“お買い得”機で反転攻勢 ルフトハンザやデルタ、未納入787・中古A350活用

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 ルフトハンザ ドイツ航空(DLH/LH)がボーイング787-9型機の訓練飛行を現地時間10月8日から始めた。2021年5月に発注した機体だが、同社が普段購入する新造機ではなく、“注文流れ”の未納入機だ。

ルフトハンザの787-9初号機(同社提供)

 同様の動きは、コロナ後に向けた投資に積極的な他の航空会社にもみられる。デルタ航空(DAL/DL)は2021年7月に中古機を2機種36機導入すると発表。大型機のエアバスA350-900型機を7機と小型機のボーイング737-900ER型機を29機で、A350はリース導入する。

 コロナ後を見据えて成長投資としては、ユナイテッド航空(UAL/UA)が2021年6月に15機を確定発注、アメリカン航空(AAL/AA)が今年8月に返金不可の手付金を20機分支払った超音速旅客機「オーバーチュア(Overture)」が衝撃的だ。米ブーム・スーパーソニック(Boom Supersonic、本社デンバー)が開発中の機体で、同社のウェブサイトでは、東京-シアトル間を現在の約半分となる4時間30分で飛べるという例が挙げられている。

 オーバーチュアは超音速機という新しいマーケットへの挑戦だが、ルフトハンザやデルタの機材調達はより現実的な背景がある。両社の戦略や思惑を改めて見てみよう。

—記事の概要—
ルフトハンザ:777X遅延でA380復活。787とA350追加発注
デルタ:A350は元ラタム機

ルフトハンザ:777X遅延でA380復活。787とA350追加発注

 ルフトハンザは、未納入の787-9を5機発注した際、A350-900も5機追加発注した。ともに長距離国際線用機材で、A350-900は2027年と2028年に受領し、787-9とともに経年機を置き換える。ボーイングとエアバスとは、発注済み機材の受領計画の見直しも合意している。

23年から復帰するルフトハンザのA380=18年2月 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 コロナ前の2019年に、ルフトハンザは787-9を20機発注。2021年5月発注の5機に加え、今年5月に7機を追加発注したことで確定発注は32機になった。追加発注した12機は他社が発注したものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で未納入になった機体で、5月発注の7機は2025年から2026年にかけて受領する。

 ルフトハンザグループ初の787となった787-9の初号機(登録記号D-ABPA)は、コロナの影響を色濃く受けた機体だ。D-ABPAのシリアルナンバー(MSN)は62730、ラインナンバー(LN)は905で、当初は海南航空(CHH/HU)向けに製造が開始されたものの、同社が経営破綻。その後インドの新興航空会社ビスタラ(VSS/UK)が受領する意向を示したが機材計画を見直し、最終的にルフトハンザが2021年5月に購入した。海南航空は創設者が2018年に事故死後、経営悪化が加速し、コロナの影響がとどめとなり破綻したが、運航は現在も継続しており、787-9も稼働している。

 ルフトハンザが2019年に787-9を発注した際、エンジンは英ロールス・ロイス(RR)製トレント1000を選定。しかし、D-ABPAは米GE製GEnx-1Bを搭載している。完成済みの機体のため、エンジンを新たに調達するコストや改修費用を考えると、そのまま購入した方が当然コストを抑えられる。

 未納入の機体を引き取ってもらえるのは、機体メーカーにとってはありがたい話であり、航空会社としてはメーカーに貸しを作ることになる。ルフトハンザにとって頭の痛い問題は、次世代大型機777Xの納入遅延だ。777Xをローンチカスタマーの1社として777-9を20機確定発注済みで、今年5月9日には貨物型「777-8 Freighter(フレーター)」も欧州では初めて7機発注した。

開発が遅れている777X。今年7月に開かれたファンボロー航空ショーではダイナミックな飛行展示を披露した=22年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ボーイングは今年4月27日に、777Xの引き渡し開始を2年遅らせ、2025年に初号機を納入すると発表。2回目となる787-9の追加発注は、777-8Fの発注と同時に発表された。777-9の納入遅延に伴う輸送力不足を補うもので、6月には総2階建ての超大型機A380を2023年夏に再就航させることも発表した。

 また、787はボーイングがFAA(米国連邦航空局)から製造時の品質問題を指摘され、今年8月まで新造機の納入が中断していたこともあった。しかし、一番の懸案材料は各社の次期フラッグシップとなる777Xの納入遅れだ。

 コロナ前から開発遅延が問題となっていた777X。ルフトハンザは超大型機A380の復活させ、使い勝手の良い中型機787-9の未納入機を確保し、大型機のA350-900を追加導入することで、コロナ後の需要回復を取り込む。

デルタ:A350は元ラタム機

 デルタ航空は777Xを発注しておらず、安価に機材更新を進めて整備費や燃油費を抑える考えで、7機のA350-900と29機の737-900ERをそれぞれ中古で導入する。

デルタ航空は中古のA350-900を活用していく=21年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 コロナの影響により、777とマクドネル・ダグラス(現ボーイング)MD-88型機、MD-90を全機退役させた。777は777-200ERを8機と777-200LRを10機の計18機、MD-88は47機、MD-90は29機運航していたが、需要が大幅に減少したことから燃費効率が悪い3機種の退役を前倒しした。

 デルタは「パンデミック(世界的大流行)は、新世代の航空機を魅力的な価格で導入するユニークなビジネスチャンスをもたらした」として、A350-900と737-900ERを成長に向けた投資として導入することにした。A350は777と比べて1席当たりの燃費が21%改善しており、737-900ERは既存機を補完する目的で導入する。

 777の後継機として、デルタはA350を2017年10月30日にデトロイト-成田線を皮切りに就航させている。777Xの開発遅延で、A350-900に加えて注文流れの787-9も調達したルフトハンザと異なり、燃費改善と廉価に機材を調達するのが今回のデルタによる中古機調達と言える。

デルタ航空の日本路線最後の777運航便となった羽田発ロサンゼルス行きDL3456便=20年10月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 A350は、ブラジルのTAM航空(現ラタム航空ブラジル、TAM/JJ)が2015年から受領した全13機のうちの7機。すでに3機はデルタの機体として路線に投入されている。

 ラタム(LATAM)はチリのラン航空(LAN/LA)とTAM航空の統合による新ブランドだが、各社を傘下に持つラタム航空グループは、2020年5月に日本の民事再生法にあたる米連邦破産法11条の適用をニューヨークの連邦破産裁判所に申請し、運航しながら再建手続きを進めている。デルタによる2021年のA350買い取りは、ラタムの経営再建の一環といえる。

◆ ◆ ◆

 ルフトハンザとデルタは、背景は異なるもののコロナ後の需要回復を見込み、コロナで放出された機体を入手することで、新造機を追加購入するよりも早期に体制を整えた。コロナで機材の受領を延期し、機体メーカーに貸しを作る航空会社もある中、A320や737のような小型機と違い、買い手が限定されるA350や787のようなワイドボディー機を引き取ったとも言える両社は、今後の機材調達でも有利な条件を引き出せそうだ。

関連リンク
Lufthansa Group
ルフトハンザ ドイツ航空

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