エアライン, ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2023年5月4日 23:10 JST

JALはなぜ”禁じ手”貨物機を解禁するのか 特集・ヤマトと組むコロナ後の貨物戦略

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 「これまで貨物専用機を持つことにためらいを持っていたのは(貨物便の)ボラティリティだったが、コロナの中で旅客便も相当ボラティリティがあると今回わかった。そのボラティリティを埋めるのが貨物だった、という事実がある」。日本航空(JAL/JL、9201)の赤坂祐二社長は、13年ぶりとなる貨物専用機の導入を発表した5月2日の記者会見で、こう説明した。

成田空港に着陸するJALの767-300F。かつての機体は「ポリッシュド・スキン」と呼ばれる外観が特徴だった=10年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 JALは自社で保有する中型旅客機ボーイング767-300ER型機のうち、3機を貨物専用機(貨物機)に改修。ボーイングが手掛ける「767-300BCF(ボーイング・コンバーテッド・フレーター)」と呼ばれるもので、2023年度末から東アジアを中心とした国際線に順次投入し、国内線も飛ぶ。ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングス(9064)との協業が主体となり、国内の宅配や東アジアのeコマース(電子商取引)に特化した貨物事業だ。

JALの赤坂祐二社長=23年5月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 かつては「ジャンボ」ことボーイング747型機を中心に、貨物機を運航していたJAL。2010年1月の経営破綻後、事業見直しで貨物機の運航から撤退し、自社の旅客機の床下貨物室や他社の貨物機を活用するようになった。JALが貨物機を持たなくなった理由の一つがボラティリティ、貨物需要の変動の大きさだ。

 新型コロナの影響で、旅客便の運航が世界的に停止し、海運の貨物コンテナ不足などが続いたことで貨物単価は急騰。しかし、旅客便の再開やコンテナ問題の解消でピークは越え、下落傾向が見えてきた。赤坂社長は「今の単価はコロナ前の2倍くらいだが、落ちていかざるを得ないだろう。落ちていく分を貨物専用機を投入することで、売上をキープしていく」と、ヤマトHDと協業する貨物機ビジネスで単価下落分を補っていく考えを示した。

JALが23年度末から導入する767-300ERを改修した貨物機のイメージ(同社資料から)

 一方で、競合のANAホールディングス(ANAHD、9202)は貨物機を持ち、コロナで落ち込む旅客収入を貨物で一定程度補えたことが好決算につながった。適正規模であれば、貨物機を保有する方がリスクヘッジになる、というのが、JALが13年ぶりに貨物機を導入する背景のひとつだ。

 JALはなぜ破綻後に“禁じ手”としてきた貨物機を解禁するのか。そして、ジャンボを活用した以前の貨物機ビジネスとは何が異なるのだろうか。また、ANAHDは今後どのように貨物ビジネスを展開していくのだろうか。

—記事の概要—
銀色の747と767
ヤマトと組む「新たなビジネスモデル」
赤坂社長「長期的にやっていく」
ANAは777X貨物機・NCA子会社化

銀色の747と767

 19年前の2004年10月12日。日本初の747-400F貨物機の初号機(登録記号JA401J)が、ボーイングからJALへ引き渡された。最大搭載重量が約110トンの大型貨物機で、銀色に輝く「ポリッシュド・スキン」と呼ばれる外観は話題となった。塗料の使用を削減し、再塗装が不要なので剥離剤も必要ないと、環境性能の高さをうたった機体でもあった。

成田空港に着陸するJALの747-400F=10年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 当時の発表資料によると、JALは2004年10月時点で747-200F貨物機を10機保有し、2006年度末には747-200Fを5機、747-400Fを8機の計13機体制とする計画を示していた。このうち、当時最新鋭だった747-400Fは、新造機が2機、残り6機は手持ちの旅客機をボーイングが貨物機へ改修する747-400BCFとしていた。

 その後、2007年度には中型貨物機として767-300Fを新造機で3機受領。最大搭載重量56.2トンで、747-400Fの新造機と同じくポリッシュド・スキンを採用した。初号機(JA631J)は2007年6月26日に受領し、3機は東南アジアや中国へ乗り入れた。

成田空港に着陸するJALの767-300F=10年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ヤマトと組む「新たなビジネスモデル」

 747も767も、JALが貨物スペースを販売して積荷を運ぶビジネスモデルだった。今回JALが強調しているのが「新たなビジネスモデル」だ。

ヤマトが導入するA321ceo P2F貨物機(同社提供)

 今回の767F中型貨物機の前に、JALは2022年1月21日にヤマトHDと貨物機の運航を2024年4月から始めると発表。小型貨物機のエアバスA321ceo P2FをヤマトHDが3機リース導入し、首都圏から北海道や九州、沖縄への長距離トラックによる宅急便輸送の一部を補完する。

 物流業界では、慢性的なドライバー不足に加え、2024年4月1日から自動車運転業務の年間残業時間の上限が960時間になることにより、輸送力の確保が求められている。A321P2Fは10トン車約5-6台分に相当する1機当たり28トンの貨物を搭載でき、JALとしては荷主があらかじめ決まった上でA321P2Fを運航できる。

ヤマトが導入するA321ceo P2F貨物機のメインデッキカーゴドア(イメージ、JAL提供)

