新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の水際対策が9月7日から緩和され、10月11日からは入国時検査が原則撤廃される。現在は成田や羽田など10空港に限定している国際線の受け入れも順次拡大し、1日最大5万人の入国者数制限も撤廃になり、海外との往来がやっと本格化すると言える。G7(先進7カ国)で、今も入国者数を制限しているのは日本だけだ。
9月7日の緩和では、3回目のワクチン接種を済ませていれば、日本へ入国時にPCR検査の陰性証明書は提示不要になった。これまでは短期間の渡航であっても、現地で費用が高い上に検査施設がすでに減っているPCR検査を受けなければならないなど、出張・観光といった目的を問わず海外渡航はハードルが高かった。
確かに7日の緩和により、海外には行きやすくなった。しかし、国際線と言えば燃油サーチャージ(燃油特別付加運賃)の高騰が新たな問題だ。サーチャージがなく、到着時刻がほぼ定刻であれば、LCCで海外取材も有力な選択肢ではないかと考え、緩和2日後の9月9日にZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)の成田-バンコク線に乗ってみた。
結論から言うと、片道6時間程度のバンコクであれば、取材費を抑える上で有力な選択肢だと感じた。運賃は片道3万円と国内線並みで、機内インターネット接続も無料だ。
—記事の概要—
前編
・サーチャージなし片道3万円
・国内線787と同じシートピッチ
後編
・電源あり。ネット無料
・LCCイメージと異なるZIPAIR
サーチャージなし片道3万円
ZIPAIRはJALが100%出資する中長距離国際線LCCで、機材はJALが運航していたボーイング787-8型機の内装を更新したもの。ボーイングが製造工程を見直していた787の引き渡しを再開したため、今後は新造機も受領する計画だ。
2020年6月の就航初便は、旅客機である787に貨物のみ搭載する貨物専用便となり、旅客便は同年10月から。現在は成田-バンコクとソウル(仁川)、ホノルル、シンガポール、ロサンゼルスの国際線5路線を運航しており、太平洋を横断して米国本土に乗り入れた初のLCCだ。12月12日には、6路線目で西海岸2都市目となる成田-サンノゼ線を開設する。
水際対策の緩和が進み、海外渡航で新たな問題となっているのが、サーチャージの高騰だ。全日本空輸(ANA/NH)と日本航空(JAL/JL、9201)の2社で比べると、価格差が多少あるものの、欧米は往復で10万円を軽く超え、東南アジアも6万円前後となかなかの負担だ。一方、ZIPAIRはサーチャージを徴収していない。
10-11月発券分の場合、ANAは日本-欧州・北米間などの長距離が片道5万8000円、ハワイ・インドなどが3万6700円、タイ・シンガポールなど東南アジア方面は3万円などとなっている。JALも北米・欧州などが5万7200円、ハワイ・インドなどが3万7400円、タイ・シンガポールなどが2万9800円と、原油価格高騰前の昨年10-11月分は両社とも往復で欧米が2万円程度、東南アジアなら1万円程度だったのと比べると、サーチャージは5倍以上になった。
22年10-11月発券分の燃油サーチャージ例(括弧内はJAL前年)
欧州・北米・:ANA 58,000円 / JAL 57,200円(11,600円)
ハワイ:ANA 36,700円 / JAL 37,400円(6,600円)
タイ・シンガポール:ANA 30,000円 / JAL 29,800円(5,000円)
当紙も徐々に海外取材が増えており、サーチャージ高騰は頭の痛い問題だ。交通費や宿泊費だけで1カ月あたり1人数十万円かかる割に、売上の回復は芳しくない。9月9日からバンコク取材に1泊3日の旅程で出掛けたが、ZIPAIRには2020年の就航以来一度も乗っていなかったことと、サーチャージがないこともあり、成田-バンコク線のエコノミークラスを利用してみた。
