総2階建ての超大型機エアバスA380型機を使った遊覧飛行を実施した全日本空輸(ANA/NH)。第1回目は倍率150倍と注目を集め、早くも第2回目を9月20日に実施することになった。新型コロナウイルスの影響で旅客定期便を思うように飛ばせない中、新たな市場を発掘する試みのひとつが、「空飛ぶウミガメ」の意味を持つ「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」ことA380を使った遊覧飛行だ。
8月22日、成田空港第1ターミナルを訪れると、A380の遊覧飛行に搭乗する乗客たちの姿があった。アロハシャツなどハワイを感じる服装の人にはプレゼントがあることもあってか、わずか90分の遊覧飛行というよりは、A380が本来投入されている成田-ホノルル線のチェックインカウンターのような雰囲気だった。
チェックインを終えた乗客にアンケート用紙を持って話を聞く社員たちもおり、ピーチ・アビエーション(APJ/MM)の前CEO(最高経営責任者)、井上慎一氏の姿もあった。ピーチはANAと同じくANAホールディングス(ANAHD、9202)傘下で、2012年3月の就航当時は閑古鳥が鳴いていた関西空港を拠点に、国内初のLCCとして成功を収めた。
—記事の概要—
・直接話を聞くピーチ流健在
・期待値を抑えるLCC、期待を超えるFSC
直接話を聞くピーチ流健在
井上氏は4月1日にANAの専務に就任し、営業部門を統括している。ピーチは「空飛ぶ電車」というキャッチフレーズを掲げ、インスタグラマーとコラボした情報発信をいち早く始めるなど、ANAHDの片野坂真哉社長が今後のFSC(フルサービス航空会社)には、ピーチのような柔軟な発想が不可欠と感じたことによる抜てきだ。
「大阪のおばちゃんに、ディズニーランドに日帰りで行きたいと言われた」。ピーチが初の首都圏乗り入れとなる関西-成田線を2013年に開設した際、井上氏はこう話していた。大阪のおばちゃんの要望を受け、ディズニーランド日帰りを念頭に運航スケジュールを組んだ。
井上氏は時間を見つけてはピーチが乗り入れる関空の第2ターミナルへ足を運び、率直にものを言うおばちゃんたちへのヒアリングを続け、潜在ニーズを探り続けた。学生たちに話を聞くと、深夜の高速バスと比較して利用していることも見えてきた。
今回の遊覧飛行でのアンケートも同様で、その場で話を聞かなければわからないことがあるという。「オンラインで利用者の意見を聞くだけでは、本当のことはわからない」と、井上氏は話す。新型コロナウイルスの影響で空の旅に対する警戒感がある中、あえて家族連れでA380に乗りに来る理由は何なのかを井上氏は知りたかった。
ANAのA380の座席数は4クラス520席だが、初便に搭乗できたのは抽選で選ばれた334人(幼児11人含む)だった。搭乗時に連絡バスを使用することや、フライト時間が1時間半程度であることなどから、60%台の搭乗率になるよう乗客数を抑えた。
一方で、もっとも高価なファーストクラスでも1人5万円。2020年4-6月期の最終赤字が1088億円にのぼった会社の危機的状況を、遊覧飛行だけで救うことは困難だ。しかし、これをきっかけに社内が新しい商品を積極的に提案する雰囲気になれば、旅客定期便の需要が回復するまでの収益源を探る動きの追い風にはなるだろう。
期待値を抑えるLCC、期待を超えるFSC
一方で、課題もある。ピーチの場合はLCCということもあり、意図的に乗客の期待が大きくなりすぎないようにしてきた面もある。「これは仮説だが、(欧州LCC最大手の)ライアンエア(RYR/FR)は期待値が高くなりすぎないようにコントロールしているのではないか」と井上氏はかつて話していた。LCCに過剰な期待をされれば、運航コストの上昇につながるからだ。
しかし、FSCのANAの場合は乗客が求めるものだけではなく、期待を超えたものを生み出すことも求められる。
8年前の就航からピーチでさまざまなイノベーションを実現してきた井上氏。「大阪のおばちゃんに鍛えられた」(井上氏)経験が、日々のコストを考えると収入がゼロに等しい状況下で、ANAにどのような変化をもたらすのだろうか。
関連リンク
ANA FLYING HONUチャーターフライト
全日本空輸
A380で遊覧飛行
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