ANAホールディングス(9202)傘下でビジネスジェットの手配を手掛けるANAビジネスジェットは4月9日、報道関係者向けに事業説明会を開いた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で国際線の大量運休が続く中、企業が途上国から駐在員を帰国させたり、工場の再稼働などで現地へ赴任させる際にビジネスジェットを活用するケースが出てきているという。同社の片桐純社長は、設立5年目の2022年度に目標の年商10億円を達成できるとの見通しを示した。
—記事の概要—
・感染対策や赴任需要増加
・ホンダジェットで札幌300万円から
・売上高10億円達成へ
感染対策や赴任需要増加
ANAビジネスジェットは2018年7月2日設立。持ち株比率はANAHDが51%、双日が49%で、自社では機体を保有せずチャーターの手配事業を手掛けている。
新型コロナウイルスの感染拡大前は、ANAの国際線で日本から海外へ向かい、現地でビジネスジェットを利用する「エリアチャーター」が利用状況の約60%を占め、日本から海外の目的地へビジネスジェットで向かう「グローバルチャーター」が約30%、日本国内をビジネスジェットで移動する「国内チャーター」が約10%だった。
しかし、感染拡大後はグローバルチャーターが約50%と半数を占め、エリアと国内が約25%ずつとなった。
片桐社長は、「工場再開による海外へのエンジニア派遣や、定期便が減っている開発途上国から日本への帰国、日本へ帰国後に公共交通機関で移動できないため羽田や成田から北海道や九州への利用などがあった」と、背景を説明した。また、チャーターの成約件数はコロナ前と比べて1割強増えたという。
従来は移動時間の短縮や機密保持といった理由が大きかったが、感染対策としてのビジネスジェット利用が増えているという。移動時間については、空港で専用ターミナルや専用動線が使えることに加え、海外では数時間単位でかかる場合もある乗り継ぎ時間の短縮や、1時間以上かかる場合もある入国審査を15分から30分程度で済ませられ、出張日程によっては1日から2日程度の短縮につながるケースもあるという。
また、入国制限により富裕層の旅行需要が海外から国内へシフトしたことで、ペット連れの旅行や沖縄の宮古島が人気だという。
ホンダジェットで札幌300万円から
ANAビジネスジェットでは、4-5席クラスの小型機としてホンダジェットやセスナのサイテーション・マスタングなどを、8-10席の中型機としてサイテーション・ソブリン、ガルフストリームG280、ボンバルディア・チャレンジャー350など、13席程度の大型機はガルフストリームG650やボンバルディア・グローバル6000、ダッソー・ファルコン7Xを揃える。
利用料金は、エリアチャーターでシンガポールからバンコク、ヤンゴンと移動すると、小型機が約500万円から、中型機だと約600万円から、ワシントンD.C.からボストンを経由してニューヨークへ移動すると、小型機は約150万円から、中型機だと約300万円からとなる。
グローバルチャーターの場合、大型機で往復するケースでは東京-北京間が約1500万円から、東京-ホノルル間が約2300万円から、東京-ロサンゼルス間が約3000万円から、東京-ニューヨーク間が約3600万円から。
日本国内をビジネスジェットで移動する「国内チャーター」の場合、東京-札幌間の往復は小型機が約300万円から、中型機では約600万円から、東京-下地島間は小型機が約700万円から中型機では約1200万円から。
ビジネスジェットジェット利用時もANAのマイルが貯まり、国内チャーターは1旅程5000マイル、エリアチャーターが1万マイル、グローバルチャーターが2万マイルを付与。また、10万マイルを10万円として利用できる。
売上高10億円達成へ
説明会は羽田空港の旧整備場地区で開かれ、ボンバルディアの最新ビジネスジェット機グローバル7500が展示された。同機を扱う双日の航空事業部ビジネスジェット事業課の櫻井洋平課長は、「ガルフストリームG650ERと比べてより遠くへ飛べ、非常に静か。G650ERなどは客室が3つのゾーンだったが4つになり、ベッドルームを2部屋にもできる」と、同クラスでは航続距離がもっとも長かったG650ERと比べて快適性が向上しているといい、Wi-Fiによる機内インターネット接続にも対応している。
「米国国籍機による不定期(チャーター)運送事業のライセンスに加え、ケイマン国籍機をチャーターできるライセンスも取得した。米国だと3人のパイロットで12時間までしか運航できないが、ケイマンのライセンスであればグローバル7500の性能を生かして14時間飛ぶことも可能になった」(櫻井氏)と述べた。
片桐社長は「まだまだ日本マーケットは欧米に比べると小さいが、潜在需要は非常にあると確信している。5年目で10億円(の売上)は間違いなく達成できる」と語った。
一方、国内の地方空港では「ビジネスジェットを利用する際の動線が整備されていないところもある」(片桐氏)と課題を挙げ、国のさらなる規制緩和や空港側の受入強化などを求めた。
主要空港では徐々に施設が整いつつある。羽田空港には、ビジネスジェット専用搭乗施設が2014年9月30日に開業。現在は第3ターミナル北サテライトの西側に新施設を建設中で、7月にもオープンする見込み。国内のビジネスジェット専用ターミナルは、成田空港に「プレミアゲート」が2012年3月31日に開業。首都圏初の専用施設となった。2018年6月15日には、関西空港に「Premium Gate 玉響(プレミアムゲートたまゆら)」がオープンしている。
*写真は10枚。
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