日本航空(JAL/JL、9201)は3月4日、欧州路線は同日から当面は羽田-ロンドン線のみ運航を続けると発表した。ロシアのウクライナ侵攻の影響で、ロシア領空を迂回(うかい)してアラスカ上空などを飛行する「北回り」で運航し、欠航となるパリ、フランクフルト、モスクワ、ヘルシンキ線の利用者は、ロンドンからブリティッシュ・エアウェイズ(BAW/BA)などの便に乗り継いでもらう。飛行時間は通常のロシア領空飛行時と比べて最大4時間半多くかかり、約16時間になる。
—記事の概要—
・ロンドンから欧州各地へ
・16時間飛ぶため貨物量制限
ロンドンから欧州各地へ
ロンドン線は1日1往復で、日により2往復運航。ロシア領空は飛行せず、羽田からアラスカ、グリーンランド、アイスランドの上空を飛行してロンドンへ向かう。アラスカ上空は飛行するものの、かつての経由地だったアンカレッジ付近は予定経路に含まれていない。
毎日運航するJL43/44便の場合、飛行時間は通常ロンドン行きJL43便が12時間40分、羽田行きJL44便が11時間55分だが、4日は北回りになることで往路のJL43便が2時間55分、復路のJL44便が4時間30分多くかかり、JL43便の飛行時間は約15時間40分、JL44便は16時間25分になる見込み。
機材は従来と同じボーイング777-300ER型機を使用する。一方、飛行時間が延びたことからパイロットの疲労を考慮し、普段よりも1人多い4人編成で運航している。通常の「マルチクルー」編成は3人で、機長2人と副操縦士1人または機長3人、今回の「ダブル」編成は4人で、機長と副操縦士1人ずつまたは機長2人の組み合わせで2組乗務し、2人1組で操縦する。
ロンドン線以外でこれまで運航していた欧州路線の羽田-パリ、モスクワ、ヘルシンキ、成田-フランクフルトの4路線は、当面欠航となる見込み。予約済みの利用者は、可能な限りロンドン線に振り替える。また、飛行経路の変更により増える燃料費はJALが負担し、燃油サーチャージなど運賃には転嫁せずに従来と同じ運賃を適用する。当面は運航方針を1週間に1回程度の頻度で見直し、同社のウェブサイトで発表する。
今回の北回りは、過去にアンカレッジ経由便が飛行していたルートで運航ノウハウがあることや、JALと同じ航空連合ワンワールド・アライアンスに加盟しているBAの拠点であるロンドン・ヒースロー空港に最短距離で運航できることなどで選定した。
現時点で日本国籍機はロシア領空を飛行できるが、JALによるとロシアへの経済制裁によりサプライチェーンがつながらないことが想定され、機材故障で目的地以外の空港に着陸する「ダイバート」が発生した場合、機体の修理が必要になっても代替部品を調達できないなどのリスクがあるとして、北回りに変更したという。
また、モスクワ線はEASA(欧州航空安全庁)からモスクワ上空の空域での飛行に対して注意喚起が出されていることから欠航を決めた。
JAL路線事業本部の副本部長を務めるロス・レゲット執行役員は、欧州路線の旅客便利用者数について「日によるがロンドンが100人、それ以外は80-100人くらいだ」と現状を説明した。
16時間飛行で貨物量制限
JALがロンドン線などに使用している777-300ERは長距離国際線機材で、乗客や貨物を満載した際の最大飛行時間は、12-13時間程度を念頭に置いている。今回は北回りで16時間飛ぶために燃料を多く積んでおり、そのあおりで貨物の搭載量に制約が生じている。
北回りは欧州へ向かう時が燃費の良い追い風、日本へ帰る際は燃費が悪化する向かい風で、南回りはその逆になるため、ロンドンから羽田へ向かう際に燃料搭載量を減らせる南回りを選択して1便当たりの貨物搭載量を増やしたり、欧州便欠航で生じる余剰機材を活用して乗客を乗せない貨物専用便を新たに設定することで、ひっ迫する貨物需要に応じることなどを検討している。
JALは1986年4月2日から成田-ロンドン線、3日後の同月5日から成田-パリ線、1988年4月1日から成田-フランクフルト線がロシア領空を飛ぶシベリアルートの使用を開始している。現在のJAL便に北回りや南回りで運航している便がないため、南回りは各国の領空を飛行する許可を取得したり、パイロットが緊急時のダイバート先を把握するなどの準備が必要で、過去に運航実績がある北回りから着手した。
一方、目的地までの間に給油する「テクニカルランディング」は、交代要員の確保などさらなる費用増加が見込まれるため、当面は直行便で対応していく。
羽田-ロンドン線(JL43/44)(定刻/変更後の時刻)
JL43 羽田(11:30/11:30)→ロンドン(15:15/18:10)
JL44 ロンドン(19:00/20:10)→羽田(15:55/21:35)
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