京急蒲田駅で昨年12月に急病人を救ったとして、日本航空(JAL/JL、9201)の客室乗務員(CA)の太田美穂さんが同駅駅員の田辺まゆさん、尾上愛美さんとともに東京消防庁蒲田消防署から感謝状を贈られた。
女性駅員たちがAED(自動体外式除細動器)を使って救命活動を行う様子を見て、太田さんは「お手伝いしたことで最悪の状態になったらどうしよう、と迷いましたが、今やらなきゃと思い、名乗り出ました」と当時の心境を打ち明けた。
太田さんらの行動で、蒲田署によると男性は救急車で医療機関に搬送され、意識を回復したという。
思いも寄らないことが突如起きたが、太田さんは冷静に状況を判断し、救急隊が到着するまで女性駅員と交代で胸骨圧迫を続けた。
—記事の概要—
・「こういう時のための訓練なんだ」
・「人間として何が正しいかで判断する」
「こういう時のための訓練なんだ」
太田さんは入社4年目で、社内のAED訓練を3回受講していた。「リカレント訓練」と呼ばれるCAが資格を維持していく上で必要な訓練にAEDを使った講習が含まれており、太田さんもこの訓練でAEDの使い方や胸骨圧迫による心臓マッサージを人形を使って習得していた。
2021年12月30日正午ごろ、京急蒲田駅で50代男性が駅構内の上りエスカレーターで意識を失い転倒。通行人から状況を知らされた駅員が現場に駆けつけ、119番通報した。女性駅員たちがAEDを使って心肺甦生を行っていたところ、通りがかった太田さんもJALのCAとして訓練を受けていることを告げて加わった。
太田さんは「1年に1回訓練を受けており、胸骨圧迫のお手伝いができます」と駅員に伝えた後、状況を把握するため、救急車を呼んだのか、1回目のショックの有無、AEDによる心電図解析が何回あったか、時間をメモしているかなどを聞き、心肺甦生を手伝った。
「状況を把握するために必要な要素でした」と話す太田さんは、とっさにすらすらと質問できたことについて「こういう時のための訓練なんだなと思いました」と振り返る。ところが、駅での心肺蘇生は訓練とは勝手が違ったという。機内にはAEDのほか、酸素ボトルと心肺蘇生時に使うキットが搭載されているが、駅にはAEDしかなかった。
しかし、倒れた男性の呼吸状態がリカレント訓練の映像教材で見た下顎(したあご)をパクパクさせる「死戦期呼吸」の様子と一致し、通常の呼吸ではなかったことから、胸骨圧迫を実施したという。
AEDを使った心肺甦生では、交代するタイミングも重要だ。「次の心電図解析までは途絶えさせてはダメなんです」(太田さん)と冷静に判断し、救急隊の到着まで女性駅員と太田さんの2人が交代で心肺甦生を続けた。
駅員が胸骨圧迫を続けていると、男性が苦しそうな表情を浮かべた。AEDは継続を指示しているが、本当に大丈夫かと不安になったという。別の駅員に消防へ電話してもらい、太田さんが指示を仰いで胸骨圧迫を続けて救急隊の到着を待った。
正確な時間はわからないものの、「10分か15分くらいだったと思いますが、すごく長く感じましたね」と、不安に駆られながら継続していた。
「人間として何が正しいかで判断する」
太田さんはCAの仕事に対して漠然とした憧れは抱いていたものの、CAを目指そうと決心したのは、就職活動が本格化する大学3年生の1月ごろだったという。
JALが破綻後に制定した「JALフィロソフィ」のうち、行動指針の「人間として何が正しいかで判断する」という言葉が就職活動を始めた際、心に残ったという。今回駅で急病人を目にした際も、この言葉が不安に駆られながらも行動を後押しした。
入社して訓練を受けていくにつれ、「安全があった上でサービスが成り立ちます。外から見ていたCAのイメージがだんだん変わっていきました」と、保安要員としての務めを果たして初めて良いサービスを乗客に提供できるという。
最後にCAを目指す人へのアドバイスを聞いた。「相手の立場になって考えることがすごい大事です。お客さまに対しても、同僚に対しても思いやりがあり、相手の立場で『これが必要なのではないか』という発想が大事だと思います」。
目の前に急病人がいたとしても、救命活動を名乗り出るのは勇気がいることだ。太田さんは「目の前に倒れている人がいる、何のために訓練を受けてきたのか、と頭の中で考えが一周ぐるっと回りました」と、手伝う決心をした際の心境を語った。訓練を緊急時に実践した太田さんは、今日も何事もなかったかのように笑顔で飛び続けている。
関連リンク
日本航空
・JALのCA、京急蒲田駅で急病人救助 駅員と心臓マッサージ(22年2月15日)