2025年に開催される大阪・関西万博。万博ではこれまで、新しい技術の社会実装が試みられてきたが、今回は航空分野でもトピックがある。「空飛ぶクルマ」と呼ばれるeVTOL(電動垂直離着陸機)だ。大阪府と大阪市は2021年9月に、空飛ぶクルマや物流ドローンを開発するSkyDrive(スカイドライブ、東京・新宿区)と連携協定を結んだ。「クルマ」という言葉が付いているが航空機の一種で、大阪万博では「エアタクシーサービス」の実現を目指しており、乗客を乗せて大阪ベイエリアをフライトするイメージだ。
乗客を乗せて安全に機体を飛ばすとなると、機体製造国の航空当局が安全性を証明する「型式証明(TC)」を取得しなければならない。空飛ぶクルマで日本の型式証明取得を目指しているのがSkyDriveだ。すでに有人試験機SD-03が、2020年8月25日に公開有人飛行試験に成功。現在は2025年のローンチを目指すSD-05の開発を進めている。
型式証明の取得には、開発設計の能力だけではなく、乗客を乗せて安全なフライトを実現させるためのノウハウやスキルが求められる。SkyDriveには、機体メーカーやバッテリーメーカー、航空会社など、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まり、日本企業初となる空飛ぶクルマの型式証明取得を目指している。
2018年7月にSkyDriveを創業した福澤知浩CEO(最高経営責任者)はトヨタ自動車、2020年4月からCTO(技術最高責任者)を務める岸信夫氏は、三菱重工業で戦闘機などの開発、三菱航空機では国産初のジェット旅客機「MRJ(現SpaceJet)」のチーフエンジニア、技術担当副社長を歴任しており、性能の高さだけでなく、商業運航に求められる安全性や利便性を追い求めている。
SkyDriveでエアモビリティ事業部長を務める福原裕悟氏も、MRJに携わった人の中で空飛ぶクルマの可能性を感じた一人だ。エンジニアとして三菱重工に入社後、2000年代初めのMRJ事業立ち上げ前から関わり続けた。2008年にMRJがローンチすると、三菱航空機で技術もわかる営業担当として数々の商談の最前線に立ち続け、営業部長を務めた。
日に日に進歩する空飛ぶクルマや、SkyDriveという企業にどういう可能性を感じたのだろうか。
3次元が最後のフロンティア
MRJを通して、世に存在しない機体が成長していく過程を見てきた福原氏。「地上交通機関は、混雑が激しかったり、通れるルートの制約といった、2次元での制約があります。一方、飛行機やヘリコプターも乗り降りは限られたところになってしまう。3次元が最後のフロンティアです」と、空飛ぶクルマの将来性を語る。
飛行機やヘリよりも乗降スペースに制約がなく、バスやタクシーと違い、渋滞や災害による道路寸断にも強い。人々に身近な自動車に「高さ」という概念を加え、2次元の制約を超えて3次元を移動できるのが空飛ぶクルマだ。
空飛ぶクルマもMRJも、新しい価値を実現するためのもの。「どんな使い方があるかを考える余地があり、そこはものすごくやりがいがあります。安全に飛ぶために航空機と変わらない型式証明を取得する必要があり、完成機事業の経験をすごく生かせますね」と、およそ20年かかわり続けたMRJの経験が生かせるという。
貪欲に異分野を学ぶ人たち
福原氏がSkyDriveで仕事を始めたのは、2年前の2021年1月。しばらくすると、福澤CEOが兼務していた事業部長を引き継いだ。
創業時にニュースを見て興味を持っていたことから、SkyDriveに転じた。
SkyDriveは30代の若手社員が多いが、各分野からエキスパートが転じてきていることから「スタートアップの割に、年齢は問わない印象を受けましたね」と振り返る。
「各分野の専門家、第一人者が即戦力となっているだけでなく、貪欲に異分野を学んでいく人が多いですね。40代、50代でもそういう“気持ちの若い人”が多いです」と、好奇心とやる気に溢れた人が空飛ぶクルマの開発を牽引しており、福原氏も刺激を受けている。
「空飛ぶクルマは電動で、ドローンやラジコンの技術がベースとしてあります。しかし、人を乗せて航空機並みの安全性や冗長性を得るには、航空機の開発手法が必要です。例えば、ドローンを開発してきた人には型式証明は馴染みの薄い分野で、航空機開発の人はドローンならではの技術は詳しくありません。文化も専門的な言葉も違うので、お互いに相互補完しています」と、これまでの航空機開発とも、ドローンのような無人機とも異なる、異分野が融合した開発体制が不可欠だという。
自分たちが自分の将来を作れる
機体の開発が進むにつれて、重要になってくるのが実際の運用面でのノウハウだ。「空飛ぶクルマは航空法に基づいて開発、認証され、運航も航空法の枠内になるので、航空機やヘリの経験がものすごく生きるところです。メーカーなので、カスタマーサポートも重要。安全運航を続けるための技術サポート、マニュアル、補用品と機体メーカーそのものです」と、空飛ぶ“クルマ”ではあるが、安全に空を飛ばす点は航空機と基本的に共通している。
大きな組織とは異なり、一人が複数の業務を担いながら、空飛ぶクルマの開発が進んでいる。福原氏は「みんなが当事者として仕事ができる環境です。スタートアップの良いところは、強烈な当事者意識です」と断言する。
「自分たちが自分の将来を作れます。スタートアップというと、将来性は? 安定性は? と心配になるのが普通です。一人ひとりがすごく大きな役割を持って、責任を果たしながら仕事ができる職場なので、そういうことにやりがいを感じる方にはフィットすると思います」と、どのような組織にいても先行きが不透明な中、自分の将来は自分で作りたい人に合っているという。
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カーボンニュートラルの波を受け、航空機も電動化の技術開発が進みつつあるが、最初に実用化されるのは空飛ぶクルマのような、機体が小さいものになりそうだ。経済産業省も、航空産業で日本の存在感を高める上で、空飛ぶクルマをはじめとする航空機の電動化技術を重要視しており、とりわけ国産の空飛ぶクルマで初の型式証明取得は、大きなマイルストーンになるだろう。
関連リンク
SkyDrive採用情報
・SkyDrive、空飛ぶクルマ実現へ大阪府・大阪市と協定締結(21年9月15日)