発券は8月31日で、成田発バンコク行きZG51便の運賃は3万1000円。これに空港使用料や税金3864円が加わり、支払いは計3万4864円だった。
片道3万円という運賃は、国内線の割引運賃と比べるとどうなのか。9月9日の羽田発那覇行きJL925便が3万2410円、福岡行きJL335便が3万1780円、札幌行きJL531便が3万3640円と、成田発バンコク行きと大差ない。つまり、羽田から沖縄など国内線の幹線に乗るのと同じくらいの片道運賃でバンコクまで行けてしまう。
ちなみに同じ9月9日発でJAL便を調べたところ、往復購入時は片道4万7500円が最安値で、往復8万2000円+サーチャージ・税等5万7230円で計13万9230円、片道発券だと19万4000円+サーチャージ・税等2万9250円で計22万3250円だった。ZIPAIRのバンコク発成田行きは5万円台のことが多く、往復で8万円程度なので、JAL便で往復するよりも5-6万円程度は安く済むようだ。
国内線787と同じシートピッチ
私が乗った9月9日のバンコク行きZG51便(787-8、登録記号JA822J)は、乗客144人(フルフラット8人、スタンダード136人)を乗せて成田空港第1ターミナルの22番搭乗口を定刻より2分早い午後5時3分に出発。バンコクには28分早着の同日午後9時17分(日本時間午後11時17分)に到着した。
成田を出発時、陰性証明書の提示は不要だが、3回目のワクチン接種を証明する書類は必要。バンコク入国時も同じで、iPhoneに保存しておいた接種証明書のPDFを提示した。
機内に入ると、黒いシートが広がる。ZIPAIRの787は座席数が2クラス290席で、JALの同型機と比べて約1.5倍となった。内訳はフルフラットシートを採用し、ビジネスクラスにあたる上級クラスの「ZIP Full-Flat(ジップ・フルフラット)」が18席、エコノミークラス「Standard(スタンダード)」が272席となる(ZIP Full-Flatはこちら)。。
個人用モニターは両クラスとも装備しないが、機内Wi-Fiサービスは衛星回線を使ったインターネット接続にも対応。ラバトリー(化粧室)は7カ所あるうち、3カ所はウォシュレット付きとなる。ギャレー(厨房設備)は全員分の機内食を用意する必要がないため、JAL仕様では4カ所あったが3カ所に減らした。また、改修前にあったバーカウンターも撤去している。
今回乗ったStandardのシートは独レカロ製シートで、3-3-3席配列の1列9席。シートピッチは31インチ(約79センチ)で、JALの国際線用787の34インチ(約86センチ)よりは狭いものの、国内線用787-8と同じピッチを採用した。改修前のJAL仕様は、787では世界唯一になった2-4-2席配列の1列8席だったが、1列あたり1席増えたことやギャレーとラバトリーの配置見直しにより、大幅に座席数が増えた。
座席幅はひじ掛けの間で17インチ(約43センチ)、リクライニング幅は3インチ(約8センチ)。リクライニング時は背もたれと座面が同時に動き、ゆりかごのような座り心地を目指した。
JALは同じシートをベースにした普通席を、国内線機材であるエアバスA350-900型機や、787-8の国内線仕様機で採用している。ZIPAIRの西田真吾社長は「調達を工夫した分、良いシートを採用できた」と、JALグループとして大量発注することで、フルサービス航空会社(FSC)であるJALと遜色がないシートを導入できたという。
後編では、機内の様子をお届けする。
関連リンク
ZIPAIR
ZIPAIR搭乗記・サーチャージなしで経費削減
後編 バンコクまでネット無料
番外編 フルフラットシートで片道10万円
機内の動画(YouTube Aviation Wireチャンネル)
・ZIPAIR 787-8 JA822J機内公開 フルフラットシートも
写真特集・ZIPAIR 787-8の機内
(1)フルフラット上級席ZIP Full-Flatは長時間も快適
(2)個人用モニターなし、タブレット置きと電源完備のレカロ製普通席
(3)LCC初のウォシュレット付きトイレ