エアライン, 解説・コラム — 2021年4月10日 23:55 JST

「今は慣れて頂くことが大事」特集・JALが描くビジネスジェット事業

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 ビジネスジェットというと、どういうイメージを抱くだろうか。ぜいたく品と感じる人もいれば、すでに利用していて必要不可欠と考えるなど、ビジネスジェットとの接点の有無でかなり異なるだろう。日本ではぜいたく批判を浴びる恐れがあるためか、ビジネスジェットを活用していることを明かさない企業が多く、誰もが知っている企業が実はヘビーユーザーだったりするものだ。

 日本の大手航空会社も、自社の国際線とビジネスジェットを乗り継ぐ商品を出発点として、メインブランドであるFSC(フルサービス航空会社)、グループのLCC(低コスト航空会社)に続く新規事業の一つとして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延前からビジネスジェット事業を進めてきた。

JALビジネスアビエーションの紺戸隆介社長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 日本航空(JAL/JL、9201)は、2017年にビジネスジェットの運航を手掛ける仏ダッソー・ファルコン・サービス(DFS)と提携。JALの東京-パリ線とビジネスジェットのチャーターを組み合わせたサービスを始めた。その後、JALは丸紅(8002)とJALビジネスアビエーションを2019年に設立し、チャーターフライトの手配やビジネスジェットの管理、日本を発着するビジネスジェットの運航支援やコンシェルジュサービスなどをスタートさせた。

 JALの場合、ファーストクラスやビジネスクラスで日本から欧州や中東、アフリカへ向かう利用者のうち、JAL便が就航していない都市が最終目的地の人は2017年時点で4割弱にのぼった。ビジネスジェットであれば、移動時間の短縮や柔軟なスケジュールが組める点、セキュリティーや秘匿性の高さが売りだ。

 新型コロナの感染拡大後は、これらに加えて感染対策の一環でビジネスジェットを利用する企業などが増えている。丸紅時代からビジネスジェットに携わってきた、JALビジネスアビエーションの紺戸隆介社長に日本のビジネスジェット事情を聞いた。

—記事の概要—
ホンダジェットで札幌へ
ストレスない現地移動
今は慣れてもらう時期

ホンダジェットで札幌へ

 「丸紅エアロスペースでは、チャーターはビジネスジェットの利便性を知っていただくためにやっていました」と、会長と務めていた同社でのチャーターの位置づけを紺戸社長は説明する。ビジネスジェットを買ってもらうために、まずは見込み客に体験してもらうツールとしてチャーターを手掛けていた。

ホンダジェットでの国内チャーターも手掛ける=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 しかし、日本で営業活動する以上、機体のオーナーが増えるとしても限界がある。「これからはチャーターが主流だろうということで、JALと意見が一致しました。チャーターする方はビジネスジェットの業界がわからないので、JALの名前のほうが安心感があります」と、合弁で立ち上げた狙いを語る。JALビジネスアビエーションの出資比率はJALが51%、丸紅49%としており、会社のロゴには鶴丸が使われている。

 設立時と新型コロナ後で変わった点の一つが、国内チャーターだという。「エアラインや新幹線があるので、設立当時は期待していませんでした。コロナの影響で問い合わせが増えましたね」と、感染対策としてビジネスジェットで国内移動するニーズが、企業や富裕層で高まった。成田空港へ帰国後、地方空港へ向かうといった利用もあったという。

 「サイテーションクラスの機体で、東京と岡山往復で200万円くらいからです。羽田も国内線であれば機体に車を横付けできるので、空港で不特定多数の人と接触することもありません」と、他人との接触を最小限にできるのもメリットだ。「片道100万円と1万円で比べたら当然高いですが、比較する際に安全性や利便性も考慮する必要があります」と、移動手段以外の要素も含めた評価がなされるべきとの立場だ。

 今年2月からは、ホンダジェットを使った一般向けのチャーターサービスも始まった。羽田-新千歳間を日帰りで利用した場合、250万円程度だという。

ストレスない現地移動

 一方で、依然として入国制限の影響を受ける海外へのチャーターはどうだろうか。「昨年は官庁関係以外はほぼゼロでした。海外の入国状況によるので、エアラインと一緒です」と振り返る。

丸紅が扱うガルフストリームG650ER(ガルフストリーム提供)

 コロナ前の利用では、日本から欧米へビジネスジェットで直接向かうよりは、JALの国際線で移動後、米国内や欧州域内で使うビジネスジェットのチャーターを手掛けることが多かったという。

 「定期便のように欠航になったり、手荷物がなくなるといった心配やストレスがありません。いくつかの都市を回る場合は、同じ機体を使うのでかばんを機内に置いておくこともできます」と、自家用車で移動するのと同じような感覚で出張先を巡ることができるのがメリットだ。会議が長引いた場合、出発時間を変更することもできるので、スケジュールも組みやすくなる。

 日本から米国の東海岸へビジネスジェットで向かうと、往復で3000-4000万円はかかるという。これが米国内のみのフライトであれば、機材や目的地にもよるが10分の1程度に抑えられ、ホンダジェットのような小型機であれば20分の1程度にもできる。一度利用した企業の中には、案件によりビジネスジェットのみで海外出張を完結させることを検討し始めているところもあるという。

今は慣れてもらう時期

 紺戸社長は2021年度の見通しについて、入国制限がある程度緩和された場合、企業のトップが徐々に海外渡航を復活させていくのではとみている。企業が社員を海外渡航させるまでには時間がかかるものの、トップ同士の交流は限定的であっても再開が期待される。

「今はビジネスジェットに慣れていただくことが大事」と話すJALビジネスアビエーションの紺戸社長=PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「一度使った方がまた乗ることは期待できます。今はビジネスジェットに慣れていただくことが大事で、いかにいろいろな方に使ってもらうかです」と、2021年度に期待を寄せる。

 また、将来的に現地で飛ばすビジネスジェットにJAL便名が付与できるようになるなどの大きな変化があると、企業の見方も変わるのではないかという。

 日本のビジネスジェット市場については、「今は経済規模で欧米の数%くらいでは。2-3割までいけば、ぐっと広がりますよ」と紺戸社長は語る。

 コロナを契機に、ビジネスジェットが単なる移動手段ではなく、感染対策などリスク管理のツールとして捉えられるようになれば、市場は広がるだろう。

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JALビジネスアビエーション
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