2000年から全日本空輸(ANA/NH)をはじめとするグループ社員の教育を担ってきた東京・下丸子の教育・研修施設「ANAトレーニング&エデュケーションセンター(ANATEC)」が、8月31日に閉鎖された。ANAなどを傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)は、跡地は長谷工コーポレーション(1808)に売却。31日午前10時に引き渡された。2019年4月に運用を開始した羽田空港近くの総合訓練施設「ANA Blue Base(ABB、ANAブルーベース)」へ集約を進めており、作業はほぼ終えている。
ANATECは2000年4月に設立。1981年3月17日に竣工した全日空伊豆山研修所(静岡県熱海市)の大規模改修が迫っていた1990年代後半に建設の話が持ち上がり、都内に人材教育の拠点を設けることになった。
敷地面積は約8500平方メートルで、3階建ての研修棟と8階建ての宿泊棟、2009年3月に増築した4階建てのANNEX棟から成り、宿泊施設はシングルルーム197室、ツインルーム48室(身障者用1室含む)に加え、大浴場やランドリー、懇親会用ラウンジ、カフェテリアなどを備えた宿泊型の研修施設だった。2006年2月には、過去の事故やヒューマンエラーから学ぶ安全教育センター(ASEC: ANA Safety & Education Center)を館内に設け、社外からの見学者も受け入れていた。
ANAグループでは、人材育成や教育の拠点としてANATECを活用してきたが、羽田空港周辺などに点在していたグループの訓練施設を集約するため、京浜急行の穴守稲荷駅近くにABBを建設する計画を2017年5月17日に発表。敷地面積は約3万2800平方メートル、建物面積は約6万500平方メートル、地上8階建てで2019年3月31日に竣工し、同年4月15日から訓練が始まった。
現在はパイロットが訓練に使う海外製フルフライトシミュレーター15台のうち、4台が新型コロナウイルスの影響でメーカーのスタッフが来日できずに移設作業が中断しているが、その他の移転作業はほぼ終えている。ANATECにあった宿泊施設はABBには設けず、近隣のホテルを借りる形に改めた。また、伊豆山研修所の銘板は閉所後にANATEC敷地内へ移されたが、ABBにはレプリカを作成して展示するという。
ANATECの鈴木高行所長は、「新人教育や階層別研修、採用面接などにも使用し、年間でのべ9万5000人が利用していました」と話す。入社すると必ずANATECで研修を受け、その後も入社3年目、6-7年目、管理職昇格という節目の研修がここで行われていた。「同じ釜の飯を食う、という言葉ではありませんが、研修内容によっては首都圏に住む社員も全員宿泊し、懇親会を開いていました」と、宿泊施設があるメリットを生かしていた。
閉館式を開きたかったという鈴木所長だが、新型コロナウイルスの影響で断念。閉館前の8月26日には建物の看板が取り外された。28日に地元の六所神社の神主がANATECを訪れて、神事とおはらいの後に開所当初からまつられてきた神棚が取り下ろされ、この日をもって業務を終了。31日に引き渡しが行われて閉鎖された。
ANATECでの研修は、今年2月24日から28日に開いた新入社員研修が、ANA主催による研修生が来館する形の研修では最後になったという。その後はビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を活用した客室乗務員の新人研修を開く際、講師がANATECの教室を配信スタジオとして使用。7月17日のオンライン研修が、ANATECを使った最後の研修になった。閉館を前に、鈴木所長らはANATEC周辺の草刈りをしたという。
ANATEC閉鎖に先立ち、6月30日には同施設に展示されていた創業時のヘリコプター「ベル 47D-1」の2号機(登録記号JA7008)を、安全や創業時の象徴としてABBに移設している。
ANAのグループ社員が一度は訪れたことがある施設は、ひっそりと20年の歴史に幕を下ろした。
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全日本空輸
写真特集・ANA旧研修施設「ANATEC」
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