エアライン, ボーイング, 機体, 解説・コラム — 2022年12月15日 11:30 JST

737-10導入で機会損失解消 特集・スカイマークが737MAXを選ぶ理由

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 スカイマーク(SKY/BC、9204)が東京証券取引所グロース市場へ12月14日に上場した。東証のプレーヤーとして7年9カ月ぶりに復帰し、14日の終値は売出価格を107円(9.1%)上回る1277円となった。上場で得た資金は劣後ローンの返済や、29機あるボーイング737-800型機(1クラス177席)の後継機となる737 MAXの前払い金などに充てる。

ファンボロー航空ショーで飛行展示を披露する737-10=22年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
幹線の機会損失解消
737-10は納期通り?
「メリットが上回らなかった」
「国内線は伸びしろがないと言うけど、そうではないと思う」

幹線の機会損失解消

 スカイマークが導入を検討している737 MAXは、標準型である737-8(737 MAX 8)と、超長胴型の737-10(737 MAX 10)の2機種。客室仕様は確定していないが、メーカー標準の座席数は737-8が1クラス189席、737 MAXファミリーの中で胴体長がもっとも長い「最大の737 MAX」となる737-10は同230席で、737-10の導入で1便あたりの乗客を2割から3割程度増やせるようになる。

737 MAXへの置き換えが始まるスカイマークの737-800=22年1月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 まずは2025年4-6月期から6機の737-8を順次リース導入する。2026年度からはボーイングと基本合意した確定発注4機とオプション2機の最大6機の737 MAXを受領する計画で、2機種の内訳は正式契約の締結に向けてボーイングと協議していく。

 コロナ影響で痛んだ財務体質を改善するため、当面は国内線に注力するスカイマーク。2025年以降は羽田や神戸、福岡で発着枠の回収再配分や増枠が予定されており、そのタイミングに合わせて機材を増やしていく。

 「コロナ前のロードファクター(座席利用率)は全体で80%を超えており、幹線は90%以上。29機をパンパンで飛ばす」と、スカイマークの洞駿(ほら・はやお)社長は増機まで満席に近い状況で飛ばすことで、財務改善を急ぐと説明する。「これまで1機当たり平均33億円くらい稼いでいた。2機フル稼働すれば70億円弱増える」と、ロードファクターが下がらないように増機することで、中長期的な目標として掲げる年間の事業収益1100億円、営業利益率10%前半を目指す。

 一方で、ロードファクターや搭乗率が80%を超えると、一般的に航空券を予約できない乗客が出てくるため、会社側には機会損失が発生してしまう。特にコロナ後も羽田-札幌(新千歳)線や福岡線は90%近い値になっており、乗客を取りこぼしている状態だ。

 座席数が大幅に増える737-10をこれらの路線に投入することで、「高いロードファクターを維持しつつ、収入を適正化、拡大化していく」と語った。

737-10は納期通り?

 しかし、737-10はボーイングがFAA(米国連邦航空局)から「型式証明」(TC)を取得する時期が2023年後半にずれ込む見通しだ。機体の製造国が安全性を証明するもので、当初は今年12月を期限とし、就航は計画から3年延期した2023年を目指していた。

東証で上場後に記者会見するスカイマークの洞駿社長(手前)と西岡成浩専務=22年12月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ところが、コックピット内の警告システムを新設するか否かで、パイロットのライセンスを共通化できなくなる可能性が出ており、FAAや米国議会との調整に時間がかかっているようだ。

 洞社長は「(受領する)2026年度までには、いろいろなことがあってもこれから4年後。ある程度の確信はある」と述べ、仮に納入開始が2024年ごろにずれ込んでも、大きな影響はないとの見通しを示した。

 すでに737-10を100機発注している米国のデルタ航空(DAL/DL)は、納入遅延が万一生じた場合はワンサイズ小さい737-9(737 MAX 9、1クラス220席)で一部を代替するなどのケースを想定している。

「メリットが上回らなかった」

 かつてスカイマークの佐山展生会長(当時)は、まだ機種選定段階だった2018年9月に「将来的に恩返ししたい」とエアバス機の再導入に含みを持たせていた。しかし、結果は737 MAX導入で、現在と同じボーイング機を飛ばすことになる。

運航最終日を迎えたスカイマークのA330-300=15年1月31日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 民間機の場合、1人のパイロットが同時に運航できるのは原則1機種で、特にコックピットの構造がまったく異なる他メーカーの機材を混乗することはできない。機種移行するためには、パイロットが相応の期間、運航便に乗務できなくなる。

 このため、一度入れたメーカーから別のメーカーの機体に入れ替えるのは、航空会社にとってかなりの負担になる。実際、スカイマークはエアバスA330-300型機を2014年6月14日に就航させたものの、2015年1月29日の経営破綻により、就航からわずか7カ月半で運航停止となった。ボーイングとエアバス両メーカーの機材を運航し続けるのは、破綻したスカイマークにとって、一刻も早く解消しなければならない事態だった。

 現在スカイマークが運航する737-800は29機。737 MAXはこれらの機材更新にも充てるので、導入後も大幅な増機とはならない。スカイマークの再建を主導した投資ファンド「インテグラル」から同社に転じた西岡成浩専務は、「さまざまな機材や可能性を追求したが、ボーイング機から変えるほどメリットが上回らなかった」という。

 例えばエアバスのA320neoファミリーは、貨物コンテナを搭載できるが、737 MAXは従来通りのばら積み。コンテナの方が搭降載作業を効率化でき、スカイマークが貨物に注力するのであれば737 MAXは不安が残る。しかし、エアバス機へ完全移行するとなれば、パイロットのライセンス取得や整備体制の再構築など多額の費用と時間がかかり、財務体質改善を急ぐ今のスカイマークには選択しにくいものだ。

ファンボロー航空ショーで展示飛行する737-8(当時は737 MAX 8)=16年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 西岡専務が指摘するように、737-800の後継機として開発された737 MAXへの移行であれば、パイロットがこれまでと同じライセンスで乗務でき、整備もほぼ同じ態勢で受け入れられるので、会社に一番負担がかからない選択と言える。

 これが今後、機材数が50機、100機と増えてくると別の問題が出てくる。メーカーの納入遅延や、機体の不具合などで当局が飛行停止にするといった事態に対処するため、リスク回避で複数メーカーに分散発注するのが主流だ。

「国内線は伸びしろがないと言うけど、そうではないと思う」

 737-10は型式証明の取得が遅れているため、スカイマークにとってはリスクとも言える。一方で、ドル箱の幹線で乗客を取りこぼしていることも課題だ。さまざまな要素を考えると、今のスカイマークは手堅く737 MAXで機材更新を進めるのが得策と言える。

 「国内線は伸びしろがないと言うけど、私はそうではないと思う。スカイマークに限らず、まだ飛行機に乗っていただけていない方がいるのではないか」と、西岡専務は航空需要の掘り起こしの重要性を指摘する。

 再上場で新たな挑戦は始まったばかりだ。

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