IATA(国際航空運送協会)は現地時間10月8日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の機内感染事例数を更新し、発生率の低さを裏付ける研究結果を発表した。今年初頭からの世界の乗客数12億人のうち、航空機による旅行に関連して感染した可能性がある事例は0.000004%の44件で、2700万人に1件の割合だった。
IATAのメディカルアドバイザーであるデヴィッド・パウエル博士は「乗客が機内で新型コロナウイルスに感染するリスクは、非常に低いことが明らか。この数字が低く見積もりすぎているとして、90%の事例が未報告だとしても270万人に1件で、極めて安心できる数字だ」と語った。
機体メーカーの欧州のエアバス、米国のボーイング、ブラジルのエンブラエルは、各社の機体をそれぞれ使用して、数値流体力学(CFD: Computational Fluid Dynamic)による検証を実施。研究結果を今回共同で発表した。解析手法には若干の違いがあるものの、各社が実施したシミュレーションによると、機内の空気循環システムにより、客室内の粒子の動きがコントロールされ、ウイルスの拡散が抑制されることが確認されたという。
研究結果によると、航空機の空気循環システム、HEPA(高効率粒子状空気)フィルター、座席の背もたれによる自然な障壁、天井から床へ流れる空気、短時間での空気の入れ替えにより、通常時から機内での感染リスクを効果的に減少させていることがわかった。またこれらの構造的要因に加えて、機内でのマスク着用で感染防止策が強化されたため、客室内で近接して着席することは、ほかのほとんどの屋内環境と比較して安全であることが確認できたという。
IATAは機内環境について、乗客が前を向いて座り、移動することがほとんどなく対面でのやりとりが制限されることや、座席の背もたれが物理的障壁となり、空気が前後に流れることを防いでいる点、空気が天井から床へ流れる設計により、前方から後方に流れることが最小化されていること、客室内に新鮮な空気が大量に入り、ほとんどの機体で空気が1時間に20-30回入れ替わっている点、空気中の細菌やウイルスを99.9%以上除去するHEPAフィルターにより、客室に供給される空気は微生物が入る経路にならないことを挙げた。一方、空気の入れ替えは平均的なオフィスで1時間に2-3回、学校は10-15回だという。
エアバスはCFDを用いて、A320の客室における空気の流れをシミュレーションし、せきの飛沫の動きを調べた。客室の5000万カ所で空気の速度、方向、温度といったパラメーターを変え、1秒につき最大1000回実験した。また、同じ機器を使い航空機内とは違う環境で、数人がそれぞれ1.8メートルの距離を保って実験したところ、オフィスや学校の教室、食料品店などで人々が1.8メートル離れているよりも、機内の座席で隣同士に座っている方が飛沫にさらされる可能性が低いことがわかったという。
ボーイングはCFDを利用し、客室内でせきや呼吸からの粒子がどのように浮遊するかを追跡した。マスクなしの乗客によるせき、マスクありの乗客によるせき、中央席を含む異なる位置の座席に座った乗客によるせき、乗客の頭上の空調の吹き出し口(ギャスパー)が開いている場合と閉じている場合など、さまざまな状況が検証した。企業の会議室などと比較した結果、機内で隣り合って座る乗客は、典型的な屋内環境で2メートル以上離れて立っているのと同じ状況だったという。
エンブラエルはCFDを使い、実寸の客室環境試験で客室の空気の流れと飛沫分散のモデルを検証。異なる機種で、さまざまな位置の座席に座った乗客がせきをした場合の空気の流れを解析した。この結果、機内感染のリスクは極めて低く、発生した可能性のある機内感染の実データに合致していたことがわかった。
IATAのアレクサンドル・ド・ジュニアック事務総長兼CEO(最高経営責任者)は声明で、「航空機メーカーによるCFDを用いた詳細な研究により、機内の設計特徴にマスク着用を組み合わせることで、新型コロナの感染リスクが低い環境が生まれることが示された。これまで同様、航空会社、機体メーカー、航空業界のすべての関係者は、科学と世界的なベストプラクティスに基づいて、乗客と乗員の安全を維持していく」と述べた。
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