エアライン, ボーイング, 機体, 空港, 解説・コラム — 2021年11月13日 10:02 JST

「ロスは在留邦人が世界最多」特集・ZIPAIR、太平洋越え西海岸へ

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 日本を含む世界のLCC(低コスト航空会社)で初めて太平洋を横断し、ロサンゼルスへ就航するZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)。日本航空(JAL/JL、9201)の100%子会社で、中長距離路線を中心に国際線を運航する同社は、設立当初からLCCでは前人未踏の太平洋横断を目標に掲げ、クリスマスの12月25日を成田-ロサンゼルス線の就航日に決めた。

 しかし、米国の西海岸であれば、サンフランシスコなども有力な候補地であったはずだ。2020年6月の就航以来、バンコク、ソウル、ホノルル、シンガポールと就航地を拡大してきたZIPAIRは、初の米国本土路線としてなぜロサンゼルスを選んだのだろうか。

*初便の記事はこちら

ZIPAIRの787-8の上級クラス「ZIP Full-Flat」。フルフラットシートでロサンゼルスへ就航する=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
在留邦人が世界最多
成田で「際際接続」も

在留邦人が世界最多

 成田-ロサンゼルス線は週3往復で、火曜と木曜、土曜に運航。機材はボーイング787-8型機。座席数は2クラス290席で、フルフラットシートを採用したビジネスクラスにあたる「ZIP Full-Flat(ジップ・フルフラット)」が18席、エコノミークラス「Standard(スタンダード)」が272席となる。片道運賃はビジネスクラス「ZIP Full-Flat Value」が8万8000円から、エコノミークラス「Standard Value」が2万7500円から、2歳未満6歳以下の子供運賃「U6 Standard Value」は1万円で販売する。

12月に就航するZIPAIRの3号機=21年10月29日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

成田-ロサンゼルス線開設を発表するZIPAIRの西田真吾社長=21年11月12日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

フルフラットベッドになるZIPAIRの787-8の上級クラス「ZIP Full-Flat」=19年12月18日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ZIPAIRの西田真吾社長は「在留邦人の人数が世界最大の都市だ」と、ロサンゼルスに就航する狙いを説明する。LCCの主なターゲットは観光需要やVFR(友人・親族訪問)で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受ける前に日本へ就航した海外のLCCも、中国や台湾、タイ、ベトナム、フィリピン、韓国など、観光に加えて里帰り需要が期待できる国や地域を拠点とするところが多かった。コロナ後の需要回復も、観光とVFRが企業の出張需要よりも先行して回復するとみられている。

 「発表した運賃はセールやフラッシュ運賃ではない。常にこの状態だ」と、多くのLCCのようにセールで目玉運賃を設けるのではなく、常に空席連動型の運賃で勝負していくという。

 新型コロナ拡大以降、航空会社に取って稼ぎ頭となっているのが旅客機の床下貨物室を使った「ベリー」と呼ばれる貨物輸送だ。ロサンゼルス線も、当面の旅客と貨物の売上比率について「旅客2、貨物8くらいの売上比率でいければと思う」(西田社長)と、旅客需要回復までは貨物が主役だ。

 「日本や東南アジアとの人流と物流の一大拠点で、ロサンゼルスは1丁目1番地。太平洋を渡る貨物は非常に需要が高い」と、貨物の拠点でもある成田とロサンゼルスを結ぶことが、在留邦人の多さに加えてロサンゼルスを最初の就航地とする背景にあった。

 また、コロナで多くの航空会社が路線拡大を見合わせていることも追い風になった。「ロサンゼルスは巨大な空港でたくさんのターミナルがあるが、JALと同じトムブラッドレー国際ターミナルに乗り入れる」と、多くのフルサービス航空会社(FSC)の国際線と同じターミナルになったことで、安価な運賃ながら空港の利便性はFSCと遜色ない。

成田で「際際接続」も

 北米の今後の候補となる都市はどこだろうか。「カナダから米国の西海岸側で、日本やアジアのコミュニティーがあるところ」(西田社長)と、日本のLCCである以上、日本人相手のビジネスが成立しつつ、バンコクやシンガポールからの乗客を成田経由で北米へ送客するビジネスモデルも視野に入れている。

横断幕で成田発シンガポール行きZG53便の就航を祝うZIPAIRの西田社長(中)ら。アジア路線と北米路線をつなぐ計画も進む=21年9月7日 PHOTO: Yusuke KOHASE/Aviation Wire

 「自社便の乗り継ぎをしやすくする準備を進めている」と、成田でアジア路線と北米路線を乗り継ぐ「際際接続」をしやすい環境を整備していく。

 もう一つが機体稼働時間の最大化だ。ZIPAIRでは、理論上は1機当たり最大21時間飛ばすことが可能とみており、現状は平均約15時間ほど。成田からロサンゼルスまでは約10時間で、これに近いフライト時間の就航地ではカナダのバンクーバーなどが該当する。

 現在の機材は787-8を2機運航中で、3号機(登録記号JA824J)が12月下旬に就航する見通し。いずれもJALが運航していた機体で、年度内には4号機がJALから転籍して就航する計画になっている。新造機も発注済みだが、ボーイングの製造上の問題により、引き渡しが遅れているが、2022年度中に5号機と6号機を受領する見込み。年2機ずつ増機して2024年度には10機体制を目指す。

 旅客需要の回復後は、就航地を闇雲に拡大するよりは、現在週3往復の路線を週7往復(1日1往復)のデイリー化を進める考え。その上で、1機で往復運航できる規模の路線を中心に新規就航を目指すようだ。

関連リンク
ZIPAIR

初便
ZIPAIR、成田-ロサンゼルス就航 LCC初の太平洋路線(21年12月25日)

ロサンゼルス就航へ
ZIPAIR、成田-ロサンゼルス12/25就航 LCC初の太平洋横断(21年11月12日)

3号機
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シンガポール就航
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なぜZIPAIRはシンガポール就航を決めたのか(21年7月26日)

機内の動画(YouTube Aviation Wireチャンネル
ZIPAIR 787-8 JA822J機内公開 フルフラットシートも

写真特集・ZIPAIR 787-8の機内
(1)フルフラット上級席ZIP Full-Flatは長時間も快適
(2)個人用モニターなし、タブレット置きと電源完備のレカロ製普通席
(3)LCC初のウォシュレット付きトイレ

グループLCC3社の事業説明
ZIPAIRは台北、春秋航空日本は省都へ 特集・売上1000億円狙うJAL系LCCの戦略(21年7月4日)
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JAL、劣後債で1500億円調達 条件決定で(21年10月6日)
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