てからは、「女性役員の登用にもつながるので、空港の仕事、客室の仕事だけではもったいない。社員の二刀流を目指したい」と、客室乗務員やグランドスタッフなどが現業以外のスキルを身につけることで、結婚や出産後も能力を発揮しやすくしていくことが、役員の多様性にもつながっていくとの考えだ。
今回の株主総会でも「自動化やマルチスキル化で生産性向上を図る。多様な人材活躍や教育方針により個人のスキル、組織力を向上し、ひとり一人の成長を促すことで価値想像力、創造性を高めていく」と、社員がさまざまな分野で力を発揮できるようにしていくことが、航空一本足打法から脱却し、非航空系事業を強化していく上で不可欠との認識を示した。
航空業界は8年から10年程度で、何らかのイベントリスクに直面すると言われている。「あまり航空から離れてもうまくいかない」ことを踏まえ、JALはこれからどのように航空一本足打法からの脱却を実現していくのだろうか。
(完)
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日本航空
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