中型機や大型機ほどの旅客需要はないものの、単通路の小型機で長距離を飛べれば開設できる国際線の新路線が存在する。そして、利用者が増えてくれば機材を大型化できるので、航空会社は長距離を飛べる小型機があれば、これまでよりも攻めた路線展開が可能だ。
2018年1月に初飛行し、同年11月からデリバリーが始まったエアバスA321LRは、そうしたニーズに合致する小型機だ。A320neoの長胴型であるA321neoをベースに、燃料搭載量を増やすことで航続距離をA321neoの3500海里(約6500km)から約15%延ばし、4000海里(約7400km)を実現した機種だ。これにより大西洋横断路線への投入が可能になり、中長距離路線を擁する各国の航空会社が相次いで発注した。
その後、エアバスは2019年6月に開かれたパリ航空ショーで、さらなる航続距離延長型として、航続距離4700海里をうたうA321XLRの開発を発表。2024年の就航に向けて開発が進められている。ともに長距離路線への投入を目指して開発されたA321LRとA321XLRだが、メカニズムの違いはどのようなものなのだろうか。また、エアバスの狙いはどういったところにあるのだろうか。
—記事の概要—
・幅広い路線に対応できる汎用性のA321LR
・プラス500海里。A321LRはどう実現?
・A321XLRは4700海里
幅広い路線に対応できる汎用性のA321LR
A321LRは、日本ではピーチ・アビエーション(APJ/MM)が初めて導入した。現在は今年7月に就航させたジェットスター・ジャパン(JJP/GK)と合わせて、両社が2機ずつ計4機が運航中だ。
両社とも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、現在は国内線の高需要路線に投入しているが、ピーチは12月27日に開設予定の関西-バンコク線にA321LRを投入し、中距離国際線事業に参入する。
欧米の航空会社の場合、大西洋横断も可能な単通路機は運用面でのメリットが大きく、まさに待ち望んだ機体であるのは言うまでもない。では、日本はどうかといえば、東京から2500-3000海里圏内にタイやシンガポール、フィリピンといった東南アジアの人気エリアが集まっており、より遠くに新規路線を開拓することも可能となる。国内線はもとより、中距離国際線用機材として使えるA321LRの汎用性は高く、注目を集めるのも納得だ。
プラス500海里。A321LRはどう実現?
航続距離3500海里のA321neoに対して、A321LRは4000海里と約15%向上を果たした。この“プラス500海里”をどう実現したかといえば、搭載できる燃料の最大量に違いがある。A321neoは最大約2万3500リットル搭載できるが、A321LRは最大約3万3000リットルと、9500リットルほど多い。これは「ACT(Additional Center Tank:追加センタータンク)」によるもので、A321LRには3個のACTを搭載でき、1個あたりの容量は約3120リットルだ。
このACTは一定の整備を必要とするが、着脱可能な構造になっている。1つまたは2つのACTを搭載する場合は、機体中央部のウイングボックス後部の貨物室内に設置。ACTを3つ搭載する場合は、1つをウイングボックス前の貨物室に、2つを後部の貨物室に設置する。つまり、A321LRとは、A321neoに着脱可能な追加燃料タンクと燃料供給システムを備えたモデルともいえる。
一方で、機体サイズは変わらない。貨物の搭載量はどうなるのだろうか。A321neoは前方と後方の貨物室に5つずつ、計10個の貨物コンテナを搭載できる。A321LRの場合、3つのACTを設置すると、前後の貨物室とも各3つで合計6個に減少する。床下貨物室内で、ACTと貨物コンテナはトレードオフの関係にある。
A321XLRは4700海里
2019年6月に発表されたA321XLRは、航続距離がA321LRよりも700海里延びて4700海里(約8700km)となり、飛行時間11時間をうたう。
XLRは「Xtra Long Range(超長距離)」を意味し、ニューヨーク-ローマ間、ロンドンーデリー間をノンストップで結ぶことが可能だという。では、母体となるA321neoと比べ、1200海里ものアドバンテージをいかに実現したのだろう。
最大の違いは燃料搭載量で、A321XLRは最大約4万リットルを搭載できる。しかし、この約4万リットルはLRに用いられたACTではなく、新たに採用された「RCT(Rear Center Tank:リアセンタータンク)」と呼ばれる、胴体構造と一体化した追加タンクによるところが大きい。
A321XLRが備えるRCTの容量は1万2900リットルで、機体下部のメインギア格納部の後部に位置し、胴体セクション15と17と統合されているため、着脱はできない。これに加えて、前方貨物室にオプションとして「フォワード(前方)ACT」を1つ設置可能な構造にした。つまり、A321neo(搭載量2万3500リットル)+RCT(1万2900リットル)+着脱可能なフォワードACT(3120リットル)の合計で最大約4万リットルもの搭載量を実現したのだ。
エアバスはA321XLRのRCT開発にあたり、「ACT4つに相当する燃料搭載量」「貨物コンテナへの影響はACT2つ分」「重量ではACT1つ分」を目標とした。これにより、RCTは重量やスペース効率を追求し、機体構造と一体になった。結果として、A321LRと比べて航続距離700海里のアドバンテージを有しながら、貨物コンテナはフォワードACTなしで8個、ありでもLR同等の6個の搭載できるようにした。
もしA321LRにXLRと同等の燃料を、ACTを使って搭載するには5つものACTが必要だ。座席数と貨物スペースの不均衡が起こるし、重量バランスの観点でも得策とはいえないだろう。
A321XLRはタンク以外も変更
A321XLRはLRと比べてタンク部の重量こそ軽減されるが、約7000リットル分の燃料重量が加わる。そこで、最大離陸重量もA321LRの97トンから101トンへと増加し、エンジン推力の向上や着陸装置も強化されている。
エンジンはCFMインターナショナル社製LEAP-1Aの場合、A321neoとLR、XLRともハードウェアは共通だが、FADEC(全デジタル式エンジン制御装置)により、推力の選択が可能になっており、XLRでは推力向上が図られている。
着陸装置はランディングギアのほか、タイヤとホイールも再設計されている。また、長時間飛行に備え、飲料水タンクもA321neoの200リットルに対し、2倍の400リットルに増やしている。
こうした違いからも、A321LRは長距離路線を可能としつつも、旅客や貨物需要に合せてACTを着脱、A321neoや在来型と組み合わせて運用できる柔軟性がメリットと言える。
一方、A321XLRは従来の単通路機では難しかった超長距離路線の新規開拓が最大のメリットであり、そこに価値を見出す航空会社も少なくないはずだ。
A321LRとXLRは名前が似ているだけでなく、外観からの区別も簡単ではないが、設計思想を知ると両モデルのキャラクターが思いのほか異なることがわかるのではないだろうか。
関連リンク
Airbus
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動画(YouTube Aviation Wireチャンネル)
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