ANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下のANA Xは11月21日、ボーイング787型機就航10周年を記念したオンラインツアーを開催した。機体の導入に関わったパイロットが当時の秘話を披露し、約360人の申し込みがあった。
ANAは787の初号機(787-8、登録記号JA801A)を10年前の現地時間2011年9月25日に受領。28日に羽田へ到着し、国内線は同年11月1日に就航した。ツアーの座談会では、幻となった787-3に言及されたり、質問コーナーではANAが全3機種運航している787の違いに関する質問も寄せられた。
—記事の概要—
・幻の787-3
・意外と難しい成田空港
・世界のどこでも行ける
幻の787-3
導入に携わったパイロットによる座談会では、787の機長でANA安全推進センターの塚本真巳副センター長と、ANAフライトオペレーションセンター B787部の早川秀昭機長が当時を振り返った。
塚本さんは、2007年からボーイングに約2年間出向してパイロットの立場で787の開発に携わり、ボーイングとANAが787就航前の2011年7月に日本で実施した検証プログラム「SROV」では、ANA塗装を施した飛行試験2号機(ZA002、登録記号N787EX)のシアトルから日本へのフェリーフライト(回航)を担当。世界初の商業フライトとなった2011年の香港行きチャーターのNH7871便にも、機長として乗務した。早川さんは初代訓練センターB787訓練部の部長を務め、初号機をシアトルから羽田へフェリーする際に操縦を担当した。
早川さんは、「たった1機の787から始まり、今では1006機がデリバリーされ、世界中どこの主要空港にも787があります。よくここまで来られたな、というのが一番うれしいです」と、開発当初から携わってきた感想を語った。
ANAは2004年4月26日、ローンチカスタマーとして787を50機購入すると決定。11月22日時点で標準型の787-8が36機、長胴型の787-9が39機、超長胴型の787-10が2機の計77機を保有している。当初は日本の国内線をターゲットにした787-3も、中型機767の後継機として導入する計画だった。しかし、ボーイングは787-3の開発中止を決めた。
座談会で塚本さんは「787-3は767と同じ翼幅でしたが、ボーイングから燃費が悪くなるので開発できないと言われ、787-8を国内線に導入することになりました」と、787-3がキャンセルになった要因を明かした。塚本さんによると、ANAでは767と同じ翼長52メートル級の駐機場での787-3の運航を計画していたという。
一方で、787-8は国際線中心の運航を想定していた。離着陸回数が多い国内線に投入するため、ANAでは着陸装置の耐久性や機内の与圧などに影響がないかを検討したが、787-8に新たな設計変更を行うことなく導入できたそうだ。パイロットの立場でも、787-8を国内線で運航する上で問題はなかったという。
意外と難しい成田空港
オンラインツアーは、「視聴のみプラン」と、10周年オリジナルフライトタグやステッカーなどが入った「視聴+10周年限定BOX付プラン」、パイロットとオンラインで会話できる「視聴+10周年限定BOX+パイロット交流付プラン」の3プランを用意。価格(税込)は視聴のみが2980円、限定BOX付きが5980円、パイロット交流付きが8980円で、定員は視聴のみが200人、限定BOX付きが100人、パイロット交流付きが10組だった。
ツアーの質問コーナーでは、塚本さんとB787部の細内豊機長、大野翼副操縦士が寄せられた質問に答え、ANA客室センターの客室乗務員、兪智瑛(ゆ・ちよん)さんが司会を務めた。
参加者から787-8と787-9、787-10の3機種で操縦の違いを尋ねられると、細内さんは「離陸してしまうと、機体ごとの差はほとんど感じないですね」と話し、塚本さんは「内輪差が若干違います」と地上走行時に差を感じることがあるという。
また、初号機と2号機(JA802A)は就航から6年が過ぎた2017年までは特別塗装で、前部胴体に「787」と大きく描き、後部の藍色に交差するラインは「ANAのネットワーク」と「ANAのプロダクトサービスブランド」を表現した。白いボディーに濃紺のアクセントが入ることから、航空ファンからは“鯖”(サバ)塗装とも呼ばれて親しまれてきた。
この「サバ塗装」の復活の可能性を尋ねられると、塚本さんは「サバと言われていることを知らなかったんです」と笑い、細内さんは「思い入れのある人もいるので、そのうち復活してくれればと思います」と話していた。今回のオンラインツアーの限定BOXには、「サバ塗装」にちなんだサバ缶も含まれている。
パイロット交流プランでは、細内さんと大野さんが参加者と交流。10代のパイロットに興味がある参加者とのやり取りでは、細内さんは「苦手なことを苦手と認識することがまず最初」と話し、大野さんは「失敗をさらけ出すことが大事です」と、同期と訓練時に悩みを共有することで、ともに成長できたという。
複数の参加者がパイロットたちに訪ねていたのが、ANAの787運航路線では最長となる成田-メキシコシティ線についてだった。細内さんはメキシコシティ空港への着陸について「標高が高く、速いスピードで着陸しなければならないです。着陸操作は必要な操作をイメージして、ずれたものを修正していきます」と説明していた。また、日常的にフライトしているのに難しい空港として成田を挙げ、「空港の近くに谷があるのでかなり揺れながら降りなければならないことがあります」と、難易度が高まる要素のほとんどが気象条件であることを話していた。
世界のどこでも行ける
新型コロナの影響で開かれる機会が増えたオンラインツアー。参加した感想を尋ねると、塚本さんは「すごく興味を持って頂き、私も元気を頂けました。今後は公共交通機関としての使命を果たしていきたいです」と喜んでいた。「787は世界各地どこでも行け、どういう使い方でもできます」(塚本さん)と、コロナ後の787の活躍に期待を寄せていた。
細内さんは「パイロットはお客さまと接することがほとんどなく、こうした機会はうれしいです」と話し、大野さんは「画面越しですが、ふれ合う機会で元気をいただけました」と、今後の乗務の励みになったようだ。
客室乗務員の兪さんも「乗る機会がない方も手軽に参加でき、生の声を実感できて楽しめました」とリアルな接客とは違った良さがあったという。イベントを企画したANA Xの何苗(へ・みょう)さんは、「準備に半年くらいかかりましたが、無事終わって良かったです」と安堵の表情を見せ、参加者から寄せられたアンケート結果を基に、今後の企画を考えたいと話していた。
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