博多駅から地下鉄でわずか5分で着く福岡空港。羽田空港が都心から20-30分かかるのと比べても、立地の良さは際立っている。2019年4月1日に民営化され、運営する福岡国際空港会社(FIAC)は30年後の2048年度までに路線数をおよそ2倍の100路線に増やす目標を掲げ、東アジアでトップの空港を目指しており、今年5月からは国際線ターミナルの増改築工事が本格化した。
増築部分の開業は建設中の第2滑走路が供用開始となる2025年3月末、改修部分の完成は同年11月を予定しており、国際線の旅客需要が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から回復しているころの稼働となる見通しだ。
一方で、都心部にある空港ゆえに敷地の拡張は現実的ではなく、スペースの有効活用が不可欠だ。加えてグランドハンドリング(地上支援)業務は少子高齢化により全国的な人手不足であり、新規就航や増便を進めていく上で、省力化も避けては通れない課題の一つになっている。
FIACでは、グラハン業務に使用するGSE(航空機地上支援車両)の将来的な共有化に向けた実証実験を2021年に実施した。国内線の幹線が乗り入れる空港のうち、羽田や伊丹、新千歳、那覇では航空会社ごとに使用するターミナルやスポット(駐機場)が分かれている。一方、福岡の国内線ターミナルは同じスポットを全日本空輸(ANA/NH)と日本航空(JAL/JL、9201)が交互に使うケースがあるなど、規模が大きな空港の中では珍しい存在だ。それゆえに、GSEを各社で共用・共有するメリットが期待できる。
FIACでGSE共用化プロジェクトを担当する松浦義郎担当課長に、実証実験の成果や今後について聞いた。
—記事の概要—
・イレギュラー起きても対応可能に
・戻りつつある国際線
イレギュラー起きても対応可能に
FIACによるGSE共用実証実験は、国土交通省航空局(JCAB)が2020年1月に出した「グランドハンドリング アクションプラン」に基づくもの。国際線では、福岡空港のグラハン事業者のうち、国際線を受託しているANA福岡空港、JALグランドサービス九州、西鉄エアサービスの3社が参加した。国内線は3社に加えてスカイマーク(SKY/BC)、フジドリームエアラインズ(FDA/JH)便を担う鈴与グループのエスエーエスの計5社が携わった。
福岡空港には実験した2021年時点で11車種約2000台のGSEがあり、このうち国内線が約1300台、国際線は約700台。国内線では航空機の牽引に使うトーイングカー、貨物や手荷物の搭載に使うベルトローダー、ハイリフトローダー、国際線では3車種にパッセンジャーステップ車(タラップ車)を加えた4車種で検証した。
松浦氏は「参加した事業者からは安全性向上や無駄な移動がなくなるといった意見が聞かれ、効率が上がったという評価でした」と話す。国内線ターミナルでは、1番から12番までの各スポット周辺に配置する「オンスタンド型」で検証し、共用することで総台数の削減や移動距離の短縮による効率化、安全性向上につながるかを調べた。
また、6番と9番、12番、13番スポット付近の計4カ所に、GSEの仮置き場を用意。予め調整したスポットに遅延などで到着できない場合も、GSEの運用に支障が出ないようにした。これらの仮置き場などは実証実験用に整備したことから、検証後は元に戻したという。
「トライアルとして整備したので、期間中に調整したところもありました。もうちょっとこうした方がいいよね、とご指摘をいただいたところもありました」(松浦氏)と、検証結果や今後の運用方針などを勘案して、改めて整備したいという。
特に遅延などイレギュラー運航が発生した際も、一定の程度までは共用するGSEの運用がほかの便に影響しないようにするなど、今後は実際の運用に合わせて各事業者と調整していくことになるそうだ。
戻りつつある国際線
国際線については、1年前の2021年7月27日から8月27日まで1カ月にわたり実施した。松浦氏は「便数が少ない中で実施したので、国際線がある程度復便した状態でも見ていかないといけないと思います」と、本来計画している便数でGSEの運用に支障がないかも検証する必要があると指摘する。
7月に入り、ベトナムのベトジェットエア(VJC/VJ)がハノイ線を2日に、タイ・ベトジェットエア(TVJ/VZ)がバンコク(スワンナプーム)線を16日に、韓国のエアプサン(ABL/BX)がソウル(仁川)線を22日に開設。8月にはユナイテッド航空(UAL/UA)がグアム線を4日から再開するなど、徐々に国際線が戻りつつある。
こうした本来の環境下で、増改築する国際線ターミナルを視野に入れた検証が今後必要になってくる。
羽田などと異なり、各社の国内線が同じスポットを共有する運用もある福岡空港。松浦氏は実証実験を実現できた背景として「グラハンを含め、一体感があることだと思いますね」と話す。コロナによる大量減便が出始めた2020年4月から、福岡に乗り入れる航空会社7社の社員が合同で出発便の見送りを始め、同年9月からはFIACがまとめ役となって「TEAM FUK(チーム福岡空港)」として取り組むようになった。こうした日ごろからの関係作りが役立った。
GSEの運用は、福岡で検証している共用・共有化の可能性のほか、各空港で進められている自動運転化など、約40年変わらなかったと言われる環境が大きな変革期を迎えている。国内線は一定の規模まで回復した今、これからは国際線の本格回復に合わせて、福岡から新しい運用の仕方が生み出されそうだ。
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