「ジャンボ」「空の女王」といった愛称で親しまれたボーイング747。1574機目となる最終号機は貨物機の747-8F「Empower」(登録記号N863GT、LN:1574、MSN:67150)で、アトラスエアー(GTI/5Y)などを傘下に持つアトラス・エア・ワールドワイドへ現地時間1月31日に引き渡された。1967年から50年以上製造され、31日の式典に列席した従業員らには、最終号機の製造時に出た金属の切り粉(削りくず)を封入したメダルが記念品として配られた。今風に言うと「アップサイクルな記念品」といったところだろうか。
飛行機に詳しくない人でも、「ジャンボ」と言われればあの独特な姿を思い浮かべる人は多いのではないか。そんな「空の女王」の半世紀を振り返ってみた。
—記事の概要—
・最多は747-400
・貨物型先行の747-8
最多は747-400
747の前身は米空軍の大型戦略輸送機プロジェクト「CX-HLS」で、ロッキード(現ロッキード・マーチン)案が選定されてC-5「ギャラクシー」となった。一方、ボーイングはこれを発展させて1966年4月13日に747を発表。キャンセルを含む総受注は旅客型と貨物型を合わせて1768機となり、55年間で1574機が製造された。
ボーイングは1967年に747の製造を開始し、1968年9月30日に最初の機体となる飛行試験機(747-100、N7470、LN:1、MSN:20235)がロールアウト。1969年2月9日に初飛行した。
初の商業運航を行ったのは当時のパンアメリカン航空(パンナム)で、ニューヨーク(JFK)-ロンドン(ヒースロー)線へ1970年1月22日に就航させ、ジャンボの時代がスタートした。当初は21日夜に初便が出発する予定だったが、エンジントラブルにより機材を「Clipper America」(N747PA)から「Clipper Victor」(N736PA)に変更して就航させた。
1574機の内訳は、747-100が251機(試験機N7470 1機、SP 45機、SR 27機、SUD 2機含む)、747-200が393機(F 73機、M 78機、VC-25A 2機、E-4B 4機含む)、747-300が81機(M 21機、SR 4機含む)747-400が694機、747-8が155機となった。
もっとも多い747-400は、旅客型747-400が442機、日本の国内線専用型747-400Dが19機、貨物型747-400Fが126機、貨客型747-400Mが61機、航続距離延長旅客型747-400ERが6機、航続距離延長貨物型747-400ERFが40機。旅客型のうち2機には、日本の政府専用機「B-747-400」も含まれている。
747をもっとも多く運航したのは、総数113機の日本航空(JAL/JL、9201)。1月31日にエバレット工場で開かれた式典には、赤坂祐二社長が招かれた。
最新の747-8は、JALも全日本空輸(ANA/NH)も発注せず、貨物型を日本貨物航空(NCA/KZ)が発注したのみ。NCAは日本で唯一の貨物専門航空会社で、747-8Fを8機運航している。
貨物型先行の747-8
747-8は、旅客型「インターコンチネンタル」が48機、貨物型747-8Fが最終号機を含めて107機。旅客型のうち2機は、2015年に破綻したロシアのトランスアエロ航空が発注したものの、引き渡されずボーイングが保管していた機体を米空軍が2017年8月4日に購入し、改修作業を経て米国の次期大統領専用機となる。
747-8のエンジンは、米GE製GEnx-2Bを4基搭載。新設計の主翼などと合わせて、747-400と比べて燃費を改善し、騒音は30%軽減、CO2(二酸化炭素)排出量は15%削減出来るという。受注と初飛行は747-8Fが先行し、2010年2月8日に初飛行。旅客型は2011年3月20日に初飛行した。
旅客型のメーカー標準座席数は3クラス410席、貨物型の最大積載量は137.7トン。貨物型はこれまでと同様、機首部分が上に開くことで、長尺・大型の貨物も搭載できる。747-400BCF(ボーイング・コンバーテッド・フレーター)など旅客機を貨物機に改修した機体にはない特徴だ。
最初の引き渡しは、貨物型(747-8F、LX-VCB)がカーゴルックス航空(CLX/CV)へ2011年10月12日、インターコンチネンタル(747-8、D-ABYA)はルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)へ2012年4月25日に行われた。
最後の発注社となったアトラス・エア・ワールドワイドは、2021年1月12日に747-8Fを4機発注したと発表。ボーイングは747-8の生産を2022年で完了すると2020年7月30日に発表済みで、エバレットの最終組立工場で製造される最後の4機となった。アトラスは787の主要部位を日本などから米国の最終組立工場へ運ぶ専用貨物機747-400LCF「ドリームリフター(Dreamlifter)」も運航している。
最終号機のN863GTは、国際物流会社Apex Logistics(エイペックス・ロジスティクス)との長期契約でアトラスが運航する。このため、機体左側はApex、右側はアトラスの塗装が施された。また、2016年8月30日に96歳で生涯を終えた747の生みの親、ジョー・サッター氏のイラストが機体前方右側に描かれ、敬意を示した。
N863GTが2月1日にエバレット工場を出発する際は、消防車による放水アーチの歓迎を受け、多くの従業員らが見送った。デリバリーフライトの便名は5Y747便と名づけられ、午前7時50分すぎに出発。午前8時19分すぎに離陸し、ペインフィールド空港上空をローパス後、モーゼスレイク付近から747と王冠の航跡を午前8時55分ごろから2時間半ほどかけて描き、目的地のオハイオ州シンシナティへ向かった。
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民間機としての747の引き渡しはピリオドを打ったが、軍用機は改修を進めている2機の次期大統領専用機VC-25Bが残っているが、前述の通り未納入の新造機がベースであり、新たに機体が製造されることはない。
米国の航空メディア「Aviation Week」によると、新たな「エアフォース・ワン」となるVC-25Bは、2026年4-6月期(第2四半期)の就役になる見通し。また、米空軍の空中指揮機E-4B「ナイトウォッチ」の後継機として、6機から8機の747-8を2029年以降に取得する可能性があるものの、中古機となる公算が大きいとの見方を示している。
ボーイングは、エバレット工場に737 MAXの4番目となる生産ラインを2024年半ばに設ける計画で、この点からも747-8をごくわずかな機数だけ再生産するのは現実的ではない。
1月31日の式典参加者に配られた、ラスト747の切り粉が封入されたメダルは、空の女王からの世代交代も暗に示しているようだった。
関連リンク
Boeing
ボーイング・ジャパン
Atlas Air Worldwide
放水アーチくぐり最後のデリバリーフライト
・最後のジャンボ、シアトル離陸し”747″描く 放水アーチで門出祝う(23年2月2日)
最後のデリバリー
・【現地取材】最後のジャンボ納入 56年の歴史に幕 最終号機は747-8F貨物機(23年2月1日)
747
・747-8、旅客型初飛行から10年 2022年に生産完了(21年3月21日)
・アトラスエアー、747-8F貨物機4機購入 最終生産分(21年1月12日)
・747、2022年生産完了 737MAXは10-12月期納入再開(20年7月30日)
・米空軍、次期大統領専用機に元トランスアエロの747-8購入 新古機でコスト削減(17年8月6日)