川崎重工業(7012)は10月22日、ロボットを使用した移動式PCR検査システムを開発し、報道関係者に公開した。従来の検査で必要だった手作業をロボットで無人化することで、作業員が新型コロナウイルスに感染するのを防ぐ。また、これまでの検査よりも判定時間を短縮でき、多くの検体を検査できるようになる。サービス導入は年明けをめどに開始し、各空港会社や自治体などと調整を進める。
—記事の概要—
・80分で検査結果
・「ロボットは密状態でも問題ない」
・検体運送、PCR測定に210分
80分で検査結果
感染リスクが伴う行程をロボットが担い、無人・自動化を実現。これまで各工程で必要だった人力の作業を無人化することで医療従事者の安全を守り、検体受付から80分以内で検査結果を通知することができる。1時間あたりの処理能力は384検体で、従来の検査方法と比べると大幅に増える。
検査システムは40フィート(約12メートル)コンテナにパッケージ化。トレーラーで運送し設置する。コンテナ内にはおよそ10機のロボットを配置し、試薬調製や核酸抽出、遠心分離などのPCR検査に必要な工程を進める。稼働時間を16時間とした場合、1コンテナで2000検体検査できる。検査の個人負担額は1万円程度を想定する。
利用者は受付後、検体を採取。鼻腔や唾液から採取した検体はベルトコンベアでシステムに搬送し、検査を進める。検出データは遠隔地の病院に転送され、待機している医師がデータを基に陰性・陽性を判断し、待機場所にいる利用者のスマートフォンなどに通知する。陰性と判定した場合はそのまま出国でき、陽性や疑わしいと判断された場合は、タクシーなど提携の交通機関で病院へ向かう。
開発には臨床検査機器を手がけるシスメックス(6869)と、川重とシスメックスが共同出資するメディカロイド(神戸市)も協力。新型コロナの感染が拡大した今年4月ごろから共同で進めた。ロボットは汎用(はんよう)で、既製のものを活用し、検体をつかむハンド部分とシステムを新たに開発した。
成田と羽田、関西の国際3空港を中心に、出国前検査への導入を目指す。また空港のほか、五輪などの各種イベント会場などでも使用できる。ロボット台数の増減により検査所数にも応じたシステムを構築できるほか、汎用品ロボットの利用により工程変更が容易なことから、新型コロナ以外のインフルエンザなど各種感染症にも対応できる。
「ロボットは密状態でも問題ない」
移動式PCR検査システムの開発は社内にある複数の「カンパニー」をまたぎ、社長直轄のプロジェクトとして進めている。社長直轄プロジェクト推進室の辻浩敏室長は同システムについて「国際線で使うことを想定している。成田と羽田、関西の主要3空港以外もターゲットとしている」と述べ、海外の主要空港への提案にも意欲を示した。
システム導入による無人化で、医療従事者が感染するのを防ぐ。従来の検査方法では検体の採取や核酸抽出など、人の手が必要な工程が多い。システムでは、ロボットが正しく動いているかチェックする作業員はいるものの、実作業はロボットが担う。辻室長は「ロボットは密状態でも問題ない」と感染リスク軽減をアピールした。
同プロジェクトでは、医療崩壊から医療従事者を守るのと同時に、経済復興に向けた人々の流動促進も目指す。
検体運送、PCR測定に210分
従来のPCR検査は、96人分の検体を一括処理している。空港で唾液や鼻腔から検体を採取後、遠隔地にある検査センターへ運送。成田空港からは埼玉・川越へ、羽田空港からは東京・八王子へ、関西空港からは京都へ運ぶ。
各センターでは、核酸抽出など96人分の検体を人力で不活性化処理する。PCR測定には210分かかる。陸送の物理的時間も要することから、川重のPCR検査システムは大幅な時間短縮が期待できる。
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