国内線なのにビジネスクラスのフルフラットシートに乗れる日本航空(JAL/JL、9201)のボーイング777-200ER型機の定期便運航が、終盤に差し掛かっている。JALは2002年からこの機体を11機導入したが、すでに保有する機材は3機まで減っており、4月に入り運航に投入されているのは3号機(登録記号JA703J)を残すのみとなった。
今年度上期で全機退役する計画だが、777-200ERでフルフラットシートをもっとも堪能できる最長路線、羽田-石垣線の定期便運航は4月2日で終了。往路の飛行時間が3時間超えと、近距離国際線並みのフライトだった。
28日からゴールデンウイークの定期便運用に入った3号機は、羽田-札幌(新千歳)、那覇の2路線に1日1往復ずつ投入されている。5月1日は下地島空港へのチャーター便に使用されるが、7日までは2日を除き同じ便に投入される見通しだ(関連記事)。
2年前の2021年2月に、JALが777-200ERのフルフラットシートを退役までの期間限定でそのまま国内線の中間クラス「クラスJ」に投入すると当紙がスクープした際は、大きな反響があった。私もせっかくなので、同年7月16日の羽田-石垣線初便のクラスJに乗ってみたが、この時は普通席との乗り比べをしたため、石垣行きのみクラスJの航空券を買った。
今後石垣線に後継機であるエアバスA350-900型機が入ることはあるかもしれないが、フルフラットシートを装備した国際線機材が入る機会はなかなかないだろう。機材繰りなどで4月2日が本当に石垣投入ラストになるか、確証は得られなかったが株主優待券を用意して航空券を予約。今回は往復ともクラスJに乗ることにした。
—記事の概要—
・3発機MD-11の後継
・自由な姿勢で座れるフルフラットシート
・中央席と窓側席を乗り比べ
・往復7万9740円+株優
3発機MD-11の後継
JALの777-200ERは、エンジンが3基ある「3発機」のマクドネル・ダグラス(現ボーイング)MD-11型機の後継機。エンジンはGE製GE90-94Bで、東南アジアやハワイなど中距離国際線を中心に投入された後、2021年から2023年3月末までの2年間限定の計画で、5機が国内線に転じた。
座席数は2クラス312席で、クラスJが26席、普通席が286席。クラスJのシートは国際線時代にビジネスクラスだった「スカイスイートIII」をそのまま使用しており、国内線でフルフラットシートを体験できる。1-2-1席の1列4席で、シートを斜めに配置するヘリンボーン配列をJALで初めて採用した点も特徴だった。
国内線転用後は、幹線の羽田-札幌、福岡、那覇の3路線を中心に投入。石垣線往路の片道約3時間は、東京-台北間のフライトと大差のない時間で、フルフラットシートのメリットをもっとも体感できる路線だったと言える。
自由な姿勢で座れるフルフラットシート
羽田-石垣線投入最終日となった4月2日。2往復すべてを777-200ERで運航した。私が乗った最後の1往復は、石垣行きJL973便(JA703J)が羽田の10番スポット(駐機場)から午後2時44分に出発し、午後5時42分に石垣の8番スポットへ到着。折り返しの羽田行きJL974便は午後7時23分に石垣の8番スポットから出発して、羽田には午後10時7分に9番スポットへ到着した。
スポットを出た石垣行きは、D滑走路(RWY05)から午後3時ごろ離陸。後方からGE90の大きな音が聞こえてくるが、少し前の国際線の離陸はこんな感じだったな、と少し懐かしく感じたが、高度が1万5000フィートに達するころには静かになった。静岡県伊東市の上空3万フィートから細かく揺れたが、駿河湾で3万6000フィートを超えるころには揺れが収まり、静岡市を越えたあたりで4万フィートに到達した。
肝心のフルフラットシートはどうか。片道3時間のフライトで爆睡するのかと言われると微妙だが、ベッドにするとソファのように自由な姿勢で過ごせる。私の場合、石垣行きの機内では、シートの写真を撮ったり、北海道エアシステム(HAC、NTH/JL)の「雪ミク」ラッピング機による機遊覧飛行の記事を執筆・編集・掲載したりと、地上と変わらずに過ごしていた。
機内インターネット接続サービスが使え、自宅と違い間食の誘惑もなく、片道4万円近いものの、いつも以上に集中して仕事ができた。午後5時30分前には着陸前のベルトサインが点灯したので、往路でゴロゴロする時間はごくわずかだったが、フルフラットシートで自由な姿勢で過ごせたこともあり、疲れ方がかなり違うように感じた。
フルフラットシートの一番のメリットは、寝られることよりも自由な姿勢で座れることが大きいと思う。
石垣空港に着くと、まだ4月ではあるが沖縄特有の少しモワッとした空気が出迎えてくれた。展望デッキに行くと、隣には日本トランスオーシャン航空(JTA/NU)のジンベエジェット(737-800、JA05RK)が止まっており、石垣らしい写真を撮ることができた。
保安検査場は、全部のレーンが稼働してはいたものの、かなり混雑していた。保安検査の締切時刻は出発20分前だが、繁忙期は最低でも30分、可能であれば40分以上前に並んでおく方が良さそうだ。
復路の羽田行きJL974便は、短い記事を1本書いて掲載した以外は、寝心地を体験することを重視した。周りを見ると、夜の便とあって早々に寝ている人が多く、石垣で休暇を楽しんで帰りは寝て帰れるというのは、旅行として最良と言えるだろう。
