国土交通省航空局(JCAB)は2月7日、スカイマーク(SKY/BC、9204)に対して業務改善勧告を行った。確認主任者だった同社の整備士が酒気帯び状態で整備業務に就いたことに対するもので、24日までに再発防止策を報告させる。また、安全管理システムの再構築など、安全統括管理者の職務についても改善措置を講じるよう警告書を出した。
—記事の概要—
・酒気帯び整備士、飛行前点検に未確認署名
・期限切れのアルコール検知器
・当該整備士は懲戒解雇
・久保田局長「悪質性高い」
酒気帯び整備士、飛行前点検に未確認署名
酒気帯び状態での整備業務は2022年12月25日早朝に発生。羽田にあるスカイマークのライン整備部に当時所属していた男性整備士(66)は、社内規程で義務付けられているアルコール検査で不正を働き、酒気帯び状態のまま出張先の長崎空港で整備業務に就いた。整備士は前日24日の午後5時30分から2時間、空港のある大村市内の飲食店を1人で訪れ、生ビール(中ジョッキ)を1杯、焼酎お湯割りを3杯飲んだ。純アルコールに換算すると66グラムを摂取した計算になる。
66歳の男性整備士Aは飲酒を終えてから約10時間後の翌25日午前5時20分、出社前のアルコール検査を受け、0.08-0.15mg/lのアルコールが検出された。スカイマークの規定では0.00mg/lが基準値で、アルコールが少量でも検出されると整備業務には就けないという。
同日の午前6時10分、男性整備士Aは決められたアルコール検査を受けないまま、検査記録用紙に自身の署名をし、長崎空港支店所属の男性整備士B(37)に検査記録用紙を手渡した。整備士Bは検査結果の欄に丸印が付いていないことに気が付いたものの、その場の雰囲気に押され丸をつけた。また、アルコール検査に立ち会った長崎空港の男性ランプ職員D(35)は検査結果に丸印が付いていたことから、立会者の欄に自身の署名をした。
整備士Aは所定のアルコール検査を受けないまま飛行前の点検を開始。ランプ職員Dは整備士Bに不正をとがめ、Bは整備士Aに対し、再検査を促した。午前6時35分の検査でアルコール検査で0.08mg/lを検出したため、整備士BはAに対し業務から外れるように伝え、Bの上司である男性整備士C(52)に出勤を依頼した。
午前7時10分に整備士Aはアルコールが検出されなかったことを確認し、検査記録用紙を新たに作成。その際、ランプ職員Dではない別のランプ職員が立ち会った。整備士Aはアルコール検査を通ったと判断し、確認主任者となっていた午前7時40分発の神戸行きBC140便の飛行前点検を再開した。整備士Aは同20分に、飛行前点検表に署名。A自身が確認すべき項目を未確認のまま、Bからの「異常なし」の報告を根拠に署名した。
同便が出発した午前7時40分に、整備士CはAに対し、業務から外れるように指示。CはAが作成した報告書を確認した際に、定められたアルコール検査を受けないまま点検を始めていたことが判明した。
整備本部内では整備士Aが飛行前点検を開始しようとしたが、ランプ職員Dの進言により作業を中断したことから、作業は無効となり、整備規程違反に当たらないと判断。整備本部長は翌日の12月26日に、安全統括管理者に口頭で報告した。整備本部は今回の事案について、航空法で定められている事態報告には該当しないと同月28日に判断し、JCABへ報告しなかった。
その後社内で協議した結果、1月12日にJCABへ報告。また19日には、整備士Aが整備記録を不適切に作成していたことが発覚した。
期限切れのアルコール検知器
スカイマークは事案発生の要因について、整備士Aがアルコールに対する認識が甘かったとした。またAに貸与していたアルコール検知器の有効期限が過ぎていたことから、出社前のアルコール検査が普段から実施できておらず、アルコールに関する認識が甘かった上に当事者意識も欠如していたとした。
また、2010年に入社した66歳の整備士A、2012年に入社した37歳の整備士B、2011に入社した35歳のランプ職員Dの関係などから、年齢や職種などの違いにより整備士Aに意見できず、結果的に不正行為に関与したとしている。
当該整備士は懲戒解雇
スカイマークは整備士Aに対し、2月2日付で懲戒解雇処分とした。また、整備士Bとランプ職員D、整備本部長の3人を同日付でけん責処分とした。
このほか、同社の洞駿(ほら・はやお)社長と安全統括管理者の増川則行常務が役員報酬を自主返納。2月分の役員報酬が対象で、ぞれぞれ1カ月分を10%ずつ減額する。
久保田局長「悪質性高い」
JCABの久保田雅晴局長は洞社長に対し、2月7日付で警告書を発出。「これらの違反行為は悪質性が高い」とし、業務改善勧告を発出すると同時に、安全統括管理者の職務を改善するよう警告した。
警告書では、事案発生から2週間以上経過後の報告について「法令遵守・規程遵守の意識が、経営層を含め組織内でいまだに徹底されていないと言わざるを得ない」と指摘。改善措置を講じないなど警告に違反した場合には、安全統括管理者の解任を命ずることがあると警告した。
スカイマークはJCABへの報告が遅れたことについて「事案の全体像を正しく把握できず大幅に遅れた」と説明。行政指導を重く受け止め、全社を挙げて安全体制の再構築と再発防止に取組む、としている。
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