全日本空輸(ANA/NH)の新社長に就任する井上慎一専務は2月14日、ANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下のLCCで自身が創業時にCEO(最高経営責任者)を務めたピーチ・アビエーション(APJ/MM)も、定時性向上が不可欠になっていくとの考えを示した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大以降、ANAとピーチは一部路線でコードシェア(共同運航)を実施したり、共同マーケティングなどを展開しており、顧客が求めている要素の一つが定時性であるとして「LCCだから定時性が悪くていい、という議論はもう終わった」と述べた。
ANAはグループの総収入の約8割を担う中核の事業会社。井上氏は「安全運航、定時運航がお客さまとの最大のお約束であることを前提とした上で、チャンスを確実にとらえ、収入を上げ、一日も早く黒字化を達成する」と抱負を述べた。
ANAは航空分野の情報を提供する英国の「シリウム(Cirium)」が実施した調査で、2021年の定時到着率が世界一になった。2017年4月に就任し、来月末で退任する平子裕志社長は「社長就任1年目の年末にあるOBから『定時性がダメじゃないか』と指摘され、心に火が付いた。徹底的に定時性を良くしていこうと、部門横断的に検討して実行した」と、世界一に到達した経緯を明かした(関連記事)。
井上氏はANAの安全運航と定時性について、「一丁目一番地の取り組みとして推進していく」との課題認識を示した。
コロナ後の需要取り込みでは、低価格運賃で回復が先行するピーチとの連携も不可欠だ。ANAとの協業が多分野で増えているピーチの定時性についても「一般論としてLCCも定時性を重視しなければならない。(アイルランドの)ライアンエア(RYR/FR)のウェブサイトには、遅れたらいくら罰金を払うと書いている。価格訴求のライアンエアが、そこまで運航品質にこだわるようになり変わってきた。お客さまのニーズに定時性がある」と語り、ANAの定時性向上の成功体験をピーチにも展開する必要性を示唆した。
国土交通省航空局(JCAB)がまとめた特定本邦航空運送事業者に関する「航空輸送サービスに係る情報公開」の2020年度(20年4月から21年3月)分によると、定時運航率の1位はスカイマーク(SKY/BC)で99.14%を記録し4年連続首位、2位はソラシドエア(SNJ/6J)で98.93%、3位はスターフライヤー(SFJ/7G、9206)で98.79%、4位は日本トランスオーシャン航空(JTA/NU)の97.76%、5位はエア・ドゥ(ADO/HD)の97.13%、6位はANAの96.97%、7位は日本航空(JAL/JL、9201)の96.81%、8位はジェットスター・ジャパン(JJP/GK)の94.93%、9位がピーチ・アビエーション(APJ/MM)の93.94%、10位がスプリング・ジャパン(旧春秋航空日本、SJO/IJ)の93.83%だった。
国交省航空輸送サービスに係る情報公開20年度
01 SKY 99.14%
02 SNJ 98.93%
03 SFJ 98.79%
04 JTA 97.76%
05 ADO 97.13%
06 ANA 96.97%
07 JAL 96.81%
08 JJP 94.93%
09 APJ 93.94%
10 SJO 93.83%
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