「より速く、より安く、より広いパーソナルスペースを実現するだけでなく、エンジンを後方に搭載することで客室の騒音を低減し、ジェット機のような体験を提供する」。エンブラエル民間航空機部門のアルジャン・マイヤー社長兼CEO(最高経営責任者)は、同社が検討している次世代ターボプロップ機についてTwitterでこう表現した。
マイヤー氏が明らかにしたイメージイラストによると、マクドネル・ダグラスDC-9型機のようにエンジンが胴体後部に2基ある。DC-9はジェット機だったが、今回エンブラエルが示した機体はターボプロップ機で、エンジン配置を工夫することで客室の静粛性を高める狙いがある。
エンブラエルがこれまで公表してきたターボプロップ機のコンセプトイラストは、既存のエンブラエル175(E175)など「Eジェット」シリーズのエンジンをジェットからターボプロップに換装したようなものだった。エンブラエルは現地時間8月13日の決算発表で新型ターボプロップ機のプロジェクトに言及したが、エンジンメーカーは明らかにしていない。GEアビエーションがターボプロップ・エンジンの開発を進めており、プラット・アンド・ホイットニー・カナダとの競争になる可能性がある。
50-70席クラスのリージョナル機でターボプロップ機の新造機を導入するとなると、エアバスと伊アレニア・アエルマッキが設立したATRが製造するATR42-600(30-50席)かATR72-600(44-78席)に限られる。日本でも天草エアライン(AHX/MZ)を皮切りに、日本航空(JAL/JL、9201)系の日本エアコミューター(JAC/JC)と北海道エアシステム(HAC、NTH/JL)が導入している。
一方、Q400(DHC-8-Q400)などボンバルディアのQシリーズは現在、同じくカナダのロングビュー・アビエーション・キャピタル傘下のデ・ハビランド・カナダ(DHC)がDHC-8のプログラムを取得。2019年にDash-8として再スタートさせたが、今年後半にトロントのダウンスビュー空港にあるダウンスビュー工場を閉鎖する。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束後に生産を再開するとしているが、先行きは不透明だ。
こうした中、エンブラエルは2021年4-6月期(第2四半期)決算で、2018年1-3月期(第1四半期)以来となる四半期利益を計上。同社のターボプロップ機開発は、ボーイングと民間機事業を統合後に乗り出そうとしていたものだ。統合の破談により暗礁に乗り上げていたが、事業化に向けて明るい兆しが見えてきた。報道によると、就航は2027年から2028年ごろになるとみられる。
対するATRは、ATR72-600F貨物機を開発。航空貨物会社フェデックス・エクスプレス(FDX/FX)に2020年12月から引き渡しを始めた。また、ATR42-600のSTOL(短距離離着陸)型ATR42-600Sのプロジェクトを進めており、ニッチなニーズにも応えることでターボプロップ機市場での立場をより強固なものにしようとしている。エンブラエルは客室の静粛性とEジェットの信頼性で、選択肢が限られている市場に参入するのだろうか。
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