エアバス, エアライン, 機体, 空港, 解説・コラム — 2022年7月15日 21:00 JST

ANA古川機長「日常を取り戻す希望を込め出発」搭乗記・空飛ぶウミガメA380再開初便(前編)

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 海外の主要国と比べ、いまだに厳格な水際対策が行われている日本。一方で、ほかのG7(先進7カ国)諸国は感染対策とコロナ後の経済対策のバランスを取っており、日本だけが回復基調から取り残されている感がある。航空・旅行業界も、国内旅行はある程度回復の兆しが見えるが、海外旅行は帰国時のPCR検査が必須な上、万一陽性反応が出た場合は高額な医療費が必要になる国もあるなど、気軽に出掛けられる状況とは言えない。

成田空港で出発を待つANAのA380のコックピットのガラスを清掃するスタッフ=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 諸外国から実効性を疑問視されている水際対策だけではなく、燃油サーチャージの高騰や円安といった要因もあり、当面は旅行に出掛けるにしても国内を中心に考えている人も多いのではないだろうか。そうした中、日本人に人気の旅行先であるハワイは、米国内の観光客を中心に活気が戻りつつある。今夏は日本の航空会社も路線再開や増便を計画しており、コロナ前の日常を目指す地元の期待は大きい。

 路線再開の中でインパクトが大きいのは、全日本空輸(ANA/NH)が7月1日に週2往復で再開した成田-ホノルル線だ。機材は総2階建ての超大型機エアバスA380型機「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」で座席数は4クラス520席と、ANAが羽田-ホノルル線などに投入しているボーイング787-9型機(3クラス246席)と比べ、約2倍の提供座席数を誇る。

 A380の本格的な定期便投入は2020年3月以来、約2年3カ月ぶり。再開初便である1日のホノルル行きNH184便の機内はどのような様子なのか。特典航空券で往復ともエコノミークラスに搭乗してみた。前編の今回は往路を取り上げる。

ANAのA380ではホノルル到着前にハワイをイメージしたレインボー照明がともる=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
再開初便は414人
「日常を取り戻す希望を込めて出発します」
静かな機内

再開初便は414人

 ANAのA380は全3機で、このうち青(ANAブルー)の初号機(登録記号JA381A)と深緑(エメラルドグリーン)の2号機(JA382A)の2機が就航済み。2019年5月24日に就航したが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、2020年3月25日に成田へ到着したホノルル発NH181便(JA381A)を最後に定期便の運航が途絶え、2021年の定期便運航は8月の2往復4便のみだった。

成田空港でA380再開初便となったホノルル行きNH184便を見送るANAの社員ら=22年7月1日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 本格的な定期便再開となった1日の成田発ホノルル行きNH184便は、乗客414人(幼児5人含む)と乗員23人(パイロット3人、客室乗務員21人)を乗せて、午後8時21分に出発した。搭乗率としては8割程度といったところだった。ANAにとっては節目となるフライトで、井上慎一社長も成田の搭乗口で自ら乗客に記念品を手渡したり、社員を激励していた。

成田空港のANAラウンジで注文したとんこつラーメン。A380のコックピットガラスをスタッフが拭いていた=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 私はこの日、早朝から成田でいくつかの取材をこなし、チェックイン後はANAのラウンジでとんこつラーメンを食べたりしながら編集作業を進めていた。窓越しにA380を眺めていると、コックピットの窓が開き、2人のスタッフが窓ガラスを拭いていた。500人以上が乗れる超大型機だが、人が飛ばしているんだなと改めて感じた。

 搭乗口では客室乗務員によるフラダンスや成田で働くANA社員による「成田スカイバンド」の演奏などが披露され、運航再開を盛り上げた。出発時には駐機場にライトアップされた貨物コンテナが用意され、社員が青いペンライトを振って「空飛ぶウミガメ」の意味を持つフライングホヌことA380の再開初便を見送った。

成田空港でA380再開初便出発前に記念撮影する「成田スカイオーケストラ」のメンバー=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港の54番搭乗口からANAのA380再開初便となったホノルル行きNH184便に搭乗する乗客=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAのA380再開初便となったホノルル行きNH184便のドア=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

「日常を取り戻す希望を込めて出発します」

 私は2019年の初便就航時も搭乗したが、やはり節目のフライトは実際に乗ってみないとわからないことがある。その一つがどんな人たちが乗っているのかだ。搭乗口や機内を観察していると、家族連れや外国人が目立ったが、やはり再開初便とあって動画を撮りながら乗る人もみかけた。

成田空港でA380再開初便出発前に記念撮影に応じるANAの井上社長(中央)ら。古川機長(ぬいぐるみ除き右から2人目)も参加した=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田空港でA380再開初便となったホノルル行きNH184便を見送るANAのスタッフ=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 多くの青いペンライトが振られている駐機場を後にし、20分ほどたった午後8時40分ごろ、まもなく離陸するとのアナウンスがあった。その後、ANAでA380の導入に携わり、2019年3月のトゥールーズから成田までのフェリーフライトも担当した古川理機長がコックピットからあいさつした。

