ZIPAIRは台北、春秋航空日本は省都へ 特集・売上1000億円狙うJAL系LCCの戦略

By
  • 共有する:
  • Print This Post

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で大きく減少した航空需要。ワクチン接種が進むなど、昨年よりも需要回復につながる要素が増える中、日本航空(JAL/JL、9201)はLCC事業の強化を打ち出し、これまで約5%の出資に留めていた春秋航空日本(SPRING JAPAN、SJO/IJ)を議決権比率で66.7%に高め、6月29日に連結子会社化した。

成田空港に並ぶJALグループLCC3社の(手前から)ジェットスター・ジャパン、春秋航空日本、ZIPAIRの機体=21年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 コロナ後は観光需要やVFR(友人・親族訪問)の回復が先行する可能性が高い。春秋航空日本は中国特化型LCCと位置づけ、JALが100%出資する中長距離LCCのZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)、50%出資するカンタス航空(QFA/QF)系のジェットスター・ジャパン(JJP/GK)の3社で、成田を拠点に異なる市場を取り込んでいく。

 得意分野が異なる3社を統合するのではなく、現地での販売網などの強みをそのまま生かしながら、コロナ後に2割は減るとみている出張需要の落ち込みをLCCでカバーし、新たな旅行需要開拓を目指す。特に、100%子会社であるZIPAIRは、中長距離LCCという日本のLCCでは最初に事業化した領域で、当面は米国西海岸就航が目標となる。

 3社あるJALグループのLCCは、どのような戦略を描いているのか。

—記事の概要—
3社で売上1000億円超
台北含む2路線:ZIPAIR
省都就航で23年度黒字化:春秋航空日本
国内線強化とA321LR:ジェットスター・ジャパン

3社で売上1000億円超

 JALでLCC事業を統括する路線事業本部長の豊島滝三専務は、「国内線の観光需要は、2022年度に100%に戻るだろう。一方で出張などの業務渡航は80%ほどで、立ち上がりが早い観光やVFRの需要はLCCがターゲットだ」と、30日に成田空港で開いた説明会でLCCを重視する理由を述べた。「国際線は2023年にならないとコロナ前の90%に戻らないだろう」と、今後国内線、近距離国際線と順を追って回復していく中で、特に戻りが早いとみられる観光・VFR需要の取り込みを重視する。

成田空港を拠点とするLCC戦略を説明するJALの豊島滝三専務=21年6月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 3社による売上は、2025年度にはコロナ前の2019年度比で約2倍に成長させる。「3社合計売上で4桁億円くらいに乗せて、120億円くらいの利益を出したい。最低利益率の10%はLCCでも確保したい」(豊島専務)と、1200億円程度の売上規模を目指す。豊島専務は「4桁億円の半分くらいはZIPAIR」と、中長距離国際線担う同社を収益源に据える。

 「ホノルルの運賃を見ていただくとわかるが、フルサービス航空会社(FSC)とはまったく違う価格で提供させていただいている。マーケットが違うので、JALでうまくいかないからLCCに任せるというものではない」と、JALの路線をLCC各社へ移管する考えはなく、別の市場として新たな需要を開拓していく。

台北含む2路線:ZIPAIR

 ZIPAIRの路線網は、成田-バンコク、ソウル、7月21日に再開するホノルルの3路線。機材は、JALがこれまで運航していたボーイング787-8型機を同社から2機リース導入しており、2024年度までに10機体制とする。

フルフラットベッドになるZIPAIRの787-8の上級クラス「ZIP Full-Flat」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

貨物が収益源となっているZIPAIR=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 座席数はJAL時代の1.5倍となる2クラス290席で、フルフラットシートを採用したビジネスクラスにあたる「ZIP Full-Flat(ジップ・フルフラット)」が18席、エコノミークラス「Standard(スタンダード)」が272席だ。また、収益源となっている床下貨物スペースは、飛行距離が長いバンコク線で最大20トン程度、ソウル線は同25トン程度積める。

 今後の路線展開について豊島専務は、「機材稼働を上げなければならない。需要の太い短・中・長距離を組み合わせてフル稼働させる」と述べ、稼働を上げるため短距離国際線も混ぜながら路線を拡大していく考えを示した。

 ZIPAIRは今年4月に、台北(桃園)を含む貨物収入が見込めるアジア2路線を9月までに開設する方針を示しており(関連記事)、今年度に導入を計画している3号機と4号機のうち、1機は新造機となり、残る1機は元JAL機になる。

省都就航で23年度黒字化:春秋航空日本

 春秋航空日本は、中国最大のLCCである春秋航空(CQH/9C)の子会社として発足。現在はボーイング737-800型機(1クラス189席)が6機だが、今後3年間は最大9機まで増機し、2023年度の黒字化を目指す。

23年度の黒字化を目標とする春秋航空日本=21年7月2日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 成田空港を拠点として2014年8月1日に就航した春秋航空日本は、国内線は札幌、広島、佐賀の3路線、国際線はハルビン、寧波、上海、南京、重慶、武漢、天津の7路線を開設しているが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で一部路線を運休。運航日も週末の金曜と土曜、日曜に集約している。

