エアライン, 空港, 解説・コラム — 2021年5月31日 23:59 JST

「シンプルで簡単、格好いいものに」特集・ANA整備士が作った感染防止グッズたち

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 お店のレジなどで、透明なカーテン越しに店員とやり取りするのが日常の光景となって、1年近くが過ぎた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予防対策は空港も例外ではなく、全日本空輸(ANA/NH)では昨春、羽田空港で働く地上係員(グランドスタッフ)が感染予防用フェイスシールドの導入を提案し、市販のカードケースを加工して自作。作り方のマニュアルも用意し、羽田以外の空港でも地上係員たちが自作して数をそろえた。

各地の空港に設置された「飛沫感染防止パネル」を発案・製作したANAベースメンテナンステクニクスの二階堂篤マネジャー=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 そして、羽田空港などのカウンターに設置されたアクリルパネルも、整備士が設計・製作したものだ。ANAグループの機体を格納庫で整備するANAベースメンテナンステクニクスの整備士で、構造整備部の二階堂篤マネジャーが昨年8月に「飛沫感染防止パネル」のコンセプトモデルを考えて製作。これを基に同じ部署の整備士たちが改良を加え、今年1月から羽田と成田、新千歳、中部、伊丹、神戸、福岡、那覇の8空港向けに477個製作した。

 こうした社員の工夫による感染予防策は、利用者の目に見えない場所でも行われている。出発前の機体をスポット(駐機場)で整備するANAラインメンテナンステクニクスでは、現場の整備士が夏場に熱中症にかからないよう工夫したフェイスガードを自作し、オフィスにも感染防止策の一環で、テーブルクロスを加工した飛沫感染防止用の透明なカーテンを設置。スポットでの整備作業の流れをコントロールする「コントローラー」と呼ばれる職種の人たちの感染を防ぐことで、羽田発着便の運航に支障が出ない体制を作った。

 ANAの整備部門では、どのような点に気を配って自作したのか。飛沫感染防止パネルを考案して製作したANAベースメンテナンステクニクスの二階堂マネジャーと、テーブルクロスを加工したカーテンを手掛けたANAラインメンテナンステクニクス羽田整備部の白藤直隆副部長に、製作時のポイントなどを聞いた。

「飛沫感染防止パネル」が設置された羽田空港のANAカウンター=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

—記事の概要—
「シンプルで簡単、格好いいものにしたかった」
劣化や変色に強いテーブルクロス

「シンプルで簡単、格好いいものにしたかった」

 「部品の状態で各空港に送り、保護カバーを外して組み立てられるようにしました」と、ANAベースメンテナンステクニクスの二階堂さんは組立手順をまとめたマニュアルや動画を用意。塩ビ板は傷が付きやすいので、空港で部品を組み立てることで傷が付きにくくした。

羽田空港に設置された「飛沫感染防止パネル」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 設計のポイントは、空港のカウンターは場所により種類が異なるので、どのカウンターでも設置できるようにした。また、カウンターの狭いスペースでも倒れないよう、粘着力のある耐震マットを使って固定するなど、安全性も重視して仕上げた。「シンプルで簡単、格好いいものにしたかったです」と話す二階堂さんは、ANAのロゴをパネル左上に入れるようにし、空気圧で粉末を吹き付けてる「ブラスト」の設備を使ってロゴを刻印した。

 各地の空港のカウンターに設置するためには数を作らなければならないので、二階堂さんは加工用治具も自作。整備士がローテーションで量産できる体制を整えた。試作段階では身近な端材などを活用していたが、数を作る際にはコストが課題になるが、調達部門が航空機用部材と比べて5分の1くらいになるものを探してくれたという。

 最初に8空港向けに477個制作した際は170人ほどの整備士が携わり、約2週間で仕上げた。「切断面のバリ取りは人がやるしかないのですが、整備士ならできる作業です」(二階堂さん)と、空港に設置された飛沫感染防止パネルは、整備士がいる航空会社だからこそできた自作アイテムだった。

