新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、航空会社の大量減便が始まり約1年が過ぎた。乗客や貨物を運ぶ航空運送事業が本業である航空会社だが、機内食やラウンジのカレーを販売したり、客室乗務員をはじめとする社員が自治体や企業に出向するなど、過去最大規模の赤字を記録する中で、生き残りをかけて航空各社はあらゆる施策を打ち出している。
しかし、航空会社も飛行機を飛ばすことに頼り切りのビジネスモデルに対し、コロナ前から危機感を感じており、新規事業開拓をすでに進めている会社も多い。その中でも、航空会社が従来からの知見を生かしやすい領域の一つが、ドローンや空飛ぶクルマといった無人航空機の分野だ。
政府は、2022年度に「レベル4」と呼ばれるドローンの有人地帯での目視外飛行の実現を目指しており、機体の認証や操縦ライセンスといった制度作りも進んでいる。離島や過疎地でのドローンを使った医薬品や日用品配送が、あと1年ほどで実用化されようとしている。
全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は、雷が落ちた航空機の点検など整備作業にドローンを活用する実証実験を2017年2月に実施。その後は離島などでドローンを使った配送実験を重ねてきた。
長崎県の五島列島で今月行った実証実験では、固定翼型VTOL(垂直離着陸)ドローンを初めて使用。飛行中は時速100km前後に達し、離島配送でこれまでのマルチコプターでは課題だった速度や航続距離などの要素について解決を目指している。
ANAHDで次世代事業を模索する「デジタル・デザイン・ラボ」で、ドローン事業化プロジェクトリーダーを務める保理江裕己さんに、これまでの取り組みや将来像を聞いた。
—記事の概要—
・地域社会のインフラに
・「人はミスをするもの」
・空飛ぶクルマと大阪万博
地域社会のインフラに
ANAHDでドローンに対する取り組みが本格化したのは2016年4月。アバターや宇宙といった新規事業領域の一つがエアモビティーで、整備作業へのドローンの活用という本業に近い分野からスタートした。「ANAグループのシステム開発会社やボーイング787型機の機長、整備士など、各分野のスペシャリストが12人ほど集まりました」と保理江さんは振り返る。
保理江さんは総合職技術系としてANAに入社。最初の3カ月は整備の現場で働き、その後はパイロットの運航規定作りや整備の技術企画などに携わり、ドローンプロジェクトに関わるようになった。「787のバッテリー問題も担当し、安全の大事さを改めて感じました」と、会社員人生の修羅場ともいえる業務も経験している。
整備作業でのドローンの活用はいわば本業の業務改革だが、航空機を安全に運航するノウハウを生かせるドローンのビジネスは「配送が1丁目1番地」(保理江さん)と狙いを定めた。
保理江さんは島民が1人しかいない島も含め、全国各地の離島を20カ所ほど巡った。「離島は日本の20年後を先鋭化した感じがします」と、少子高齢化で物流を含むインフラの維持が難しくなり、現在は毎日運航されている離島への船も週1回になってしまうといった事態も起こりうるとして、課題解決手段の一つとしてドローンを位置づけた。
「ドローンを地域社会のインフラにしたい」と話す保理江さんは、「今まではハードが整備されてきましたが、末端は維持できなくなる可能性があります。ドローンはデジタルで道を作るとも言え、日本が置かれている課題解決に合います」と、道路や鉄道の維持が難しくなる地域のインフラになり得るとみている。
「人はミスをするもの」
ANAがドローンにかかわる上でのアドバンテージは、安全運航のノウハウが一番大きいという。「人はミスをするものです。環境が変わるとミスをしがちで、ミスを断ち切る教育やチェックリストが必要です。安全の最先端は、原子力発電所か、航空機か、とも言われており、社会から信用されるために必要です」と、ドローンをインフラにする上で、安全は避けて通れないものだ。
特に市街地など有人地帯にドローンを飛ばすことが現実になると、有人の航空機と同じような安全性が求められるようになる。実際に国は機体の認証や操縦ライセンスなどの環境作りを進めており、これまでよりも無人航空機を飛ばすハードルは高まりつつある。ドローンが離着陸する地上や飛行空域の管理など、安全に飛ばすためには旅客便や貨物便と同じような運航管理のノウハウが重要になってくる。
五島列島で保理江さんたちが固定翼型ドローンを飛ばした際は、プロペラが1基停止した場合も含め、いくつかの飛行ルートを定めていた。「着陸時にゆっくり高度を下げて、向かい風で機体を降ろしていくのは飛行機と一緒ですね」と、使用するドローンが配送に適した大型のものになるほど、航空会社が普段飛行機を運航している状況に近づく。
では、固定翼型ドローンと従来からANAHDが実験してきた多くのプロペラを持つマルチコプターはどう使い分けていくのだろうか。「固定翼型は飛行距離5km以上に向いており、五島にはフィットすると思います」と話していた。
空飛ぶクルマと大阪万博
無人で飛ばす航空機のうち、空飛ぶクルマはドローンと異なり人を運ぶものだ。保理江さんは、「空港に到着後、目的地の手前くらいまで行くエアポートシャトルのようなものを考えています」として、三重県による空飛ぶクルマの実証実験にANAHDは参画している。
空飛ぶクルマはドローンよりも機体が大きくなるため、ヘリポートのようなものが必要になる。2022年度にドローンのレベル4が実現すると、次のマイルストーンは2025年の大阪万博ではないかと保理江さんは考えている。
「会場の夢洲(ゆめしま)は交通手段が限られているので、航空による移動が手助けになるかもしれません」と、先端技術を実用化する上で課題解決にもつながる大阪万博は目標に適しているという。
2016年のドローンプロジェクト始動から4月で5年。ドローン配送の実験を重ね、レベル4実現に向けた法整備なども進む今、ANAHDにとって次のターゲットは、空飛ぶクルマの実用化が視野に入る2025年の大阪万博と言えそうだ。
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全日本空輸
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