 今後は日中間の国際線を中心に路線網を強化。親会社の春秋航空とのすみ分けは今後調整するとし、現在は直行便が就航していないホワイトスポット(未就航地)と成田を結ぶ。河南省の鄭州、河北省の石家荘、湖南省の長沙、安徽省の合肥、江西省の南昌と、人口4000万人から1億人規模の省都への就航を検討していく。

 当初は6機での黒字化を計画していたが、7機以上の体制が不可欠として、モデルチェンジにより新造機の導入が難しくなった737-800の中古機導入を検討していく。

 また、JALグループ入りしたことで、春秋航空日本はJALが2010年の経営破綻後に導入した部門別採算制や、全社員が持つべき価値観や考え方を示した「JALフィロソフィ」の教育などを進める。

国内線強化とA321LR:ジェットスター・ジャパン

 3社の中でもっとも早く就航したジェットスター・ジャパン(JJP/GK)は、9年前の2012年7月3日に就航。国内線17路線と国際線6路線が現在の路線網だが、コロナ影響で国際線はすべて運休し、国内線17路線のみ運航している。

ジェットスター・ジャパンのA321LRの機内(同社サイトから)

 機材はエアバスA320ceo(A320従来型、1クラス180席)が25機だが、うち6機はコロナ影響によりジェットスターグループ内で転用。グループの拠点である豪州で運航することで収益につなげている。

 今後は成田からの国内線を中心としたLCCとしての立ち位置を強化。国際線は需要回復に合わせて再開を検討する。豊島専務は、「少しマーケティング力を上げないといけない」と述べ、国内LCCとして競合するピーチ・アビエーション(APJ/MM)との競争激化に備えたマーケティング強化や、コスト削減といった課題を挙げた。

 受領を延期している中距離国際線への投入を想定したA321LRは、「需要の太い国内線や、距離の長い国際線への投入を予定している。いつ投入するかは経営課題だ」(豊島専務)と語った。A321LRの座席数は1クラス238席で、A320よりも58席増える、当初は2020年から受領を開始し、今夏ごろまでに3機がそろう計画だった。

 2019年11月の発表では、成田空港を発着する札幌や福岡、那覇など通年で高需要の国内線から投入し、国際線に拡大していくとしていた。航続距離が3000キロのA320ceoと比べて2倍近い5500キロになるため、東南アジア全域と中国本土のほぼ全域、インド東部にも就航できるようになる。

 JALグループのLCCとしての同社の役割が再定義される中、本来の用途である中距離国際線への投入時期は現時点で不透明。一方、ZIPAIRの787-8は2クラス290席とA321LRと比べて座席数が2割多いことから、高需要とは言えないものの採算が合う就航地や時間帯の需要開拓型路線への投入といった使い方が考えられる。

  ◆ ◆ ◆

 三者三様といえるJALグループのLCC。結果的にJALの出資比率の高いZIPAIRと春秋航空日本は国際線を担い、もっとも長く運航しているジェットスター・ジャパンが国内線というのが大まかな役割分担だ。一方、ジェットスター・ジャパンが計画していた中距離国際線進出は、残り2社と競合する可能性も出てきた。

 機材稼働をどれだけ高められるかが、LCC事業を成功させる上で大きな要因だ。各社の役割分担に変化が見られる中、新路線をどうすみ分けていくかが注目される。

関連リンク
日本航空
SPRING JAPAN
ZIPAIR
ジェットスター・ジャパン

3社の機体そろえ事業説明
JAL、成田空港にグループLCC3社機そろう 春秋航空日本を子会社化(21年6月30日)

JAL決算と中期経営計画
JAL、国内8割・国際4割回復で黒字化も 21年3月期は最終赤字2866億円(21年5月8日)
JAL、A350-1000は計画通り23年度就航 ZIPAIRも新造機受領へ(21年5月7日)

ZIPAIR
ZIPAIR、成田-ホノルル7月再開 プリクリアランスで自己隔離免除(21年5月27日)
ZIPAIR、アジア2路線開設へ 3号機は今年後半(21年4月7日)
ZIPAIRは787の座席数をどうやって増やしたか JAL機の1.5倍290席、ウォシュレットも(20年1月4日)

春秋航空日本
春秋航空日本、23年度黒字化へ 最大9機体制に(21年7月2日)
春秋航空日本、新社長にJAL米澤氏 株総後に連結子会社化(21年6月10日)
春秋航空日本、新ブランド「SPRING」 21年度黒字化目指す(19年4月10日)
春秋航空日本、JALへ整備委託開始(18年6月7日)

ジェットスター・ジャパン
ジェットスター・ジャパン、国内6路線3月廃止 成田-庄内など(21年1月22日)
ジェットスター・ジャパン、A321LR就航延期 新型コロナで需要減(20年6月2日)

写真特集・ZIPAIR 787-8の機内
(1)フルフラット上級席ZIP Full-Flatは長時間も快適
(2)個人用モニターなし、タブレット置きと電源完備のレカロ製普通席
(3)LCC初のウォシュレット付きトイレ