 古川機長は「定期的にホノルルへの路線運航を行うのは、2020年3月以来、約2年3カ月ぶりです。この間、世界の景色は大きく変化し、航空業界も大変な時期を過ごして参りました。大変苦しい時期ではありましたが、多くの方から激励の言葉をいただき、また、フライングホヌで実施した遊覧飛行やレストラン、航空教室では、多くのお客様の笑顔に接することができまして、私たちにとって本当に大きな励みとなりました」と、乗客に感謝の気持ちを伝えた。

 「応援していただいた皆様、本日ご搭乗いただいた皆様に対する心からの感謝を込めて、また、これから日常を取り戻すという希望を込めて、これよりホノルルへ向け出発いたします。ハワイの滞在が素晴らしいものとなりますよう乗務員一同願っております」とあいさつし、本格的な定期便として夜の成田から2年3カ月ぶりに離陸した。

成田空港を離陸するANAのA380再開初便となったホノルル行きNH184便=22年7月1日 PHOTO: PHOTO: Rintaro AZUMA/Aviation Wire

静かな機内

 出発前に聞いたところでは、ファーストクラスとビジネスクラスは満席。私は1階(メインデッキ)後方にあるカウチシート「ANA COUCHii」の前で、非常口座席となる窓側の70A席に座ったが、カウチも全ブロックが埋まっているようだった。

ANAのA380再開初便となったホノルル行きNH184便のエコノミークラス70A席。緑色のヘッドレストカバーがカウチシートだ=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAのA380再開初便となったホノルル行きNH184便エコノミークラスの機内食=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 午後9時45分に機内食が届けられ、30分後の午後10時15分にはアイスクリームも含めて完食した。私の横は2席ともほかの乗客がいなかったので、非常口座席でトイレに行きやすい上に、ノートパソコンなどを置く場所にも困らなかったのはよかった。

 この時の巡航高度は約3万9000フィートで、機内は離陸時も含めて静かだった。やはり静かな機体の方が疲れにくいように感じた。

 午後11時。軽食が配布された。朝食はなく、これを好きなときに食べてもらうというものだった。午後11時12分に客室の照明が消え、残りの飛行時間は4時間14分と出ていた。

ANAのA380再開初便となったホノルル行きNH184便エコノミークラスの軽食=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAのA380再開初便となったホノルル行きNH184便エコノミークラスの機内=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ホノルルへ向かうANAのA380再開初便となったNH184便=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 日本時間2日午前2時15分、ハワイ時間で1日午前7時15分に起床。高度は約4万1100フィートで、午前7時30分には「少しはお休みいただけましたでしょうか」と客室乗務員のアナウンスがあり、免税品販売が終了した。午前7時50分には照明がレインボーになり、ハワイと虹の関係などのアナウンスがあった。

 そして定刻より2分早い午前8時43分にホノルルのダニエル・K・イノウエ国際空港(旧称ホノルル国際空港)へ到着。機外へ出た際のモワッとした空気が、ハワイに着いたことを体感させてくれた。

 しかし、入国検査場に入るとコロナ前とは違う雰囲気だった。かつては日本だけでなく、韓国などアジアからの便も同じくらいの時間帯に多数到着していたため、検査場がかなり混雑していた。しかし今回は私が後方席だったこともあって、NH184便から400人以上の乗客が一度に到着した割には閑散としていた。

(つづく)

*写真は23枚(運航スケジュールは写真下に掲載)。



【4K】機内から見たANA A380再開初便ホノルル着陸【NH184】

ANAのA380再開初便となったホノルル行きNH184便エコノミークラス=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ホノルルへ向かうANAのA380再開初便となったNH184便=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ホノルル空港へ進入するANAのA380再開初便となったNH184便=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ホノルルに到着したANAのA380再開初便となったNH184便=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ホノルルに到着したANAのA380定期便再開初便となった成田発NH184便=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ホノルル空港ではANAのA380再開初便となったNH184便の乗客をハワイアンミュージックの生演奏で出迎えた=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAのA380再開初便となったNH184便が到着したホノルル空港=22年7月1日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

運航スケジュール
NH184 成田(20:10)→ホノルル(08:45)運航日:金土
NH183 ホノルル(11:35)→成田(翌日14:50)運航日:金土

関連リンク
全日本空輸

7/1からANA A380運航再開
ANA、A380定期便復活 青い空飛ぶウミガメ、ホノルルへ(22年7月1日)
ANAのA380、ホノルルからも再開初便出発(22年7月2日)
ANA A380再開初便CAに聞く、2年3カ月ぶりホノルル定期便(22年7月4日)

動画(YouTube Aviation Wireチャンネル
【4K】機内から見たANA A380再開初便ホノルル着陸【NH184】

ハワイ州知事も期待
ハワイ州イゲ知事「スタートだと信じている」A380再開で観光回復期待(22年7月3日)

初便就航
ANA、A380就航 空飛ぶウミガメ、成田からハワイへ(19年5月24日)
ANAのA380、ホノルルからも初便出発(19年5月25日)

写真特集・ANA A380 FLYING HONUの機内
(1)個室ファーストクラスでプライバシー確保
(2)ペアシートもあるビジネスクラス
(3)2階後方にゆったりプレエコ
(4)カウチシートもあるエコノミー