エアライン — 2021年3月22日 23:20 JST

路線計画で何を重視? JALと東大、中高生向けワークショップで“ベスト”探る

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 社会に出ると、正解は一つとは限らない──。日本航空(JAL/JL、9201)と東京大学生産技術研究所(東大生研)は、中高生向け体験学習「飛行機ワークショップ」を共催している。5回目を迎えた今回は、航空会社の路線計画をExcelで体験する「路線シミュレーター」や、ディスパッチャー(運航管理者)の仕事を疑似体験する時間を設け、問題を解決する際に何を重視するかを参加者に考えてもらうようにした。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、今回は飛行機ワークショップでは初のオンライン開催となり、ビデオ会議システム「Zoom」を使用した。中学生クラスは3月14日に開かれ、高校生クラスは翌週21日に開催した。14日は、東京や大阪などの中学生55人が参加し、事前課題として用意されたExcelファイルの路線シミュレーターで、「ベスト」な航空路線を考えた上で当日を迎えた。

Excelシミュレーターについて説明する本間准教授

 多くの人が利用できる案や航空会社が多くの収入が得られるなど、利用者と航空会社双方の目線で、何を「ベスト」とするかで、中学生たちはさまざまなプランを披露。大人たちが驚くようなものもみられた。

—記事の概要—
利用者目線と会社目線
路線を作っている人、すごい
3案から代替案選ぶ
自分の才能発揮する場ある

利用者目線と会社目線

 ワークショップは午前が東大生研、午後がJALのパートで、路線シミュレーターを使った講義は午前に開かれた。シミュレーターは、都市環境数理工学を研究する東大生研の本間裕大准教授と、地域の公共交通などを研究する長谷川大輔特任助教が、数理モデルを用いて開発。使い方を本間准教授がビデオで解説し、参加者向けにYouTubeに公開した。

国内10空港を活用して「ベストな」路線を提案

 シミュレーターをExcelで開くと、羽田-新千歳線や羽田-小松線、伊丹-松山線、福岡-那覇線など、あらかじめ決められた10路線が表示される。路線ごとに便数を設定し、機材の種別を大型機と小型機の中から選ぶと、「お客様目線」と「会社目線」の2つの見方で路線計画が評価される。

 「お客様目線」では、「移動できたお客様」「平均の移動時間」「待ち時間」「平均の乗継回数」が評価軸となり、会社目線は「運賃による収入」「座席の利用率」「必要な機材数」「小型機の数」が示された。

 「移動できたお客様」は総需要として定めた約3万7000人のうち、何人が搭乗できたかを示し、平均移動時間など残り3項目は飛行機に乗れた人が移動に要した平均時間などを表わしている。

 「運賃による収入」は乗客が払った運賃の総額で、座席の利用率は搭乗率と言い換えられるもので、教材として成立させるために実際の路線計画をシミュレーションするものよりは簡素化しているが、実際に挑戦してみるとゲームのように楽しめるものだった。

 利用者を最大限移動させる立場に立つか、はたまた経営効率至上主義に走るのか。「社会とのバランスを取る難しさを学んで欲しい」と、本間准教授は話す。

路線を作っている人、すごい

 路線シミュレーターの使い方を解説する中で、本間准教授は航空会社のビジネスモデルを説明。拠点となる大空港に各地から集まる「ハブ・アンド・スポーク(HS: Hub and Spoke)」と、各地を直接結ぶ「ポイント・ツー・ポイント(PP: Point to Point)」を挙げ、双方のメリットやデメリットを説明しつつ、いずれか一つだけでは課題解決が難しいことを参加した子供たちに説いた。

ハブ・アンド・スポークとポイント・ツー・ポイントについて説明する本間准教授

 例えばJALは2020年3月時点で、国内62空港127路線を運航しており、仮に62空港をPPで結となると1891路線も必要になってしまう。そこで、拠点となるハブ空港をいくつか設けた上で、最適な接続を検討していくほうが、効率良く運航できるようになる。JALも拠点は羽田空港だけではなく、伊丹など大都市の空港も活用しており、さらには機材の大きさによってグループの航空会社とすみ分けを図ることで、運航コストも抑えている。

 そこで、HSとPP、大型機と小型機といった要素をどうバランスを取るかを、自分のアイデアだけではなく一緒に学ぶ参加者の考え方から気づいてもらうのも今回の狙いで、4人の参加者が発表する時間を設けていた。

