日本航空(JAL/JL、9201)は10月15日、最大4人の客室乗務員訓練生が同時参加できる「マルチプレイVR(仮想現実)」を活用した訓練の実証実験を公開した。日本の航空会社では初導入となる技術で、出発前の機内準備に必要な動作や手順などを、個人やチームで訓練できる。
—記事の概要—
・満席の客室でシートベルト確認
・社員向け緊急脱出研修もVR活用
満席の客室でシートベルト確認
マルチプレイVRは、複数の人が同じ仮想空間上にログインできる技術。最大4人まで参加できる訓練の様子は、教官がモニター画面で確認できる。訓練生の動作や行動を視覚的に評価でき、理解促進と知識の定着を図る。訓練生はVR空間の映像を視聴する「ヘッドマウントディスプレー」を頭部に装着して、両手でコントローラーを握り、訓練に参加する。これらのVR機器は持ち運びでき、場所や時間の制限を受けずに訓練できるようになる。
15日に公開した実証実験では、ボーイング777-300型機の国内線仕様機(2クラス500席:クラスJ 78席、普通席422席)の後方エリアを再現。訓練施設の客室を摸したモックアップでは再現しにくい満席状態を再現可能で、客室乗務員が出発後に行う離陸前安全確認の手順を訓練できる。
777-300を再現した仮想空間では、通常通り着席した乗客に加え、シートベルトを着用していない乗客や、座席の背もたれやテーブルを元に戻さない乗客が紛れており、訓練生が正しい声がけができるかを音声認識技術を活用して訓練できる。
また、オーバーヘッドビン(手荷物収納棚)が正しく閉じられているや、ギャレー(厨房設備)の扉やカートを固定するラッチが正しい位置になっているかを触手確認できるようになっており、ドアを開けた際の非常脱出装置の動作を決める「ドアモード」の確認など目視や指さし確認が必要な動作も訓練できる。オーバーヘッドビンなどの触手確認では、コントローラーが振動することで正しい状態になっていることを知らせる。
VRコンテンツは、コミュニケーション・プランニング(東京・千代田区)が開発。音声認識はGoogleのものを採用し、乗客への呼びかけは「お客さま」と訓練生が発すると音声認識がスタートし、「シートベルトをお締めください」「テーブルを元の位置にお戻しください」といった呼びかけが正しくできているかを確認できる。VR空間上の訓練後は確認もれの場面などが動画で流れ、訓練生になぜその動作をしなければならないかを自覚させる。
今回の実証実験は13日から30日まで。今後は訓練対象をる上級クラス「クラスJ」などの前方エリアにも拡大する。将来的には機内火災への対応など、マルチプレイVRの特性を生かした緊急事態の訓練にも対応する計画で、モックアップとVR機器を併用する訓練を構築していく。本格導入が決まった場合、早くても2021年度から2022年度の導入になる見込み。
社員向け緊急脱出研修もVR活用
一方、JALグループ社員を対象にした「緊急脱出研修」は、8月からVR機器による受講を導入。この研修は2016年11月から始めたもので、飛行機に搭乗した社員が緊急事態に遭遇した際、客室乗務員とともに乗客を適切に援助できるよう、緊急事態の知識と対応方法を学び、援助者の重要性を理解させる。
緊急脱出研修では、機内火災などの緊急事態が発生した際、手荷物を持ち出そうとする乗客に荷物を持たずに脱出するよう呼びかけたり、脱出スライドの下で機体から降りてきた乗客を援助する手順、救命胴衣の扱い方などを学ぶ。今回導入したVR研修教材では、客室乗務員向けのものと同じくヘッドマウントディスプレーを装着してコントローラーを持ち、音声認識技術で正しい呼びかけができているかなどを確認する。
これまでは、羽田の整備地区などにある客室モックアップを使用して実施していたため、海外など遠方で働く社員の受講が課題になっていた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で施設利用や人の移動に制限が生じたため、多くの社員にとって受講が難しい状況になっていた。
こうした課題解決に向け、過去にJALのVRコンテンツ制作を依頼した東芝システムテクノロジー(東京・府中市)と開発。場所を選ばずに受講できるVR研修教材を制作した。
緊急脱出研修は、普段の訓練で学んでいるパイロットと客室乗務員以外のグループ社員が対象。VR機器は10台導入し、8月からの2カ月で約1800人が受講した。訓練施設では新型コロナ発生前は月間約500人を受け入れていたが、コロナ後は約60人になっており、今後は施設とVR機器を併用していく。現在は成田と新千歳、福岡の3空港にVR機器を貸し出しており、グループの正社員2万人の受講を目標に掲げる。
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