中央席と窓側席を乗り比べ
私はスカイスイートIIIの国際線初便となった、2016年6月18日の羽田発バンコク行きJL031便(JA701J)も搭乗取材したが、これまで窓側席ばかり乗っており、中央のD席とG席は座ったことがなかった。石垣最終便を逃すと、中央席の座り心地を体感する機会がないことから、往路のJL973便は中央左側の最後列7D席、復路のJL974便は右窓側の2K席を指定した。
初めてスカイスイートIIIの中央席に座った感想は、仕事の都合上、出発や離陸、着陸、到着シーンを撮ることから、やはり中央席よりは窓側席の方が良い、というのが正直なところだ。聞くところによると、中央席は足もとが立体交差する構造上、D席は窓側の座席よりも床に近くなり、G席は上側になる分、足もとがやや狭いという話を聞いたことがあるが、D席で短時間ベッドポジションにした限りでは、あまり気になることはなかった。
全席が通路に面していて出入りがしやすく、個室に近い空間である以上、やはり窓があった方が落ち着く。中央席と窓側席を乗り比べてみて、私の場合は窓側席のほうが好みだった。
スカイスイートIIIの機能として、フルフラットシートになる以外に、シートポジションで使うひじ掛けがある。離着陸時は収納しているもので、今回乗った石垣線の往復に乗務していた先任客室乗務員は、ベルトサインが消えるとベッドにしていない席をまわって、ひじ掛けをセットしていた。
このシートに限らず、ビジネスクラスのシートは多機能なものが多い。何度も乗っている人でないと知らない機能も多々あるので、ひじ掛けの存在を客室乗務員が教えてくれたのは良いと感じた。
往復7万9740円+株優
前回2021年7月16日の石垣線初便に搭乗した際の運賃は、往路の羽田発石垣行きJL973便(JA710J)はクラスJで3万2190円、復路のJL974便は普通席で3万1190円だった。当時のクラスJは、普通席にプラス1000円で乗れたので、お得感が今以上にあった。
2022年4月から国内線運賃が値上げとなり、クラスJの差額は距離に連動してプラス1000円、2000円、3000円の3段階になった。羽田-石垣線の普通席との差額を搭乗当日のアップグレード料金で見ると、那覇線などと同じプラス3000円になった。
今回は777-200ERの石垣線投入が変更になる可能性も捨てきれなかったので、搭乗便を変更できる株主割引運賃で往復とも購入。片道3万9870円で往復7万9740円と、8万円近い。これにJR新橋駅前のチケットショップで株主優待券を1枚1900円、計3800円で購入し、総額8万3540円になった。さすがに国内の日帰り取材としては高額なので、片道1万円分をマイルから交換した「eJALポイント」で支払い、現金支出を2万円抑えることにしたが、それでも6万円を超える。
初便に乗った前回も片道2万円分ずつポイントを使ったが、沖縄方面の取材はとにかく費用がかかる。今回のような取材で、航空会社に航空券を出してもらうメディアもあるようだが、取材対象と一定の距離を置くことは報道機関側の倫理面で不可欠だ。
◆ ◆ ◆
5月1日の下地島チャーターを終えると、777-200ERが定期便で活躍する期間もあとわずかだ。後継機のA350は、すでに16機が引き渡されており、全機が国内線に投入されている。JALのA350初の国際線機材となるA350-1000の初号機(JA01WJ)が通算17機目となり、世代交代も大詰めを迎える。
JALの777のうち、当初から国内線機材として導入された777-200は、2021年3月までに全機が退役済み。777-200ERも退役することで、JALの国内線大型機はA350-900(3クラス369席、3クラス391席)に統一される。
ゴールデンウイーク明けの16日には、初号機(JA701J)が売却先の米国へ向かう際、乗客を乗せない「フェリーフライト(回航便)」を活用した本邦初のチャーターを運航する。幹線を中心に国内線で活躍してきた777-200/-200ERは、まもなく27年の歴史に幕を下ろす。
*写真は46枚(石垣最終便の運航実績は写真下に掲載)。
4/2 JL973/974運航実績(定刻/実績/スポット)
JL973 羽田(14:15/14:44/10)→石垣(17:25/17:42/8)
JL974 石垣(19:20/19:23/8)→羽田(22:05/22:07/9)
関連リンク
日本航空
ゴールデンウイーク定期便
・JALの777-200ER、GW定期便に最後の1機投入 フルフラットのクラスJがラストスパート(23年4月28日)
石垣最終便
・JALの777-200ER、石垣島への運航終了 フルフラットシートのクラスJ最長路線(23年4月3日)
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・JAL、退役777-200ERで下地島日帰りチャーター ローパス見学も(23年3月24日)
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・【独自】JAL、国内線クラスJに”フルフラットシート” 777退役まで2年限定(21年2月6日)
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