全日本空輸(ANA/NH)は、乗客が預けた手荷物をロボットが自動で「バルクカート」と呼ぶ荷車に積み込む様子を、佐賀空港で報道関係者に公開した。国内初の取り組みで、3月に実用化したもの。乗客が預ける荷物の約6割にあたるキャスター付きのキャリーバッグを、自動で積み込む。一方で、マイレージの上位会員の手荷物など、係員が積み込みたい場合は目印になる小型のコンテナボックスをチェックインカウンターからベルトコンベヤーに流すことで手動に切り替わり、自動化と係員による個別対応を低コストで両立させた。
ANAは2019年3月に、佐賀県と連携して佐賀空港を新技術の実験場とする「イノベーションモデル空港」に位置づけた。少子高齢化や人手不足への対応策として、空港の制限エリア内を走る連絡バスの自動運転化に向けた実証実験など、「グランドハンドリング」と呼ばれる空港の地上支援業務の自動化や省力化をグループで進めている。
ANAのオペレーションサポートセンター品質企画部の岡田稔リーダーは、「グラハンは長年人海戦術だった。ロボットを空港の施設を変えずに設置することや、大きさや素材が異なる手荷物を荷崩れしないように積むのが難しかった」と、自動積み込みロボットを実現させるまでの経緯を語った。
今回の公開では、ロボットで自動積み込みした手荷物を搭載したバルクカートを、自動運転のトーイングトラクターで旅客機が駐機しているスポット(駐機場)まで牽引した。ANAによると、一連の工程を自動化した取り組みは、国内では初めてだという。
—記事の概要—
・6割占めるキャリーバッグを自動積み込み
・目印の箱で手動搭載も対応
・2025年に完全自動運転目指す
6割占めるキャリーバッグを自動積み込み
佐賀空港で10月5日に公開された作業は2種類で、1つ目が乗客が預けたキャリーバッグを手荷物仕分場でロボットがバルクカートに自動で積み込む作業。2つ目は、旅客機が駐機しているスポットまでバルクカートを牽引する豊田自動織機(6201)の「トーイングトラクター」が自動運転で走行する様子で、ANAと同社は2019年から佐賀空港で実証実験を進めてきた。
手荷物の積み込みロボットは、搬送装置などを手掛けるメイキコウ(愛知県豊明市)が手掛けた。すでに3月から佐賀空港で実運用に入っており、ANAによると2017年から約3年がかりで導入したという。ロボットによる手荷物積み込みの実用化は、国内では初めて。
乗客がチェックインカウンターで預けた手荷物は、手荷物仕分場に設置した「暗室」と呼ぶ黒い囲いの中で自動積み込みを行う手荷物なのかを判別。フレームで囲った天井に取り付けた吸着式ロボットがキャリーバッグを吸い上げ、バルクカートに積み込む。搭載位置は天井のカメラで識別し、積み込んでいく。
ロボットが搭載しなかった手荷物は、係員が従来と同じ手作業で別のバルクカートに積み込むようにした。
ANAによると、佐賀空港では1便あたり乗客の半数弱が手荷物を預けるといい、その中で約6割がキャリーバッグだという。今回の自動化ではキャリーバッグの積み込みを自動化することに焦点を当て、キャスターの有無などで対象になる手荷物を判別できるようにした。
ロボットが吸着できる重量は最大30キロで、積み込みにかかる時間は1個あたり人の手だと30秒、ロボットだと26秒と短縮できるが、現時点では時間短縮よりも省力化や作業工程の自動化を進めること主眼に置いているという。佐賀から羽田へ向かう便の場合、貨物室に積み込む手荷物は平均25個程度となっている。
6日は羽田行きNH456便(エアバスA320neo、登録記号JA213A、乗客62人)に、31個の手荷物を積み込んだ。このうち、13個がロボットによって積み込まれたものだった。
目印の箱で手動搭載も対応
航空会社が手荷物を扱う上で課題となるのが、マイレージサービスの上級会員が預けた手荷物を到着空港で最初に貨物室から降ろすといった、通常とは異なる対応をどう実現するかだ。
ANAでは、佐賀空港のスタッフと検討を進める中で、中が空洞のコンテナボックスを使い、自動積み込みの停止と再開を切り替えられるようにした。ロボットでタグの読み取り機能などを追加すると数千万円程度のコストが必要になるが、使用するロボットの仕様を活用して、現場の係員に負担がかからない形で実現した。
黄色いコンテナボックスが暗室に流れてくると、ロボットは自動積み込みを停止。その後、コンテナボックスを2つ重ねた青色のものが流れてくると、自動積み込みを再開するようにした。これにより、カウンターの係員はボタン操作などをせず、手動積み込みが必要なときに目印の箱を流せば対応できるようにした。
この機能は、ロボットの画像認識技術を活用して実現。目印としてコンテナボックスを選んだのは、乗客が預ける箱状の手荷物で中が空洞なものが通常はないためだという。目印のコンテナボックスが暗室に流れてくると、箱の高さで自動積み込みの停止と再開を認識できるようにした。
ロボットの画像認識は形状を認識するだけで、色は識別していないという。一方、作業に携わる係員が一目でわかるよう、自動積み込み停止のコンテナボックスは黄色、再開を指示するものは青色にした。
2025年に完全自動運転目指す
ANAでは、グラハンの個別の作業を自動化するだけではなく、手荷物の搭載については仕分場でのバルクカートへの積み込み、バルクカートを牽引するトーイングトラクターの自動運転など、旅客機への搭載までの作業を自動化することを目標に掲げ、グラハンの「Simple & Smart化」を目指している。
佐賀空港で、ANAと自動運転の実証実験を行っている豊田自動織機は、ANAなどが採用しているトーイングトラクターを製造。佐賀で使用しているものは電動で、自車と目的地の位置や周囲の状況を認識し、安全で正確に走行するため技術を複数装備している。
対象物にレーザー光を照射するセンサー「2次元/3次元LiDAR」を使った障害物検知や、車両に搭載したカメラで撮影した路面と予め用意した画像データを比較することで、車両の位置・姿勢情報を取得する「路面パターンマッチング」、GPSによる自己位置推定・誘導機能、自動停止・回避機能を採用している。また、自動運転を管理する「Fleet Management System」と組み合わせて開発し、トーイングトラクターを一体としたシステムで提案していく。
今回は9月28日から10月5日まで、土日を除いて実際の運航便を使い、手荷物積み込みロボットと自動運転トーイングトラクターを組み合わせた形で試験運用を実施。自動運転のコースは、手荷物仕分場を出発して出発便のスポットへ向かい、再び仕分場へ戻る1週約200メートルのコースで最大15キロの速度で走行した。自動運転の区分は、運転席に運転者が座り緊急時などに運転者が操作できる「自動運転レベル3」で行われた。
国土交通省航空局(JCAB)では、2025年までに完全自動運転となる「レベル4」の実現を目標に掲げている。ANAは今後、佐賀のようにトーイングトラクターで牽引する車両が少ない地方空港と、牽引車両が多く、走行距離も長い羽田のような基幹空港では分けて考え、自動運転の導入を検討していくという。
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*写真は23枚。
関連リンク
全日本空輸
メイキコウ
豊田自動織機
九州佐賀国際空港(佐賀県)
佐賀空港(佐賀ターミナルビル)
動画(YouTube Aviation Wireチャンネル)
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