ボーイングの飛行試験機「エコデモンストレーター・エクスプローラー」(787-10、登録記号N8290V)が6月13日午後1時すぎ、成田空港を離陸し、次の訪問先であるシンガポールへ向かった。「空のカーナビ」と言える次世代航空交通システム「TBO(Trajectory Based Operation:軌道ベース運用)」を2040年に実現しようと、国土交通省航空局(JCAB)と米国、シンガポール、タイの航空当局が共同で実施している試験飛行の一環で、シンガポールから最終目的地のバンコクへ向かう。試験終了後はシアトルへ戻る。
TBOは、航空機の相互間隔を保ちながら、最適な経路と通過時刻を常に調整する次世代航空交通システム。積乱雲や火山噴火など急な気象変化に対してスムーズに対応でき、消費燃料を削減することでカーボンニュートラルに貢献するという。
航空機の飛行ルートは、出発前にディスパッチャー(運航管理者)とパイロットが協議して飛行ルートを決定し、飛行中は空域ごと、運航便ごとにパイロットと管制官がやり取りして飛行ルートを選定しているが、悪天候などでは同じ情報を各便に伝えたり、パイロットが空域ごとに再度ルート変更をリクエストするなど、パイロットや管制官、地上で運航支援するスタッフに負担がかかっている。
TBOは、航空機の緯度や経度、高度、スピード、気象情報などをリアルタイムに共有し、国をまたいだ情報共有が可能になることから、カーナビが渋滞情報などを基に最適なルートを示すように、より適切な飛行経路で運航できるようになるという。
国連の専門機関ICAO(国際民間航空機関)は、2050年のCO2(二酸化炭素)排出実質ゼロを目指す取り組みを進めている。国交省の高橋広治交通管制部長によると「TBOを実現できれば、経路短縮で10%くらい削減できる」という。
4カ国の共同プロジェクトは「MR TBO(Multi Regional Trajectory Based Operation)」と名づけ、今年で2年目。JCABのほか、FAA(米国連邦航空局)、シンガポールのCAAS(シンガポール民間航空庁)、タイのAEROTHAI(Aeronautical Radio of Thailand Limited)の4航空当局が参画している。
JCABは2009年4月から「将来の航空交通システムに関する研究会」を開いて「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)」を策定し、TBOの実現を目指している。同会は産学官連携の取り組みで、JCABのほか国内の航空会社が加盟する業界団体「定期航空協会(定航協)」や研究機関、学識経験者などが参加している。
ボーイングのエコデモンストレーター・プログラムは、2012年にスタート。今回の試験飛行は、各地で可能な限り最大の混合率となる代替航空燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料、サフ)」を調達して飛行する。
関連リンク
将来の航空交通システムに関する研究会(国交省)
Boeing’s ecoDemonstrator program
Boeing
ボーイング・ジャパン
成田に初飛来
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787-10「エコデモンストレーター・エクスプローラー」
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ボーイング・エコデモンストレーター
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