経済産業省は、2022年度予算の概算要求でドローン(無人航空機)や空飛ぶクルマといった「次世代モビリティ」の社会実装に向けた実現プロジェクトに38億円を新たに要求した。事業期間は2022年度から2026年度までの5年間で、2025年開催の大阪関西万博での空飛ぶクルマの活用や事業化を目指す。
—記事の概要—
・大阪万博が当面の目標
・154兆円の市場規模
・街のあり方も変わる
大阪万博が当面の目標
ドローンも「空飛ぶクルマ」と呼ばれるeVTOL(電動垂直離着陸機)も、次世代の航空機という点では一緒だが、航空法では明確に区別されている。機体の構造上、人が乗ることができないものが「無人航空機」で、ドローンやラジコン、農薬散布用ヘリコプターなどが該当する。空飛ぶクルマは航空法上は「航空機」に該当し、パイロット(操縦者)が乗らなくても飛行できる装置を持つ「無操縦者航空機」とされている。
空飛ぶクルマはヘリコプターと比べて部品点数が少ないことから整備費用が安く、複数機の自動操縦を1人で管理することも可能なため、運航費用も抑えられる。経産省では、人口減少に伴う労働力不足や、旺盛な通販需要などによる物流量の増加、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による非接触化を求めることなどで、次世代モビリティが果たす役割は大きいとみており、2025年の大阪万博までに運航を開始できるかがポイントになる。
今回の概算要求では、「(1)性能評価技術の開発」「(2)運航管理技術の開発」「(3)国際標準化」の3つを事業イメージとして描いているが、現時点では(1)と(2)が中心になると、経産省次世代空モビリティ政策室の伊藤貴紀室長補佐は説明する。「2023年が万博の予行演習、2025年の万博で空飛ぶクルマを定期的な輸送に使い、2030年代には操縦者搭乗なしを実現するイメージです」(伊藤氏)と、万博は世界に向けて情報を発信しやすく、目指しやすい目標と位置づけている。
154兆円の市場規模
空飛ぶクルマは、2040年には産業全体で約154兆円の市場規模に成長するとみられ、経産省は空飛ぶクルマの各分野での事業化を海外よりも先行させることで、機体や部品の開発や製造といったモノづくり分野、エアタクシーや物流といった輸送サービスや、自動車の任意保険にあたるような保険などのサービス分野、空飛ぶクルマの通信・管制システムの構築や運営、空飛ぶクルマを活用した都市や商業地開発と行ったインフラ分野で、新しいビジネスで世界市場を抑えられる企業の成長を後押ししていく。
日本政策投資銀行(DBJ)や伊藤忠商事(8001)、日本電気(NEC、6701)、三井住友ファイナンス&リース(SMFL)などが出資し、国内で空飛ぶクルマの機体製造を進めているSkyDrive(スカイドライブ)は、定員2人の機体を開発して2023年の事業開始が目標。国土交通省航空局(JCAB)とも連携し、機体の安全性を証明する「型式証明」取得に向け、機体の設計を進めている。
海外では、トヨタ(7203)が出資する米Joby Aviation(ジョビィ・アビエーション)や、日本航空(JAL/JL、9201)と三井住友海上火災、MS&ADインターリスク総研が出資する独Volocopter(ボロコプター)が実用化に向けた機体開発を進めており、すべてを日本企業が担うのではなく、有望な海外企業と手を組む形で世界シェアを取っていくものだ。
全日本空輸(ANA/NH)やJALも、大阪万博を当面の目標と位置づけ、サービスの本格化に向けた検証などを進めている。
街のあり方も変わる
空飛ぶクルマが実用化されると、離島や中山間地域の物流問題の解決や、急患が発生した際に医師をドクターヘリよりも安価なコストで送り込むことができるようになるなど、陸上輸送やヘリコプターでは解決が難しい社会課題の対応策になり得る。
「点から点の移動で新しいネットワークができれば、街のあり方が変わります。鉄道が通ると駅周辺が栄えるのと同じです」(伊藤氏)と、空飛ぶクルマで人の往来が大都市を経由せずに街と街を直接往来できるようになれば、まちづくりでも変化が期待できるという。
すでに経産省や国交省は、2018年に民間と「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げており、今回経産省が要求した予算は、2023年の事業開始を念頭に、ベンチャーなど民間の参入を促す狙いがある。「専門的な知見を持ったベンチャーが多い領域なので、ぜひ広く参入して欲しいですね」と伊藤氏は期待を寄せる。
2020年10月にオンライン開催された国内最大のIT見本市「CEATEC(シーテック)」では、次世代モビリティをテーマにしたシンポジウムが開かれ、伊藤氏もモデレーターとして参加した。今年も10月21日にシンポが開催される予定だ。
関連リンク
経済産業省
空飛ぶクルマ
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