 学校の勉強が世の中にどう役立っているのかに関心があり、参加したという中学2年の女子は、まず全便を大型機で運航するようにし、移動できる人の比率を100%にしてから、便数や機材を調整していた。「満席近いと居心地が悪い人もいて、空席が多いと非効率。乗り継ぎによって、その地域に興味を持つ人もいるかもしれません。実際に路線を作っている人はすごいです」(女子)と感想を話していた。

 将来は航空機メーカーに進みたいという中学2年の男子は、すべて大型機で運航するパターンとHSに徹するパターン、HSとPPを組み合わせた改善案の3つのモデルを作って比較。「全部大型機にしてしまうと、利用率が25%前後になってしまいました。1日2便以上ある方が、日帰りができて便利」と、利用者が使いやすいプランになるかも重視して考えていた。

必要な路線数について説明する本間准教授

 4人の発表を聞いた本間准教授は「大学のゼミのようだ」と、中高生による本気のシミュレーションや、自分のシミュレーション結果をわかりやすく発表する姿を高く評価していた。

 また、数学によるアプローチにより、人間がやらないような解決策が見えてくることもあるといい、数学が社会問題の解決に役立つことにも触れていた。

3案から代替案選ぶ

 午後からは、JALのパイロットやディスパッチャーが講師役を務め、悪天候で着陸できるかの判断が難しい場合に、何を重視してどういう対応策をとれるかを参加者たちは学んだ。学校のテストと違い、社会に出ると必ずしも決まった答えがあるとは限らない。参加者には答えよりも考え方を学んで欲しいというのが、JAL側の狙いだった。

鹿児島空港へ着陸できない場合の代替案

 参加者には、ディスパッチャーとしてパイロットに必要な情報を提供したり、悪天候で目的地へ着陸できない場合に考えられる代替案を選んでもらった。想定便は羽田発鹿児島行きJL643便で、春休みのため子供が多く乗っており、鹿児島空港は雨により先行する他社便がゴーアラウンド(着陸復行)したという設定になっていた。

 悪天候により、JL643便が目的地の鹿児島空港へ着陸できない場合、参加者に3つの案の中から代替案に適していると感じたものを選んでもらい、その理由を聞いた。3つの案は、A案が鹿児島空港に最大3回着陸を試みるもの、B案が天候回復を30分待ち、鹿児島空港への着陸が1回だけできるもの、C案は鹿児島空港へ向かわず晴れている福岡空港へ向かうものだった。

 福岡へ着陸した場合、到着後に陸路で鹿児島へ向かう必要が出てくる。このため、子供が多いという条件を考慮し、鹿児島空港へ着陸する案を選ぶ参加者も目立っていた。

 しかし、鹿児島空港へ着陸を試みる場合、残りの燃料の問題や天候が回復しなかった場合にどうするかという問題が出てくる。また、B案のように30分待ってから着陸する場合、同じ機体を使って運航する鹿児島発の便が遅延するという問題も生じてしまい、選択する案のメリットとデメリットを考えた上で、何を重視するかで答えが変わってくることを体験してもらった。

自分の才能発揮する場ある

東大生研の本間准教授=21年3月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 「予想よりはるかにまじめに取り組んでくれました」と、ワークショップを終えた本間准教授は喜んでいた。Excelの限られた機能で、中高生に興味を持ってもらえる形にするのは大変だったようだ。

 今後発展させるとした場合、どういった要素を加えてみたいかを尋ねると「今回ボツにしたのがアライアンスでした」と、需要の奪い合いが生じた際にアライアンスを組んだり、カードゲームのようなゲーム性を持たせることもやってみたいという。

 JALパートを担当した運航本部運航基準技術部の佐藤泰斗さんは、ディスパッチャー経験者。「航空会社というと、パイロットや客室乗務員といった仕事がメインですが、自分の才能を発揮する場が航空会社はいろんなところにあると伝えたいです。論理立てて判断し、相手に話す子には適した仕事だと思います」と話していた。

 同じく運航基準技術部から参加した猪端沙希さんは、「知らない世界を知ってもらいたいですね。今回参加した子供たちにも、そういえば昔こんな話があったなと、何か残るといいですね」と、進路を選ぶ際などに役立てて欲しいという。

 これまでのJALと東大のワークショップでは、羽田の格納庫見学などが座学とセットだった。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、今回はオンライン開催となったが、YouTubeを活用して事前学習に力を入れた参加者であれば、従来とは違った学びの場になっただろう。

JALの猪端さん(左)と佐藤さん=21年3月14日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

関連リンク
日本航空
東京大学生産技術研究所

JALと東大、中学生向け航空教室(16年9月26日)

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