 767Fも、ヤマトHDと連携したビジネスモデルを取り入れた。昼間は国内線で宅配の荷物を扱い、夜は東アジアへ日本の生鮮品や特産品などeコマースの貨物を積むことで、機体の稼働率を高められる。

 赤坂社長は、767Fのビジネスパートナーについて「ヤマトさん限定ではない」として、荷主の中心がヤマトではあるものの、特に国際線は別の荷主が扱う貨物も搭載する可能性を示唆した。

 JALの斎藤祐二専務は、ヤマトHDとの協業について「A321P2Fがフェーズ1、767がフェーズ2で最初から視野に入っていた。767は相当なボリュームを運べるので、国内の大きな流動をカバーしていく」と、国内幹線を767F、地方路線はA321P2Fといった分担になるようだ。

 貨物需要のボラティリティについては、「従来の貨物機事業は、モノの輸送でボラティリティが高い。eコマースや宅配は景気変動の影響をまったく受けないわけではないが、一般の方々の消費に伴うもの。右肩上がりで今も成長しており、安定性も成長性も十分ある事業だと思って取り組んでいる」(斎藤専務)と説明した。

赤坂社長「長期的にやっていく」

 では、貨物機はボラティリティの観点で導入しないという基本的な方針に変化があったのだろうか。斎藤専務は「方針は特に変わっていない」という。従来のジャンボ機を使ったような貨物事業はやらないが、パートナーと組んで貨物スペースを事前に販売できるビジネスモデルであるから必要な機体を導入する、ということだ。

貨物機への改修対象になるJALの767-300ER=21年4月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 つまり、JALが運航している大型機A350の貨物型であるA350Fや、ボーイングの次世代大型機777Xの貨物型777-8Fを導入することはない。これが「新たなビジネスモデル」という言葉が指すところだ。

 現在JALが運航している旅客機の767-300ERは、機齢が10年から20年程度で、3機の767を貨物機に改修して運航できる期間は15年から20年程度になりそうだ。一足先に就航するA321P2Fは、3機ともカタール航空(QTR/QR)が運航していた機体で、2010年2月から12月にかけて同社に引き渡されたもの(関連記事)。JALの767も、おおむね同程度の機齢の機体を改修することになるだろう。

 旅客機の場合、一般的に機体の寿命は20年程度。その後貨物機に改修されてさらに10年、20年と飛び、機齢30年から40年程度でスクラップになる機体もある。今回JALとヤマトHDによりスタートする貨物機ビジネスは、A321も767も改修貨物機のため、初期導入する機体を運航できる期間は、新造機よりは短い。

 赤坂社長は「この事業は機材の寿命とは関係なく長期的にやっていくもので、パートナーも同じ思いだ」と、一過性のものではない点を強調した。物流業界の2024年問題があることから、航空会社として社会課題の解決につなげいたいという側面もある。

ANAは777X貨物機・NCA子会社化

 一方、全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAHDは、長距離国際線機材の777-300ERの後継となる777Xの旅客型777-9を20機発注し、このうち2機を2022年7月に貨物型の777-8Fに変更した。777-8Fは開発中で、2028年以降の受領を予定している。

NCAの747-8F=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAグループの貨物事業会社ANAカーゴ(ANA Cargo)は、貨物機を11機運航。大型の777Fが2機、中型の767Fは9機で、767Fのうち4機が新造機の767-300F、残り5機は旅客機から改修した767-300BCFとなる。

 また、貨物航空会社の日本貨物航空(NCA/KZ)を100%子会社化することで、日本郵船(9101)と今年3月7日に基本合意。NCAは大型貨物機の747-8Fを8機運航しており、7機の747-400Fを他社へリースしている。

 NCAは欧米路線を多く運航しており、子会社化できればANA単独では不足している日本-欧米間の貨物スペースを拡大できる。

前方左側ドアを開け始めたANAカーゴの767-300Fの貨物室=17年8月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ANAにとって課題の一つが、機齢30年前後と老朽化した767-300BCFの更新だ。NCAがグループに入れば、この機材更新が必要となる生産量の一部を代替できるものの、大型機と中型機では投入路線が異なることから、そう単純な話でもない。

 ANAHDの芝田浩二社長は「NCAの機材と我々の機材で、どう収益を最大化させていくかを基本合意を経て我々のカーゴチームと検討していく」とし、767の経年機を747-8Fの輸送能力で補うかは今後の交渉合意の時期などによるという。

  ◆ ◆ ◆

 ヤマトHDと組むことで、宅配やeコマースの需要を確実に取り込む形で、貨物専用機を13年ぶりに導入するJAL。一方、ANAは大型機による日本-欧米間の貨物需要取り込みを今後の成長分野とした。

 とかく航空会社にとって、貨物事業は景気変動に翻弄されることから、JALのように貨物機を自社で保有することはリスクだった。一方で、赤坂社長の「旅客便も相当ボラティリティがある」という言葉の通り、航空事業が過度に旅客便依存となることもまた、リスクであることが新型コロナで鮮明となった。

 JALは破綻後、貨物事業を見直して高単価が見込める医薬品など付加価値の高い積荷や、アジアで需要が高まる日本の生鮮品に注力している。

 「新たなビジネスモデル」の貨物機ビジネスは、JALにどのような成長をもたらすのだろうか。

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