企業, 官公庁 — 2021年4月22日 11:26 JST

北海道大樹町に「宇宙港」 25年までに発射場2カ所、運営会社社長に元ANA小田切氏

By
  • 共有する:
  • Print This Post

 北海道十勝地方の大樹町は4月21日、宇宙ロケットや宇宙船の打ち上げ拠点「スペースポート(宇宙港)」の整備を始めたと発表した。これまでも民間ロケットの発射場を町が管理してきたが、新たに町が筆頭株主となり道内6社と出資する宇宙港の運営会社「SPACE COTAN(スペースコタン)」を20日に設立。全日本空輸(ANA/NH)出身で、エアアジア・ジャパンの社長などを務めた小田切義憲氏が社長に就任した。2025年までに2つの発射場を大樹町が新設し、将来的には大型輸送機や宇宙船などが離着陸できる3000メートル級滑走路を整備する計画で、航空宇宙産業が集積する「宇宙のシリコンバレー」を目指す。

札幌市内でHOSPOについて説明するスペースコタンの小田切義憲社長=21年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 太平洋に接する大樹町は、帯広空港から自動車で40分ほどの距離に位置する。町はアジア初の民間に開かれた宇宙港を目指すとし、「北海道スペースポート(HOSPO)」と命名。町が施設を整備し、指定管理制度でスペースコタンに運営を委託する。国内外のロケット打ち上げ事業者や航空宇宙開発を手掛ける企業、政府や教育機関の窓口は、スペースコタンが担い、空港民営化に近いビジネスモデルで進める。「コタン」はアイヌ語で「集落」を意味し、「宇宙の集落」として大樹町を中心とする宇宙産業のクラスター作りを目指す。

札幌市内でHOSPOについて説明する大樹町の酒森正人町長=21年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 種子島と内之浦に続く、国内3つ目のロケット発射場を持つ大樹町では、2019年5月にインターステラテクノロジズの観測ロケット「宇宙品質にシフト MOMO3号」が打ち上げに成功し、宇宙に到達した。

 衛星製造や打ち上げビジネスの市場は、2019年に約5億2000万円規模だったものが、2025年には約1兆円に成長すると予測されており、500キログラム以下の小型衛星の打ち上げ市場は、2019年の年間350機程度から、2030年ごろには1000機程度に成長するとみられている。

 一方で、世界的に発射場や人工衛星を打ち上げるロケットが不足しており、HOSPOは東と南が太平洋で開けていて人工衛星を効率的に任意の軌道に投入できる地の利を生かし、「十勝晴れ」とも呼ばれる高い晴天率でロケット打ち上げを誘致していく。

 21日に札幌市内で会見したスペースコタンの小田切社長は、「米国では従来NASA(米国航空宇宙局)のロケットで衛星を打ち上げていたが、現在は民間企業が打ち上げており、GtoB(国・自治体と企業の取引)からBtoB(企業間取引)の時代に変わりつつある。宇宙港のビジョンを民間の力で広げていきたい」と語った。

札幌市内でHOSPOの本格稼働をPRする大樹町の酒森正人町長(左)とスペースコタンの小田切義憲社長=21年4月21日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 今後は大樹町が「LC-1」と呼ぶ発射場を2023年、「LC-2」を2025年に完成させる計画。LC-1の整備と並行し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の実験機「飛翔」などビジネスジェットクラスの機体が離着陸できるよう、HOSPO内にある1000メートルの滑走路を1300メートルに延伸する。また、新発射場整備に伴い、現在の発射場は「LC-0」と呼ばれる。

 LC-1の整備には10億円、LC-2は40億円と計50億円の資金が必要。企業版ふるさと納税などを活用していくといい、当面5億円の寄付を集める計画に対し、2020年度は9250万円の寄付が集まった。残りは地方創生交付金の申請を予定している。北海道経済連合会や日本政策投資銀行(DBJ)の試算によると、HOSPOの整備で年間267億円の道内経済への波及効果が見込まれるという。

 また、宇宙港の整備がが日本では始まったばかりのため、先行する米国などと比べて法整備などの課題がある。制度作りが遅れた場合、後発の国や地域との誘致競争に敗れるおそれがある。小田切社長は「宇宙は高度により国土交通省航空局(JCAB)と内閣宇宙開発戦略推進事務局で担当が分かれており、話し合いを進めていきたい」と語った。

HOSPOの滑走路(スペースコタン提供)

HOSPOの新ロケット発射場LC-1(スペースコタン提供)

HOSPOの新ロケット発射場LC-2(スペースコタン提供)

関連リンク
HOSPO
大樹町

「日本人が疑問に感じる部分なくす」新エアアジア・ジャパン小田切CEOに聞く(14年7月6日)
エアアジア・ジャパン、新CEOにオペレーション責任者の小田切氏 岩片氏は会長に(12年12月18日)