日本航空(JAL/JL、9201)は9月10日、総額3000億円規模の資金調達を実施すると正式発表した。劣後ローンとハイブリッド社債(劣後特約付社債)を用いることで、財務体質の悪化を避けて資金を調達する。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響長期化に備えるとともに、2023年度以降のエアバスA350-1000型機導入や国内線のレベニューマネジメントシステム刷新などの成長投資、有利子負債の返済資金などに充てる。
—記事の概要—
・5年後から返済可能
・融資枠は「最後のセイフティーネット」
5年後から返済可能
3000億円の内訳は、劣後ローンが最大2000億円、劣後債が1000億円規模となる。いずれも早期返済が可能な条件になっている。JALは2020年11月に公募増資で約1800億円を調達しており、株主価値を希薄化させずに資金を調達する手段として、劣後ローンと劣後債を選択した。
劣後ローンは10日に契約を締結した。借入額が1500億円の「トランシェA」は借入実行日が30日、弁済期日が35年後の2056年9月29日で、期限前の返済は5年後の2026年9月30日から可能。最大500億円の「トランシェB」は実行日が11月30日で減額が可能になっており、実行前に借入額を決める。弁済期日は36年後の2057年11月30日で、期限前の返済は6年後の2027年11月30日から可能になっている。
三菱UFJ銀行とみずほ銀行、日本政策投資銀行(DBJ)、三井住友銀行の4行から調達する。
劣後ローンは金利が高い代わりに返済の優先順位が低く、一部を資本に組み入れられるため、財務の健全性を維持しながら資金調達できるメリットがある。格付機関によるる資本性評価は、格付投資情報センターが「クラス3、資本性50」、日本格付研究所が「中、50%」を予定。取得格付は格付投資情報センターがBBB、日本格付研究所がBBB+を予定している。
劣後債は1000億円規模で、10月中旬ごろの発行を予定。発行規模や条件はこれから詰めるが、償還期限は37年後で期限前償還は7年後から可能になる。
格付機関によるる資本性評価は、格付投資情報センターが「クラス3、資本性50」、日本格付研究所が「中、50%」を予定。取得格付は格付投資情報センターがBBB、日本格付研究所がBBB+を予定している。
みずほ証券と三菱UFJモルガン・スタンレー証券、大和証券、BofA証券、SMBC日興証券の5社が主幹事を務める。
融資枠は「最後のセイフティーネット」
JALの木藤祐一郎財務部長は10日、今回の資金調達について、「手元資金の確保やさらなる長期化への備えといった守りのファイナンスと、中期経営計画で定めた施策を着実に実行するための成長投資や長期の投資資金を確保する攻めのファイナンス」と攻守両面での調達だと説明した。
JALの機材計画は、国内線の大型機はエアバスA350型機に統一し、国際線はボーイング777型機をA350に更新。ファーストクラスを持つ長距離国際線機材である777-300ERの後継機となるA350-1000を、2023年度から欧米路線に投入する。A350は標準型のA350-900を国内線に17機、長胴型のA350-1000を国際線に13機導入する計画で、A350-900は10号機まで受領しており、今年度末までに15号機が納入され、2022年3月時点で14機が稼働している見込み。
777全体では就航から20年以上経過している。A350に置き換えると燃費や騒音を抑えられるが、経年機となった777は整備コストなど日常的なコストが増加傾向にあるため、機材更新を計画通り進めた方が、更新を遅らせるよりも運航コストを抑えられると判断している。
JALはこのほかにオプション(仮発注)でA350を25機購入する契約を結んでおり、8月には中型機767の後継機を2030年までに導入する方針を示している。
木藤部長は、オプション分や767後継機の資金は「もう少し先と認識しており、今回は入っていない」と述べ、今回の資金調達は確定発注分のA350-1000を念頭に置いたものだとした。
キャッシュバーンについては、4-6月期は1カ月あたり約100-150億円で、前年同期の約450-500億円から大幅に改善。一方、7-9月期は緊急事態宣言の延長により、想定を下回るとみられる。木藤部長は「8月のお盆は想定より良くなかった。国内線は当初想定より厳しいが、貨物が想定を上回っており、コスト削減も進んでいる」と語った。
また、未使用のコミットメントライン(融資枠)の3000億円は「最後のセイフティーネットで、使わない状態が一番良い。状況が悪化しても運転資金は切らさない」(木藤部長)とし、当面行使する計画はないとの考えを示した。
一方、今期の業績予想については未定のままとした。
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