シャーリングマシンで材料を裁断する二階堂さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ハンドベンダーで脚部を折り曲げる二階堂さんら=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

アルミシートから作った「飛沫感染防止パネル」の脚部=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ブラストでANAのロゴを刻印=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

「飛沫感染防止パネル」を組み立てる二階堂さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

脚部が塩ビ版をU字型にくわえる形状=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

さまざまな形状のカウンターにも設置できる様にした「飛沫感染防止パネル」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

ANAロゴが入った「飛沫感染防止パネル」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

「飛沫感染防止パネル」の脚部に貼られたANAケアプロミスのロゴ=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

羽田空港に設置された「飛沫感染防止パネル」=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

劣化や変色に強いテーブルクロス

 夏のランプは暑い。40度近くなることもざらで、暑さと戦いながら駐機中の機体の便間整備をこなさなければならない。「非常に暑いので普通のマスクでは呼吸困難になります」と、ANAラインメンテナンステクニクスで羽田の感染症対策を担当している白藤さんは、夏場の整備作業と感染防止策を両立することの難しさにふれた。

ヘルメットに装着する整備士用フェイスガード。両端はベルクロテープであごひもに固定できる=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

整備士用フェイスガードを取り付けたヘルメットを手にするANAラインメンテナンステクニクス羽田整備部の白藤直隆副部長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 関空の整備士の発案で自作のフェイスガードが出来上がり、熱中症対策と感染防止策を両立。ヘルメットのあごひもに固定した際の安定感や、目元を開けることで曇ったり熱がこもらないようにしている。

 これらは濃厚接触にならないガイドラインをクリアしたもので、関空と伊丹で昨年6月ごろ試作。暑さが厳しくなる前に関空から作り方を全国の空港に共有してもらい、羽田では500人分を製作したという。

 「フェイスガードはヒートガンで整形することで、より顔に合う形になるようにしています」(白藤さん)と、整備士たちが装着して違和感がないようにしている。

 白藤さんが羽田で感染症対策を進める上で、重視したのがコントローラーの感染防止だった。ANA最大の拠点である羽田は便数も多いため、コントローラーの人数も多い。現場をコントロールする彼らが万が一感染してクラスターが発生してしまうと、多くのコントローラーが隔離されてしまうことになり、羽田を発着する便の運航に影響を及ぼしかねない。

レイアウト変更前のANAラインメンテナンステクニクスのオフィスに設置されたテーブルクロスを基にしたカーテン=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

テーブルクロスを基に作った飛沫感染防止用カーテンを手にする白藤さん=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 昨年11月ごろ、新型コロナの二次感染が増え始めたことから対策を強化することになった。「ちょっとマズいかなと、レイアウト変更の検討を始めましたが、機器の都合などもありまずはカーテンを配置してからレイアウトを変更しました」(白藤さん)。

 しかし、カーテンで仕切ればいいかというと、そうではなかった。「私たちのオフィスはパソコンが多く、エアコンで室温を下げても暑いほどです。あまり仕切りを増やしてしまうと通気が悪くなるので、透明なカーテンは必要なところだけ配置し、机のレイアウト自体も見直しました」と、白藤さんは説明する。

 この透明なカーテンは、テーブルクロスを白藤さんが加工し、ひもで天井から吊り下げられるようにしたもの。なぜテーブルクロスなのだろうか。「テーブルクロスが劣化や変色がしにくく、透明度がよかったからです。プラ板だと傷がついてしまい、合成プラスチックは変色してしまいます」と、費用対効果が抜群だったのがテーブルクロスだった。

 手軽に入手でき、加工をするにも手間が掛からないことは、感染防止用グッズを自作する上では重要な要素だった。

  ◆ ◆ ◆

 新型コロナの収束時期は依然不透明だ。ワクチン接種も重要だが、こまめな手洗いやマスクの着用といった、基本的な感染防止策を確実に実行することが不可欠なのは言うまでもない。

 そして、社員の創意工夫で生まれた感染防止につながるこれらのツールもまた、不可欠なものになったと言えるだろう。

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